●66
「実はリディアさんに頼みたいことがあって」
「ほう。妾に頼みごととな」
次の町に到着する前にどうしても魔王リディアにお願いがあった俺は、彼女に向かって拝むポーズをしながら切り出した。
「リディアさんって大きくなったり小さくなったり出来るじゃないですか。あの魔法を俺にも掛けてほしいんです」
「理由次第じゃな」
楽しそうだからとすぐに頼みを聞いてくれるかとも思ったが、魔王リディアにはそのつもりは無さそうだった。
隠すことでもないので、言われた通りに理由を話す。
「次に行く予定の町ですが、勇者パーティーで長期滞在したことのある町で……身バレの危険性が高いんです」
魔王リディアは俺のことを頭のてっぺんからつま先まで眺めてから、訳知り顔で頷いた。
「ショーンは知っておるか? 人は人を見分ける際に、雰囲気で見分けていることを」
「雰囲気で……そうですかね? 顔を覚えているからだと思いますが」
「甘いのう」
俺の回答を聞いた魔王リディアは、ジェスチャーを交えながら解説を始めた。
「たとえば、いつも偉そうに踏ん反り返って煙草をふかしている悪党がいたとする。その悪党が、オドオドした様子で縮こまりながら歩いていても、誰も同一人物だとは思わないものじゃ。他人の空似で済まされてしまう」
「そういうものでしょうか」
「そういうものじゃよ。いつの時代も、人間とは本質を見ない生き物じゃ」
そんな壮大な話をしていただろうか。
魔王リディアは、ときどき主語を大きくする癖がある。
「雰囲気が違えばいいと言われましても……俺はどういう態度でいればいいんでしょうか。勇者パーティーにいるときも今も同じような感じなので」
「ショーンは前よりも堂々としていると思うぞ。飄々とした性格は相変わらずじゃが。しかし、そうじゃな。他人の空似で済ませるほどには変わっておらぬか」
魔王リディアは、また俺のことをじろじろと眺めた。
あらためて凝視しなくても、いつも一緒にいるのだから知っているだろうに。
「ですから、俺にも子どもになる魔法を掛けてほしいんです。このままでは身バレ一直線です」
「残念じゃが、あの魔法では他人を変身させることは出来ぬ。あれは妾専用の魔法なのじゃ」
「そんなあ」
どうやら魔王リディアは変身魔法を掛けるかどうかを検討しているのではなく、俺にどうやって変身魔法を諦めさせるかを検討していたようだ。
俺ががっくりと肩を落とすと、俺の様子を見た魔王リディアは愉しそうに笑った。
「妾に出来るのは、このくらいかのう」
その途端、俯いた俺の顔の横を、長い髪が落ちてきた。
引っ張ってみると、長髪は俺の頭から生えているようだった。
「髪が伸びた!?」
「あとは自分でワイルドな雰囲気を作り出すとよい。普段のショーンはワイルドさの欠片もないからのう。変装するならワイルドがいいじゃろう」
ワイルド。
確かに普段の俺とは縁遠い単語だ。
「……常に骨付き肉を食べながら歩いていたら、ワイルドに見えるでしょうか?」
「ワイルドよりも食いしん坊に見えるじゃろうな」
「ワイルドって難しいですね……でも食いしん坊なイメージも、それはそれで俺とはかけ離れてますよね!?」
いっそ食いしん坊キャラを演じれば変装になるのではないだろうか。
普段の俺は食いしん坊ではないし。
「いや、ショーンは食いしん坊だと思うぞ。特にユニークスキルを使った後は人の倍は食っておる」
あ、そうだった。
ユニークスキルを使うとお腹が減るから、この身体のどこに入るのかと自分でも不思議に思うくらいには食事を摂るんだった。
ということは、食いしん坊キャラを演じても、普段の俺と同じになってしまう。
「それならせっかく髪が長いので、いっそのこと女装をするのはどうでしょう!?」
さすがに性別が変わったら、勇者パーティーで荷物持ちをしていた者と同一人物だとは気付かれないだろう。
女装をするのは恥ずかしいが、身バレを防ぐためなら仕方がない。
幸い俺は細身だから、凝視されなければ誤魔化せるはずだ。
「うーむ。ショーンは細身じゃが、さすがに女と比べると骨格がのう……まあ個人の趣味を妾はどうこう言うつもりはない」
「変装がしたいって話ですよ!? 趣味で女装がしたいわけじゃないですからね!?」
勘違いをされては困る。
あくまでも変装のために女装を提案したのであって、断じてそういう趣味があるわけではない。
「ショーンがしたいのであれば、妾は出来る限り協力するぞ。どんな系統の服装が好みじゃ? 買って来てやろうか?」
「なんでリディアさんは急に耳が悪くなるんですか!? そして協力的!」
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この話から第四章となります。
第三章は女の子たちの話だったので、第四章はマッチョたちの話です。
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引き続き『勇者パーティーを追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~』をよろしくお願いいたします。




