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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第四章】 腹筋が割れてた方がモテそう、とあいつが言っていた

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 試合が終わると同時に、素手マッチョが握手を求めてきた。

 逃げ回った腹いせに力いっぱい握ってくるつもりかと身構えたが、そんなことはなかった。

 どうやら素手マッチョは、試合が終わったら互いの健闘をたたえるスポーツマンシップを持つマッチョのようだ。

 これから彼のことは、スポーツマン素手マッチョと呼ぼう。


 俺はリング上に落ちていたあるものを拾ってポケットにしまうと、リングから退場し、リング外に置かれた椅子に座ってぐったりとした。


「これ絶対割に合ってませんって。レストランで皿洗いをする代わりに一食食べさせてくださいって頼んだ方が良かったですって、絶対!」


 近くに魔王リディアはいないが、俺は魔王リディアに向けて文句を言った。

 この武闘大会で闘うなら、その間皿洗いをしていた方が良いに決まっている。

 魔王リディアが武闘大会出場を提案した時点でこのことに気付くべきだった。

 今頃気付いても、後の祭りだ。


「きっと他の参加者たちは、もっと強い奴と闘いてえ!って欲求を満たすためだけに参加してるんですよ」


「そんなこともないと思うよ。Aブロックの参加者なんて酷いものだったからね」


 聞き覚えのある声が、俺の言葉に返事をした。


「ルースさん」


「お疲れ様、ショーンくん。僕の睨んだ通り、君はエンターテイナーだね」


「そうでしたか?」


「そうだとも。純粋な力と力のぶつかり合いのCブロックの試合も観客の反応が良かったが、Dブロックもなかなかだったよ。まあ後半はダレてたけど」


 後半はほとんど俺が逃げているだけだったから、観客が飽きるのも仕方ない。

 全員が素手だったこともあり、かなり地味な闘いだった。


「俺では逃げることしか出来ませんって。武器も無しにあんな化け物には勝てませんよ」


「あー、それはそうかもね。Aブロックの圧倒的強者の彼と、Dブロックの君が素手マッチョと呼んでいた彼は、優勝候補なんだ」


 得心がいった。

 Dブロックの中で、スポーツマン素手マッチョは一人だけ強すぎると思っていた。

 それに俺以外の三人はスポーツマン素手マッチョのことを知っているようで、決して攻撃しようとはしていなかった。

 もしかするとあのスポーツマン素手マッチョは、自分に攻撃をしてこない相手には手を出さないポリシーでもあるのだろうか。

 大剣マッチョに攻撃が当たったことに慌てていたし。


 じゃあ、俺は何で攻撃されたんだ?


 少し考えて、思い至った。

 マントで幕を作って目隠しをしてから矢を放ったとき、きっとスポーツマン素手マッチョの元にも矢が飛んでいったのだ。

 ……下手な小細工をするんじゃなかった。


「君の次の相手は、Cブロックで勝ち残った参加者だね」


「あー、じゃあCブロックの闘いは観ておくべきでしたね」


「僕もそう思うよ。敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うしね。敵を知っているのと知らないのとでは、明確な差がある。君の相手は君の闘いを観ているだろうからね」


「あの、ルースさん。対戦相手の情報を教えてくれませんか? ほら、予選で会場を盛り上げたご褒美として」


「運営側がそんな不公平なことをすると思うかい?」


 ルースは疑問形で発言したが、これは教えてくれないということだろう。

 さすがに運営が一人の参加者に協力するわけはないか。

 ……予選前にはわざと口を滑らせていたが。


「ま、次も頑張って会場を盛り上げてくれると助かるよ」


「……頑張って勝て、とは言わないんですね」


「相手が相手だからねえ」


 ルースは貼り出されたトーナメント表を見た。


「俺の相手、そんなに強いんですか?」


「さて、どうかな。詳しいことは言えないよ」


「……口を滑らせてくれると思ったのに」


「あはは、さすがに対戦相手の武器や戦法を教えちゃったら不公平だからね。教えてもらえないから、君以外の参加者は自分の目で他のブロックの試合を観ていたわけだしね」


 予選を勝ち抜くためだったとはいえ、Cブロックの闘いを観なかったのは痛い。

 歓声や試合中の音からして、強い相手だということは分かるが。


「少なくとも力は強そうですよね。俺とAブロックの細い参加者以外は、みんなマッチョですし」


「そうだね。とりあえず武器破壊は出来るよ」


 俺の感覚がおかしいのだろうか。

 武器は簡単には破壊できないし、そもそも破壊するものでもないと思うのだが。


「ルースさん。一般的に武器破壊は気軽に出来るものではないと思います」


「そんなことはないよ。武器破壊を楽しみに来てる観客は多いからね」


 武器破壊はこの武闘大会の名物だったのか。

 もしかして、参加者が大怪我をしないためというのは方便で、参加者に武器破壊をさせるために使用武器が木製なのだろうか。


「じゃあ、あのスポーツマン素手マッチョさんは、観客の期待に応えていたわけですか」


「彼も君と同じで察しが良くて助かるよ。観客あっての武闘大会だから」


 何だかスポーツマン素手マッチョの好感度が上がる話だ。

 観客を楽しませ、運営を喜ばせ、対戦相手にはスポーツマンシップを発揮し、自分を攻撃してこない弱者を虐めるようなことはしない。

 ファンになりそうだ。


「それはさておき。スポーツマン素手マッチョって呼び名はショーンくんが名付けたんだよね? 長くない? それにネーミングセンス無くない?」


「でも繰り返し言いたくなる名前でしょう?」


 スポーツマン素手マッチョ、優勝するといいな。

 全力で応援しよう。




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