●63 side ドロシー
「約束通り、来たわよ……って、ショーンとリディアは?」
村に、珊瑚色の髪を一つに結った少女がやってきた。
ものすごいタイミングで。
「これはどういう状況!?」
私の操る魔物が、戦士に飛びかかった。
戦士は剣で魔物を薙ぎ払う。
しかし痛覚のない魔物は、剣を恐れずに何度も戦士に向かっていく。
戦士が何度でも立ち上がる魔物と戦っている間に、別の魔物に残りの三人を襲わせる。
勇者は剣で魔物を切り、魔法使いと僧侶は杖を振り回して魔物を追い払っている。
「あいつが、あの狂ったネクロマンサーが、私たちを襲ってるの! もうっ、距離さえ取れれば魔法で吹き飛ばせるのに!」
魔物に手こずる僧侶と魔法使いを狙って、さらに攻撃を重ねる。
一人でも相手の人数を減らせれば、戦闘が格段に楽になるからだ。
「あなたたちは、私の幸せな世界を壊しました。絶対に許しません!」
勇者と戦士によって二匹の魔物が再起不能にされた。
いくら痛覚が無くても、バラバラに切り刻まれては、もう戦えない。
しかしこの村には代わりの魔物がいくらでもいる。
新たな魔物を勇者と戦士に差し向け、僧侶と魔法使いを助けることが出来ないようにする。
「……あたしには、どっちが正しいのか分からないわ」
少女は戦闘を続ける私たちを困惑しながら眺めていた。
勇者たちも私も、突然現れたこの少女に攻撃を当てるようなことはしなかったが、流れ弾が当たる位置にいつまでも突っ立っていられるのは少し困る。
「僕たちは勇者パーティーだ。僕たちの後ろに隠れろ!」
同じことを思ったのだろう勇者が、少女を自分たちの後ろに下がらせようとした。
「勇者である証拠は?」
「この剣は国王に渡された勇者の剣だ」
勇者はそう言いながら、件の剣で魔物を突き刺した。
「あたし、本物の勇者の剣を見たことがないから、それが本物かどうかの判断が出来ないわ」
しかし少女は、勇者の剣とやらを見ながら首を傾げている。
「この状況で疑ってどうするんだ!?」
「うーん……そうだ! この中に合図玉を割った人はいる? これなんだけど」
少女は戦闘中の私たちの前で、呑気に懐からとあるものを取り出した。
取り出されたのは、星空を閉じ込めたような綺麗なガラス玉だった。
「なんだよそれ」
「それ、は……」
あれは、私がもらったヒーローを呼ぶお守りだ。
あのお守りは割ったはずなのに、どうして少女が持っているのだろう。
「その反応、あなたがあたしを呼んだのね!?」
少女は私の元へと歩みを進めた。
「その女は危険だ!」
勇者が少女に向かって叫んだが、少女は構わずに私の元へとやってきた。
そして私の目の前でぴたりと止まる。
「あたしはあなたを助けに来たの。助けを呼ばれたから」
「私を、助けに来た……?」
目の前の少女は信じられないことを言っている。
私を助ける者など、この世のどこにもいないのに。
「その女に近付いたら危ないわよ!?」
「早くこっちに来い!」
少女の後ろでは、勇者パーティーの面々が少女を止めようと叫んでいる。
しかし少女は、その声に耳を貸そうとはしない。
「あたしはあなたを助けたいの」
「私を……?」
「そうよ。助けてほしいから呼んだんでしょ?」
その通り、助けてほしいから呼んだ。
これまでだって、何度も助けを呼んだ。
何度も何度も何度も何度も。
でも一度も助けは来なかった。
それなのに目の前の少女は、私を助けに来たと言っている。
……ずっと待っていた。
私を助けてくれる誰かを、ずっとずっと待っていた。
私以外の村人が死んでも、ここでずっと助けを待ち続けていた。
夢のような平穏で幸せで残酷な世界から、私を救ってくれる、誰かを。
「…………私を、助けて」
喉から漏れた声は、あまりにも弱々しく、村が襲われたあの日の私のもののようだった。




