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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第三章】 困っている女の子は助けるべし、と誰かが言っていた

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●52


 俺たちが話していると、テーブルに夕食が運ばれてきた。

 料理を運んでいるのは、ドロシーと同じ色の髪をした男性だ。

 男性は料理をテーブルに置くと、ドロシーに耳打ちをした。


「やだ、お兄ちゃん。彼はただの旅人よ。もう、惚れてなんかないってば!」


 どうやら彼はドロシーの兄らしい。

 ドロシーはほんのり頬を赤くしながら、魔王リディアを手で示した。


「ほら、可愛い女の子も一緒でしょ? ……だから違うってば!」


 ドロシーはそう言いながら兄の背中を押して、居間から追い出した。


「兄が変なことを言ってごめんなさい。兄は私をからかうのが趣味みたいな人で……お気を悪くされてはいませんか?」


「いえ……構いませんよ。それにお兄さんの声は俺には聞こえなかったので……ご心配なく」


 ドロシーは再び席に着くと、俺たちに料理を勧めた。

 料理は、茹でたじゃがいもだ。

 それを見て、魔物に村が襲われて食料も少ないのに、旅人の俺たちがこの村に宿泊するべきではなかったかもしれないと後悔した。


「兄はすぐに私をからかいますけど、本気を出したら私の方が強いんですよ」


 じゃがいもに気を取られていると、ドロシーが悪戯っぽく舌を出した。


「ドロシーさんは魔法使いですか?」


「少し違いますが、似たようなものです。肉弾戦はしませんので」


「俺も肉弾戦は苦手です。筋肉隆々の相手には手も足も出ません」


 だからと言って魔法や遠距離攻撃が得意かと言うと、そんなこともない。

 つまり戦闘自体が苦手だ。


「ショーンくんは細いですから、肉弾戦では不利でしょうね」


 今さらだが、ドロシーは俺のことを「ショーンくん」と呼ぶ。

 呼ばれ慣れていないせいか、呼ばれるたびに少し照れてしまう。


「なんだか『くん付け』で呼ばれるのはくすぐったいですね。いつも呼び捨てで呼ばれているので」


「私、他人を呼び捨てにするのは苦手なんです。それにショーンくんは私と年齢が近いように見えたので……あの、ショーンさんの方が良かったですか?」


「いいえ。ショーンくんで構いませんよ」


「ショーンくん『で』いいのではなく、ショーンくん『が』いいのであろう?」


 これまで黙っていたくせに、からかうチャンスを察知した魔王リディアが茶々を入れてきた。


「からかわないでくださいよ」


「可愛いおなごに、くん付けで呼ばれて鼻の下を伸ばすとは。ショーンも男の子よのう」


「伸ばしてません! からかわないでくださいってば!」


 俺が魔王リディアに言い返すと、その様子を見ていたドロシーがくすくすと笑い出した。


「私が兄にからかわれているように、ショーンくんはリディアちゃんにからかわれているんですね」


「そうなんですよ。リディアさんってば、隙あらばからかってくるんですよ」


「ふふっ。ショーンくんとの共通点を見つけて、私、ちょっと嬉しいかもです」


 俺とドロシーの共通点。

 身近な人にからかわれている。

 ……共通点があること自体は良いが、この共通点は、嬉しいような、嬉しくないような。


「からかってきますけど、私は兄のことが好きです。きっと兄もそうです。だってドロシーという名前は兄が付けてくれたんですよ。赤ちゃんの私が可愛くて、まるで神からの贈り物みたいだって。ふふっ、シスコンですよね」


「いいお兄さん……ですね」


 きっとドロシーの兄は、妹が出来たことがとても嬉しかったのだろう。

 そして両親は、ドロシーの兄が妹の誕生を嬉しく思う人間に育ったことを喜んだ。

 だからこそドロシーの兄の意見を採用したのだろう。

 ドロシーの名前には、家族の愛が詰まっている。


「ショーンくんの名前は誰が付けてくれたんですか?」


「俺は自分で付けましたよ」


「ショーンくんは面白いですね。名前は誰かに付けてもらうものですよ?」


 世の中には親から名前をもらえない子どもがいくらでもいるが、この小さな村で生まれ育ったドロシーはそのことを知らないのだろう。

 まあ俺は…………俺は?

 俺はどうして自分で自分に名前を付けたんだっけ。

 いや名前を付けた理由は、名前が無いと不便だと感じたからだが……俺に名前が無かった理由は?

 なんだか記憶が抜け落ちている気がする。


「ねえ、ショーンくん。他にも旅の話はありますか? もっと私に聞かせてください」


 答えの出ない疑問に首を傾げていると、ドロシーがまた旅の話をねだってきた。


「じゃあここへ来る直前に出会った、元気な少女の話はどうですか」


「もしかして淡い恋の物語ですか!?」


「いいえ。一緒に巨大グモを倒した話です」


 恋の物語ではないと知ったドロシーは、あからさまにがっかりした様子だった。


「残念です。誰かと恋バナをしてみたかったのですが」


「ドロシーさんは恋バナが好きなんですか?」


 見た目からの憶測だが、ドロシーはそういった話が好きそうに見える。

 恋に恋するタイプというのだろうか。

 きゃいきゃいと恋バナに花を咲かせる様子が目に浮かぶ。


「きっと好きなのでしょうが……好き嫌い以前の問題ですね。この村には私と同じ年頃の村人がいませんから。一番年齢が近いのが兄ですもん。恋バナがしたくても出来ないんです」


「……お兄さんとは、恋バナをしないんですか?」


「兄はすぐに私をからかってくるので、恋バナなんかしてあげません!」


 ドロシーは腕組みをして、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 その様子が可愛らしくて、少しだけドロシーをからかいたくなるドロシーの兄の気持ちが分かったような気がした。


「でも恋バナではなくても、もっとショーンくんのお話を聞きたいです。私、ワクワクする冒険譚も好きなので」


「ワクワクはしないかもしれません。巨大グモはリディアさんがあっという間に片付けてしまったので」


「あーっ、話す前にネタバレしちゃダメですよ!?」


 ドロシーが急いで俺の口を手で塞いだ。


「本当ですね。すみません」


「ふふっ、謝らなくていいですよ。その代わりに聞かせてください。巨大グモを倒した話を」





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