●68
でかでかと「武闘大会」と書かれた看板に近付くと、開催日時が記載されていた。
「ちょうど今日が開催日ですね」
広場には屈強な男たちと、男たちを観に来た客が集まっている。
「ショーンよ。武闘大会に参加して優勝すれば、簡単に金が手に入るのじゃ!」
「優勝が簡単ではないんですよ」
たくさんの参加者のうち、優勝できるのはたった一人だ。
そう簡単にはいかない。
「ショーンは妾が誰か忘れたのか? 妾は泣く子も黙る魔王リディアじゃ」
ふんぞり返る魔王リディアに、看板のとある箇所を指差して示した。
「リディアさん、これを読んでください」
「ふむふむ。参加資格、腕に自信のある男性……なんと!? 男限定の大会とな!?」
その証拠に、広場に集まっている武闘大会の参加者らしき人物は、ほぼ全員が屈強な男たちだ。
筋肉自慢の男たちが密集していて、むさくるしい。
少数いる線の細い参加者は、文字通り肩身が狭そうだ。
「妾はあんな男たちなど指先一つで片付けられるのじゃ」
「リディアさん、これも読んでください」
「ふむふむ。禁止行為、武器の持ち込み及び魔法の使用……なんと!? 単純な力のみの大会とな!?」
いくら魔王リディアが強くても魔法禁止では苦戦する……いや、物理でも指先一つで片付けられるかもしれない。
俺は魔王リディアに滅茶苦茶にされたアドルファスの家を思い出し、考え直した。
どちらにしても魔王リディアが女である時点で参加資格は無いのだが。
「この大会は見世物でもあるみたいですよ。ほら、女性の観客が多いでしょう? 男の筋肉と筋肉がぶつかり合う様子を観に来たんでしょうね」
「そんなものを見て何が楽しいのじゃ」
「楽しいじゃないですか! 男の俺でも、筋骨隆々の男たちが闘う姿には胸が熱くなりますよ! 力を入れる瞬間に存在感を増す筋肉! 弾力で攻撃を跳ね返す守護神のような筋肉! 美しく実用的な筋肉は男のロマンなんです!」
俺が自分に無い筋肉への憧れを熱く語ると、魔王リディアは若干引いているようだった。
「やはりショーンにはそっちの気が……」
「ないですからね!?」
自分に無いものだから憧れているだけで「たくましい筋肉に包まれたい」のような感情は持っていない。
それよりは「自分の身体にもあの筋肉が欲しい」といった方向の憧れだ。
この違いは大きい。
「とにかく、この武闘大会にリディアさんは参加できません。諦めましょう」
「ショーンは参加できるであろう?」
武闘大会への参加を諦めるように勧めると、俺に白羽の矢が立った。
確かに俺には参加資格があるが、参加資格があるだけだ。
「俺では優勝なんか出来ませんよ」
とてもじゃないが、あの屈強な参加者たちの頂点に立てるとは思えない。
一度や二度なら不意打ちで勝てるかもしれないが、優勝するには何回も戦う必要がある。
不意打ちだけでは優勝は出来ない。
「優勝をする必要はないのじゃ」
しかし魔王リディアは俺に優勝を望まなかった。
「と言いますと?」
「これを見るのじゃ」
魔王リディアは看板の、賞品について書かれた箇所を指差した。
「第五位、レストランの食事券……これを獲得しろということですか?」
「そうじゃ!」
魔王リディアは簡単だと言いたげだが、俺では五位も簡単には獲ることが出来ないだろう。
武闘大会は、純粋な闘いの場だ。
一方で俺は、ユニークスキルを使っての不意打ちやからめ手しか自信が無い。
「勇者パーティーでも、自分の身は守れておったんじゃろ? 勝てる勝てる」
「簡単に言いますね!?」
あらためて武闘大会の看板を確認すると、賞金が出るのは優勝者だけで、それ以外は協賛店のチケットや売り物が賞品になっているようだ。
アイテムショップのレアアイテム、宿屋の宿泊券、服屋の無料券、レストランの食事券、筋トレグッズ、花束、文房具セット、タオル、茶碗……。
大会の賞品らしいものから店の在庫処分のようなものまで、よりどりみどりだ。
広場をよく見ると、賞品を出す代わりに協賛店の広告が出ている。
この武闘大会は、地域密着型の催しなのかもしれない。
「まあなんにせよ、参加費は無料じゃ。気楽に闘ってくるとよい。それに武闘大会に出たら、ワイルドなショーンになれるかもしれぬぞ」
「俺に拒否権は無いんですね」
こうして俺は、武闘大会に参加することになってしまった。




