●67
女装をしない代わりに、俺は魔王リディア提案のワイルドな男を演じることにした。
……とはいえ、胸を張りつつ大股で歩く程度のことしか出来ないが。
これでも、何もしないよりはマシだろう。
横で魔王リディアが俺を見ながら笑いをこらえているのは、見ないことにしよう。
「おおー! 大きな町じゃのう」
「相変わらず活気がある町ですね」
しばらく歩いた俺たちは、目的の町に到着した。
町は、過去に勇者パーティーで訪れたときと変わらず、賑やかな様子だ。
誰も彼もが活き活きと働いている。
「大きい町じゃから、アイテムショップも何店かありそうじゃのう」
「ということは、呪いのアイテムが置かれている可能性も高いですね。さっそく見に行きましょう!」
善は急げとアイテムショップへ向かおうとした俺の袖を、魔王リディアが引いた。
「ショーンよ。忘れてはおらぬか」
「何をです?」
「妾たちはまたしても金を持ってはおらぬ」
「……そうでした」
以前ヴァネッサとのクエストで得た報酬は、ヒナトマトのシチューと宿屋で使い切ってしまった。
魔王リディアがダンジョンで得たアイテムはすべてヴァネッサに渡したし、その後は特にダンジョンに潜ってはいない。
「また闇クエストを探さねばなるまい」
「その言い方やめてくださいよ」
魔王リディアの言う闇クエストとは、冒険者ギルドを通さずに受けるクエストのことだ。
双方が納得しているなら、ちょっとした頼みごとということで個人的に依頼を受けても問題はないのだが、魔王リディアは頑なに闇クエストという表現をする。
悪いことをしている気分になるから、言い方を変えてほしい。
「そこの少年、ちょいと待つのじゃ」
「俺ですか?」
俺と魔王リディアが通りを歩いていると、狭い路地の奥からしわがれた声が聞こえてきた。
「そうじゃ。お主には死相が出ておる。より詳しく知りたいなら、この占いおばばが視てやろう」
「大変ですよ、リディアさん!」
俺は隣を歩く魔王リディアに慌てて声を掛けた。
「占いを真に受けるでない」
「そうじゃありません。あの人……キャラ被りしてますよ、リディアさんと!」
しわがれた声はさておき、喋り方が魔王リディアとそっくりだ。
「妾をその辺のおばばと一緒にするでない!」
「その辺のおばばではなく占いおばばじゃ!」
魔王リディアと占いおばばと名乗る老人が、大声を上げた。
「ほら。どっちが喋ってるんだか分からないですよ」
「最高にプリティな妾に向かってなんと失礼な!」
「失礼なのはお前じゃ!」
魔王リディアは機嫌を損ねた様子で、さっさと路地の前を通り過ぎてしまった。
占いおばばも魔王リディアと目を合わせようとしない。
「もう行くぞ、ショーンよ」
「はいはい」
俺も魔王リディアに続いて、占いおばばのいる路地の前を通り過ぎようとした。
するとまたしても占いおばばが俺のことを呼び留めた。
「いいのか、少年。死相が出ておるんじゃぞ」
「うーん、死ぬのって痛いし寒いから好きじゃないんですけどねー…………あれ。死ぬのって痛いし寒い……?」
この世界で、死者蘇生のような奇跡は起こらない。
教会で体力を回復することは出来るが、それも生きている場合だけだ。
死んだら終わり。
命とはそういうものだ。
「じゃあ死ぬのが痛くて寒いって……何?」
「死んだと思ったが、瀕死になっただけだったんじゃろう」
俺がハテナマークを浮かべていると、前を歩いていた魔王リディアが俺の横まで戻ってきた。
「そう、ですよね……?」
「勇者パーティーには僧侶がいたゆえ、死ぬ前に回復されていたんじゃろう」
「そう……なんですかね?」
勇者パーティーでの俺の扱いを考えると、あえて大した回復はせずに瀕死状態のまま放置されていた可能性もある。
死なないギリギリまでしか回復してもらえなかったために、死んだように錯覚したのかもしれない。
「こら。占いおばばを無視するとは何事じゃ。天罰が下るぞ!」
俺と魔王リディアが話し込んでいると、占いおばばが再度俺たちに声を掛けてきた。
「あっ、俺たちお金を持っていないので、どっちみち占ってもらえないんです」
「一文無しの貧乏人か。それを早く言え馬鹿!」
「酷い言われようじゃのう」
俺たちが金銭を持っていないと分かった瞬間、占いおばばは別の通行人に「死相が出ている」と声をかけ始めた。
数撃てば当たる戦法なのだろうか。
「確かに早くお金を稼がないとですね。このままだとアイテムショップはもちろん、レストランにも行けませんから」
「それは一大事じゃ」
闇クエストを探そうとしているのか、魔王リディアが辺りをきょろきょろと見回し、すぐに俺の袖を引っ張った。
「おいショーン、あれを見るのじゃ」
魔王リディアが指差した先は、町の広場だった。
広場にはでかでかと催し物の看板が立てられている。
「なになに……武闘大会!?」




