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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた

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●88


 目を開けると、屈強な男たちが俺の顔を覗き込んでいた。

 しかも寝心地が悪いと思ったら、筋肉で盛り上がった脚に膝枕をされているようだった。


 どうせ膝枕されるなら、女の子の膝枕がよかった……。


 と考えたところで、自分の思考がクシューに汚染されていることに気付き、慌てて頭を振った。

 身体を動かしたことで、俺が覚醒したと判断したらしいマッチョが話しかけてきた。


「おう、起きたか」


「ボスモンスターは……? ダンジョンはどうなったんですか?」


 開口一番そう聞くと、膝枕をしているマッチョがある一点を指差した。

 そこではマーティンやギルドメンバーが、入手したアイテムを仕分けしていた。


「ボスモンスターは、マーティンさんを中心としたベテランメンバーが倒したよ。だからダンジョンは消滅した」


「良かったです」


「応援が到着するまで、たった二人でよく持ち堪えられたな」


 男は二人で持ち堪えたと言ったが、ほとんどの攻撃はマーティンが行なっていた。

 俺はボスモンスターの片目を負傷させたものの、そのあとはずっと逃げ回っていただけだ。

 ……その割には、俺と違ってマーティンはピンピンしているようだが。


「マーティンさんは元気なのに、俺はご迷惑をおかけしてしまって申し訳ないです」


 俺の言葉を聞いた膝枕マッチョは、大声で笑い始めた。


「あっはっは! マーティンさんと比べちゃダメだって。あの人は人間よりもゴリラ側の人だからさ。力も回復力も人並外れてるんだよ」


 ゴリラ側の人。

 文脈からして褒め言葉なのだろうが、すごい単語だ。




 いつまでもマッチョに膝枕をされているのもどうかと思い、ゆっくりと身体を起こした、そのとき。

 遠くから怒鳴り声が響いてきた。


「今なんつった!? もう一度言ってみろ!」


「何度でも言いますよ。僕はもう、あなたにはついて行けません」


 声のする方を見ると、言い合いをしているのはマーティンとルースだった。


「お前にとって『鋼鉄の筋肉』は、その程度の存在だったのか!?」


「僕は『鋼鉄の筋肉』に身も心も捧げてきましたよ。子どもの顔よりも部下の顔を見る時間の方が長いくらいにはね」


 頭に血が上った様子で怒鳴るマーティンに対して、ルースは冷静な口調だった。

 その様子はまるで、何を言われても揺らがないほどに、気持ちが固まっているように見える。


「お前にとっても『鋼鉄の筋肉』が、それほど大切だったということだろう!? お前は結成時に『鋼鉄の筋肉』が何よりも大切だと言っていたはずだ。それなのに、なぜ!?」


「……今の僕にとっては、家族の方が大切なんですよ」


「なっ!?」


 あまりにもきっぱりと言い切るルースに、マーティンは面食らったようだった。


「確かに昔は『鋼鉄の筋肉』が、人生で一番大切なものでした。でも今の僕には、それ以上に大切なものが出来ました。家族です」


 ルースの言葉を聞いたマーティンは、口をパクパクとさせている。

 何かを言い返したいものの、言葉が出てこないのだろう。


「そうなった今、家族との時間を奪う『鋼鉄の筋肉』は、俺にとって枷でしかなくなってしまいました」


「枷……お前、そんな風に思ってたのかよ……」


 絞り出したマーティンの声は、可哀想なほどに掠れていた。


「『鋼鉄の筋肉』の仕事量は、常軌を逸しています。それに新人を大事にするあまり、ベテランメンバーに我慢を強いる場面が多すぎます」


「それは、新人に逃げられたらギルドを大きくはしていけねえから……」


「ベテランメンバーは新人を守って死ねと?」


「んなことは言ってねえだろ。そんな方針を掲げたこともねえし」


 マーティンは否定したが、彼の否定をルースはさらに否定した。


「無意識だったんですね……でも、掲げているんですよ。さっきのダンジョンだって新人を逃がすことを優先せずに、マーティンさんとショーンくんと僕がボスモンスターと戦っていたら、すぐにボスモンスターを倒せていたんですよ」


「新人を逃がしてからでも、無事にボスモンスターを倒せたじゃねえか」


「それは結果論です」


 ルースは静かに言葉を放った。


 確かに俺の掴んだ因果でもボスモンスターを倒せたが、新人が怪我をする代わりにあの場ですぐボスモンスターを倒す未来だってあった。

 ルースに新人を逃す役割を任せず、あの場でルースも一緒に戦っていたら、俺もマーティンも危険な状況に陥ることはなかった。

 ルースの言う通り、今回新人が無傷な上に俺とマーティンが死ななかったからこの選択が正しかったというのは、結果論だ。

 最初からルースを含めた三人で戦っていた方が、俺とマーティンが死ぬリスクは低かったはずだ。


「このまま新人を優先する『鋼鉄の筋肉』に所属していたら、僕は新人を守って死ぬ可能性があります……大切な家族を残して」


「……お前の言いたいことは分かった。新人を優先し過ぎる方針は今後改善する。ベテランメンバーの仕事量も減らす」


「いいえ、マーティンさんは分かっていません。僕にとって『鋼鉄の筋肉』はもう、居たいと思える場所ではないんですよ」


 マーティンは譲歩したが、ルースの決心は変わらないようだった。


「僕は抜けますが、『鋼鉄の筋肉』の、ますますの活躍を祈っています」


 ルースは深々と頭を下げると、去って行った。


「どうしてこんなことに……」


 ユニークスキルを使ってマーティンの願い通りの未来にしたのに、こんな結果になるなんて。





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