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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた

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●85


 俺がそんなどうでもいいことを考えていると、突然大きな咆哮が轟いた。

 音のする方を見ると、巨大な三つ首のモンスターが俺たちの前に姿を現していた。


 途端にマーティンが苦々しげな顔で舌打ちをした。


「くそっ、ボスモンスターならダンジョンの最奥にいろっての! この探索チームは新人が多いのに、よりにもよって三つ首かよ」


 マーティンはギルドメンバーを自身の後ろに下がらせると、ボスモンスターの前に立ちはだかった。


「ここは俺が食い止めるから、他の者はギルドメンバーを呼んで来い! ルース、新人たちを頼んだぞ!」


「了解しました」


 慣れた様子でとんとん拍子に決まる方針に、新人たちが口を挟んだ。


「いいえ。微力ですが、俺たちも加勢します」


「馬鹿野郎! 俺一人で戦うより、新人を守りながら戦う方が、はるかに難しいんだよっ!」


「…………!」


 マーティンの怒号でやっと事態を把握した新人たちがこの場を離れようとした。

 ……が、ボスモンスターの三つ首のうちの一つがそれを阻む。


「仲間を呼ばせない気か!? 厄介だな!」


 その間も、残りの首がマーティンと戦闘を続けている。

 マーティンは新人に被害が及ばないようにするためか、防戦一方だ。


「マーティンさん。このままではジリ貧です。多少の被害は覚悟して討伐しないと」


「俺だって相手の首が一つだったらそうしてたぜ。でも俺が攻撃に転じたら、その間に別の首が仲間を襲うのは目に見えてるだろ!」


「マーティンさんは、何よりも仲間に怪我をさせたくないんですね? ボスモンスターを倒すよりも、仲間の無事が優先なんですね?」


「当然だろ!」


 本当にギルド長の鑑のような人だ。

 それなら、俺のやるべきことは決まっている。


「ユニークスキルを使って、因果の世界にダイブする」


 ボスモンスターの攻撃を受けないように岩陰に隠れると、全身の力を抜き、ここではないどこかへと意識を飛ばす。

 ぐにゃりとマーティンの姿もルースの姿もボスモンスターの姿も歪んでいく。




 すぐに俺は足元さえ見えない真っ暗な因果の世界に降り立った。

 見えるのは、幾千万の因果の糸。

 糸が絡み合い、繋がり合い、未来へと伸びている。


「マーティンさんの仲間が怪我をしない未来に繋がる糸は……」


 俺は近くにあった糸を一本掴んでみた。

 掴んだ糸は、マーティンとルースがボスモンスターを倒すものの、新人がボスモンスターの攻撃を受けて死亡する未来に繋がっていた。


 次に掴んだ糸は、俺とマーティンとルースがボスモンスターを倒すものの、複数の新人が重傷を負う未来に繋がっていた。


「正直、この未来が妥協点だと思うけど。死ななければ回復できるんだし」


 冒険者としてダンジョンに潜った以上、たとえ新人であろうと怪我をする覚悟は出来ているはずだ。

 それに『鋼鉄の筋肉』では、かなりの人数がダンジョンに潜っている。

 複数人が重傷を負ったとしても、治療をする僧侶もいるし、怪我人を運ぶ人員もいる。


「怪我をするのは痛いけど、致命傷じゃなければどうとでもなる。『鋼鉄の筋肉』にはその環境が整ってる」


 しかしマーティンは、仲間が怪我をしないことを望んだ。

 ボスモンスターの討伐よりも、仲間を優先したいと願った。


 それなら俺は、マーティンの希望に応えるまでだ。


「ボスモンスターを倒す必要は無い。彼の望みは、仲間の無事だ」


 俺はさらに別の糸を掴んだ。

 その糸は…………。


「今は時間が無い。マーティンさんには悪いが、この未来で我慢してもらおう」



 俺は糸を掴んだまま、再び力を抜いた。

 真っ暗な世界に張った糸がぐにゃぐにゃと歪んでいく。


 世界に色が付き、物の形が浮かんでくる。

 目の前では、三つ首のボスモンスターとマーティンが戦っている。


 俺は、現実世界に戻ってきた。





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