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「キャーーーッ!」
勇猛果敢に巨大グモへと向かって行ったヴァネッサは、蜘蛛の糸に絡まって逆さ吊りになってしまった。
「どうしてそうなった」
あんな引っ掛かり方は狙ってもなかなか出来ない気がする。
その証拠に、魔王リディアはヴァネッサの様子を見て生唾をごくりと飲み込んでいる。
魔王リディアの顔には「こやつやるな」と書かれている。
……もちろん戦闘能力に関しての評価ではないが。
「分かんないけど、こうなっちゃったの! 助けて!」
「なんで俺の周りには痴女が集まってくるんだろう」
「痴女じゃないわよ!」
俺は近くにあった岩を蹴って飛び上がると、必死でスカートを押さえるヴァネッサに絡まっている蜘蛛の糸を、短剣で切った。
五箇所の糸を切ると、蜘蛛の糸から自由になったヴァネッサは蜘蛛の巣から落ちた。
「うわ、わわわ」
さすがに自分で着地すると思ったが、ヴァネッサにその様子が無いので、短剣を地面に落として空いた両手でヴァネッサを受け止める。
「よっ、と」
「……出会って一日でカッコイイことしないでよ」
姫抱きにされたヴァネッサが、顔を赤くしながら呟いた。
「俺、カッコよかったですか?」
「……ちょっとだけ」
「ありがとうございます。ところで重いのでもう降ろしても良いですか?」
「やっぱり今のナシ! あんたは失礼極まりない男だわ!」
なぜか怒りだしたヴァネッサを地面に降ろすと、魔王リディアが地面に転がる短剣を指差した。
「武器を手放したのは減点じゃな」
「その通りですね。すみません」
「あっ、でもそれはあたしが一人で着地できなかったからで、その、ごめんね」
俺が魔王リディアに謝ると、ヴァネッサまで申し訳なさそうに謝った。
感情がころころ変わる人だ。
「武器を手放してまでカッコつけたかったとは、ショーンも男の子ということかのう」
魔王リディアが俺の脇腹を小突きつつニヤけた。
「あはは。でも俺がカッコつけられるのはここまでです。俺ではあの巨大グモは倒せません」
「えっ!? じゃあ逃げるしかないの!?」
そんなわけはない。
ここには魔王リディアがいるのだから。
「リディアさん、お願いできますか?」
「まったく仕方がないのう」
そう言って魔王リディアが髪を耳にかけた。
ヴァネッサはここでようやく魔王リディアが人間ではないことに気付いたらしい。
「あっ、魔物の耳。ということは……」
ヴァネッサが言い終わる前に、魔王リディアが姿を消した。
否、助走も無くものすごいスピードで跳びあがった。
次の瞬間には勝負が決していた。
再び魔王リディアが地上に降りると、巨大グモの身体が真っ二つに切断されていた。
「目を取り出すのはショーンがやるのじゃぞ」
「うそでしょ……」
あまりにも簡単に巨大グモを倒した魔王リディアのことを、ヴァネッサは口をあんぐりと開けながら眺めていた。
そんなヴァネッサを満足そうに見てから、魔王リディアはひらひらと手を振ってこの場から去ろうとした。
「ショーンよ、妾は野暮用ができた。町の入り口付近で落ち合おう」
「じゃあ俺も」
魔王リディアについて行こうとした俺は、魔王リディアに押し戻された。
「何を言っておる。ヴァネッサを一人にして平気なわけがなかろう。こんなに弱いのに」
「事実だけど、直球で言われると落ち込んじゃうわよ!?」
ヴァネッサは自身が弱いことを否定はしなかったが、それでも弱いと言われるのは嫌なようだ。
魔王リディアはヴァネッサに軽く謝ってから、言葉を続けた。
「さすがに通常のヴァネッサがここから町まで戻るだけで死ぬとは思っていない。しかし巨大グモの目を背負った状態では話が変わってくるであろう」
言われて俺は、真っ二つになった巨大グモを見た。
巨大グモには大きな目が六個もあるようだ。
「なるほど。巨大グモの目はたくさんありますからね。持って帰るだけで一苦労ですよね」
「そういうことじゃ。荷物くらい運んであげるがよい」
ここまで言った魔王リディアは、俺に屈めと合図をした。
言われた通りに屈むと、魔王リディアは俺の耳に小声で囁いた。
「妾は、若い男女を二人きりにしてやるくらいの気は回せるつもりじゃ」
「俺とヴァネッサさんはそういうのじゃ……」
「照れるでない。妾が二人きりにしてやるんじゃから、接吻の一つでもするんじゃぞ」
「今日初めて会った人とそんなことしませんからね!?」
「まったく、これだから童貞は」
俺たちがこそこそとやっていると、ヴァネッサが訝しげな目でこちらを見ていた。
感覚的に自分の話をされていると気付いたのかもしれない。
「さっきから二人で何を話してるの? あたしに聞かれるとマズい話?」
「マズいかもしれません。ヴァネッサさんの話なので」
「……そういうのは本人に言っちゃ駄目だと思うけど」
「でも決して悪口ではなく……何と言いますか、本日はお日柄も良く……」
「今さら誤魔化しても遅いわよ」
慌てる俺の背中を、魔王リディアが力いっぱい叩いた。
「では妾は行くぞ。健闘を祈る」
健闘を祈られても……。




