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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた

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 また走馬灯だ。

 走馬灯の中の俺は、顔の見えないあの男と一緒に旅をしている。

 前に見た走馬灯では、これからは別行動をしようと言っていたから、これはあの時点よりも前の出来事なのだろう。


「次は温泉のある村に行こうぜ。温泉っていう温かい湯に浸かると、気持ちがいいんだってさ。それに肌がつるつるになったり腰痛が治ったり、いろんな効能があるらしいぞ」


「そんなものがあるのか。すごいな……でも、私利私欲で行き先を決めるのは良くないと思う」


「温泉で肌がつるつるになったら、ショーンも女の子にモテるはずだぜ?」


「だから、そういうのがダメなんだってば」


 男の意見に、走馬灯の中の俺は反対しているようだ。


「どうせ温泉のある村にもいつかは行くんだからいいじゃん。早いか遅いかの違いだろ」


「個人的な理由で温泉を求めて遠回りをするのは問題だって言ってるんだよ。俺たちには目的があるんだから」


 走馬灯の中の俺は、なおも温泉に行きたがる男をなだめようとしているが、男は納得してくれない。


「俺の力があれば一瞬で移動出来るぜ? もちろんショーンも一緒に、さ」


「クシュー、お前そんなことが出来たのか!?」


 走馬灯の中の俺は、相手の男をクシューと呼んだ。

 そしてクシューは俺とは違い、瞬間移動が出来るらしい。


「おう、瞬間移動くらい出来る……っておい、見ろよ。あそこで女の子が困ってる。助けに行こうぜ!」


 クシューは道の先にいる、重そうな荷物を持つ少女を指差した。

 少女は荷物が重すぎるせいか、ふらふらとした危なっかしい足取りだ。


「助けるのはもちろんいいけど、クシューが率先して人助けをしようとするなんて意外かも」


「失礼だな。困っている女の子は助けるべし、って言うだろ?」


「クシューってそんなに殊勝な奴だったっけ?」


 俺の言葉を聞いたクシューは、悪戯っぽい口調で耳打ちをしてきた。


「だって女の子を助けたら、お礼にイイコトをしてもらえるかもしれないだろ?」


「うわあ、お前はお前だったわ」


 走馬灯の中の俺の反応から察するに、クシューはあまり真面目な男ではないのだろう。

 先程も、『目的』よりも温泉に行きたいという自分の気持ちを優先しようとしていた。

 依然としてその目的というのが何なのかは思い出せないが。


「いいじゃん、別に。お礼を強要するわけじゃないんだから。優しい女の子だったら、きっと自分からお礼のキスをしてくれるぜ」


「下心で人助けをするのは良くないと思うけどなあ」


「助けないよりはいいだろ。しない善よりする偽善、ってね」


「一般的にはそうかもしれないけど、俺たちは下心とか私利私欲で動いちゃいけないと思う」


 走馬灯の中の俺がクシューを注意すると、彼は俺の両肩に手を置いた。


「固いこと言うなって。もっと楽しい旅にしようぜ? 下心で人助けをするんじゃなくて、人助けをしたら偶然下心が満たされるんだよ」


「……クシューってチャラいよな。メガネかけてるくせに」


「それはメガネに対する偏見だぞ。というかこれ、伊達メガネだし。まあメガネかけてた方が真面目に見えるってのには同意だけど」


「クシューもメガネに偏見があるんじゃないか」


 メガネをかけているという情報が出た途端、走馬灯の中のクシューの顔にメガネがかかった。

 しかし顔には相変わらずもやがかかっていて、造形は判明しない。


「メガネへの偏見のおかげで、メガネをかけてると女の子ウケがいいんだよ。俺の性格を中和してくれるらしくてさ」


「確かにメガネをかけてるとチャラさが半減するかも」


「だろ? あとは頼りがいがありそうって思われたいから、筋肉もつけたいんだよな。腹筋が割れてた方がモテそうだし。一緒に筋トレしねえ?」


 クシューという男は、行動すべてが清々しいほどにチャラいようだ。

 何をするにも女の子にモテるかどうかを気にしている。


「モテるかはさておき、筋トレはした方が良いかも。鍛えておいた方が死ににくくなりそうだし」


「あー、ショーンはすぐ死ぬもんな……って、メガネの話も筋肉の話もどうでもいいんだよ。早くあの女の子を助けようぜ!」


「分かったよ。あの子、困ってるみたいだしね」


「そう来なくっちゃ。あと温泉では一緒に女湯を覗こうぜ。美女が風呂に入ったら覗くのがお約束束だからな!」


「そんな約束は無いぞ!? ……って、聞いてるのか!?」


 俺の言葉を無視して、クシューは少女に向かって走り出した。


「お姉さーん、荷物重くなーい!? 俺たちでよければ運ぶよー!」


 手を振りながら少女に駆け寄るクシューを、走馬灯の中の俺は溜息を吐きつつ追いかけた。





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