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ダンジョンに潜る日はすぐにやってきた。
俺と魔王リディアは呪いのアイテムを探す旅の途中のため、行動が早いのはありがたい。
「さあみんな。これからダンジョンに潜るわけだが、ダンジョン内では団体行動が絶対だ。複数グループに分かれて探索することもあるが、単独行動はしないように」
ダンジョンの前でマーティンがギルドメンバーに向けて、ダンジョンに潜る際の注意点を説明している。
ギルドメンバーたちは黙ってマーティンの言葉に耳を傾けているようだ。
この手の説明は毎回するため、だんだんと適当に聞き流すようになりがちだが、『鋼鉄の筋肉』のメンバーはそうではないようだ。
それだけマーティンには指導者としての力があるということだろう。
「今回初めてダンジョンに潜る新人と武闘大会の参加者たちは、決して前に出過ぎないように。怪我人を最小限に抑えるため、前衛は『鋼鉄の筋肉』のベテランメンバーで固める」
周りを見ると、武闘大会で入賞した参加者のほとんどがダンジョン攻略に参加しているようだった。
顔を把握していないため確かではないが、たぶん優勝者以外の本戦出場者全員がいる。
「モンスターとの戦闘に関しては、この二つの約束さえ守ってくれるなら、自由に行なって構わない。ただし何度も言うが、戦闘に気を取られて単独行動と前に出過ぎることだけはしないように」
武闘大会の参加者と『鋼鉄の筋肉』のメンバーをあわせて、三十人ほどでダンジョンに潜るようだ。
新人もいるという話だが、見た感じ十人は『鋼鉄の筋肉』のベテランメンバーと考えていいだろう。
「ダンジョン内で分からないことがあった場合は、新人だけで勝手な判断はせずに、ギルドメンバーに相談をすること。相談をされて怒るようなメンバーはこのギルドにはいないからな。気軽に質問をするといい」
最後にマーティンは力強く拳を天に突き上げた。
「『鋼鉄の筋肉』がダンジョンを攻略するぞーーー!」
「おおーーーっ!!」
マーティンに続いて『鋼鉄の筋肉』のメンバーも拳を突き上げた。
空気を読んで俺たち武闘大会の参加者も真似をする。
「むさくるしいギルドじゃのう」
ダンジョン前まで見送りに来てくれた魔王リディアが、呆れたように呟いていた。
* * *
ダンジョン内では強いモンスターは前方にいるベテランメンバーが倒してくれるため、後ろに続く新人や武闘大会の参加者たちは雑魚モンスターの相手をするだけで良かった。
そのため列の後ろではダンジョン攻略の緊張感はほぼ無く、遠足のような雰囲気さえ漂っていた。
俺としては『鋼鉄の筋肉』内に特に会話をする相手もいないので、後方でひとりぼっちでいるよりも前方でモンスターと戦っていた方が気が楽だと思い、ずんずんと歩みを早めていった。
すると列の前方付近まで来たところで肩を叩かれた。
「武闘大会でオラの対戦相手だった、ショーンだよなあ?」
肩を叩いてきた相手は、トーナメント戦で闘ったマッチョだった。
「本戦で闘った方ですよね。あのときは気絶してろくに挨拶も出来ず、すみませんでした」
「謝るのはオラの方だべ。あのときは申し訳ながった。オラ、熱くなってやりすぎちまっただ」
あのときは耳栓をしていたためこのマッチョの声は聞こえていなかったが、かなり訛りが強いみたいだ。
きっと遠い地からこの町へやってきたのだろう。
「死なんでぐれて助がった。オラ、人殺しになんてなりたくながったからなあ」
「奇遇ですね。俺も死体にはなりたくなかったです」
冗談めかしてそう言うと、マッチョは申し訳なさそうに何度も頭を下げてきた。
マッチョにペコペコと謝られるのは変な気分だ。
「今のは笑うところだったんですが……恨み言に聞こえちゃいましたかね?」
「申し訳ない。オラ田舎者だがら、都会のジョークには疎いんだあ」
また謝られてしまった。
腰が低いにもほどがある。
「それにしても。あんた、細いのにたいしたもんだ。身体を鍛えだら、もっともっと強くなるはずだべ」
「あはは、簡単に言いますが『身体を鍛えること』が常人には難しいんですよ。どれだけ鍛えたらこんなマッチョになるんですか?」
「オラは元々炭鉱で働いでだがらなあ。鍛えたつもりはないけど勝手にこうなったんだべ」
なるほど。
この訛りマッチョは仕事でマッチョになったのか。
「さーて、この辺で複数隊に分かれて探索を始めるぞー!」
俺たちが雑談をしていると、マーティンの大声が響いてきた。




