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ギルドの中で探索チーム分けが行なわれた。
ダンジョンに入ってからチーム分けが行なわれたのは、各々の実力だけではなく、精神力も見るためだろう。
平常時では強いのに、突発的な出来事にめっぽう弱い人間は多い。
それに人間である以上、コンディションは必ず一定とはいかないものだ。
探索チームは全部で三つ。
俺はマーティンとルースと一緒のチームに分けられた。
「調子はどうだ、ショーン」
「ぼちぼちです」
チーム内に知り合いの少ない俺を気遣ってくれたのか、マーティンが話しかけてきた。
話しかけつつも、モンスターをバッタバッタと倒している。
なおルースは、探索チームのしんがりを務めているようだ。
「ダンジョン内でぼちぼちなら大したもんだ。新人は大抵ビビるか空回りするからな」
「俺、ダンジョンに潜ること自体は初めてではありませんから」
「そうなのか? どこのダンジョンに潜ったんだ? 人数は?」
マーティンは俺が潜ったダンジョンの話を聞きたがった。
勇者パーティーの話は出来ないため、代わりに魔王リディアと一緒に潜ったダンジョンの話をすることにした。
「トウハテ村の近くにあるダンジョンと、さらにその向こうの山にあるダンジョンに潜りました。リディアさんと二人で」
「二人で潜ったのか!?」
マーティンは声を上げて驚いていた。
確かに二人だけでダンジョンに潜る話はあまり聞かない。
ソロ冒険者であっても、ダンジョンだけは助っ人を呼んで潜るのが基本だ。
それが嫌なソロ冒険者はダンジョンに潜ること自体を避ける。
何故ならダンジョン内で問題が起こった場合、一人で潜っていたら外に助けを呼びに行くことが出来ないからだ。
「リディアさんはとんでもなく強いんです。だから二人で潜ったというより、俺はリディアさんにくっ付いて潜っただけです」
「あの小さい子、そんなに強いのか!? 人は見かけによらねえなあ」
「マーティンさんは見た目通りの強さですよね」
片手で軽くモンスターを蹴散らすマーティンを見ながら言った。
この様子なら、ボスモンスターが現れても、いい戦いを見せてくれそうだ。
「自分で言うのもアレだが、俺は強い。強いが……ボスモンスターを前にすると、気合いが入りすぎて周りに被害を出しちまう。そのせいで逃げた新人もいたなあ」
マーティンは困ったような顔で頭をかいた。
きっとマーティンが気合いの入った拳で岩を砕いてしまい、破片が近くにいた新人に当たったとか、そういう類の問題だろう。
勇者パーティーでも戦士がそういったことを引き起こしていた。
ただしパーティー内に魔法使いがいたため、防御魔法によって仲間が被害を受けることはなかったが。
「ギルドに防御魔法を掛けられる魔法使いを入れたらいいんじゃないですか? こう、ムキムキの魔法使いを」
「あっはっは。別に『鋼鉄の筋肉』はマッチョしか入れないギルドじゃねえぜ。ただ魔法使いがいると筋肉が活躍する場が奪われちまうからな。活躍できずに終わったら筋肉が可哀想だろ?」
ギルドメンバーはマッチョじゃなくても良いと言いつつ、筋肉に対する想いが重い。
「攻撃タイプではなくて、支援系の魔法使いはどうですか?」
「支援魔法のおかげで力が増強されたから勝てた、なんて言われたら、筋肉が可哀想だろ?」
やっぱり筋肉に対する想いが重い。
「思えば、魔法使いのいないギルドなのに『鋼鉄の筋肉』が勢力を拡大しているということは、マーティンさんと同じ考えの人がたくさんいるということですよね」
「おうよ。だからこそ同じ志を持つ仲間に、とっておきの勝利をプレゼントしてえんだ。あいつらは俺の、一生の宝物だからな」
マーティンはそう言ってから、急速に照れが襲ってきたのか、目の前に置かれていた宝箱を無言で漁り出した。
すると中からは頑丈そうなゴーグルが出てきた。
「あー、呪いのゴーグルだ。ハズレだな」
呪いのアイテムと聞き、俺はマーティンにゴーグルを見せてほしいと頼んだ。
マーティンは悩みもせず俺にゴーグルを渡してくれた。
ギルドメンバーですらない人間に簡単にアイテムを渡さない方が良いとは思うが、迷わず俺に渡してくれたのはこれが呪いのアイテムだったからだろうか。
呪いのアイテムは換金したところで大した金額にはならないから、たとえ盗まれても痛くはないと思ったのかもしれない。
「えーと、このゴーグルを装着した者は異性からの好感度が劇的に下がる……って、装着するメリットがない!?」
俺は『呪いのゴーグル』の説明文を読んで声を上げた。
「な、ハズレだろ?」
アイテムとしてもハズレだし、俺の求めている呪いのアイテムでもない。
「これ、使う人いるんですか?」
「どうしてもゴーグルが必要になった場合は使うかもしれねえな。そんな場合が、一生のうち一度もやってこない人が多いとは思うが。あとはモテすぎて困ってる人とか」
モテすぎて困っている人なんて、果たしてこの世にいるのだろうか。
贅沢すぎる悩みだ。
…………いや、やっぱりいるかも。
レストランで会ったセクハラ女のような厄介な人にモテても困るかもしれない。
俺は、鼻息を荒くしながら筋肉を触ってくるセクハラ女を思い出し、世界の広さを思い知った。




