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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る

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●32


「…………」


 何を言えばいいのか、分からなかった。

 励ましの言葉も、慰めの台詞も、薄っぺらいものになる気がした。


「このままここで暮らせればよかったんだが……もう、そうもいかないんだろう?」


「……はい。ヘイリーさんの父親は魔物を殺す、と息巻いていました」


「父さんなら言いそうね。むしろ今までよく我慢したと思うくらいだわ」


「一度は襲撃に来たけどな」


 ヘイリーの父親自身もそう言っていた。

 一度は魔物の家に行ったが、残される妻のことを思ってそれ以降は襲撃に行かなかった、と。

 愛する妻を一人残すことは出来ないから。


「俺が殺されたら、あの子を守れるものがいなくなってしまう」


 アドルファスは布団で眠る赤ん坊を見た。

 その目は慈しみに溢れており、とても危険な魔物には見えなかった。


「だから俺は、死ぬわけにはいかない」


 奇しくもアドルファスの言葉は、ヘイリーの父親の口から出ていた言葉と同じだった。


「だからと言って、本当のことを伝えて家族を村八分にしたくはありません。私は、父のことも母のことも愛しているのです」


 ……なるほど。

 関係者全員の愛が、今の膠着状態を作っているのか。


「私は村に連れ戻されても殺されないと思いますが、子どもは必ず殺されます。もちろん抵抗はするつもりですが……女一人で村の男衆から子どもを守ることが出来るとは思えません」


 魔物に連れ去られ魔物の子を産まされた可哀想な村娘という立場で連れ戻されれば、ヘイリーは再び村に受け入れられるだろう。

 こういったケースの場合、村娘は理不尽な非難を浴びることがあるが、あのアットホームな村ならその心配も無いだろう。


 しかし、赤ん坊は別だ。

 人間と魔物の子どもはこの世界に存在してはいけない、というのが人間と魔物の共通認識だ。

 ヘイリーが何を言おうとも、赤ん坊は村人によって殺されるだろう。


「それなら、今からでも駆け落ちをすれば」


「赤子を連れながら、人間と魔物の両方から隠れての旅が可能だと思うのか?」


 これまで黙って成り行きを見守っていた魔王リディアが口を開いた。


「それは……」


「赤子は泣くのが仕事じゃからのう。だが赤子の泣き声は、魔物にも人間にも居場所を知らせてしまう。赤子が魔物と人間のハーフであることが知られれば、魔物からも人間からも殺される。リスクの高い旅じゃ」


 その通りだ。

 いくら魔物のアドルファスがいるとは言っても、アドルファスにも睡眠は必要だ。

 それに旅の最中は狩りをしなければ食べる物が無い。

 赤ん坊とヘイリーが無防備な状態になるタイミングはいくらでもあるのだ。


「今思えば、無理をしてでも妊娠中に駆け落ちをするべきでした」


「いいや、あの頃のヘイリーはとても旅が出来る状態ではなかった。子どもの父親が俺……魔物だということも関係していたのかもしれない。俺は毎日心配でならなかった」


 人間同士の子どもがお腹にいたとしても、妊娠中は行動に制限がかかることが多い。

 人間と魔物のハーフでは、母体にさらなる負担がかかるのだろう。


 それを思うと、ヘイリーの妊娠中にこの家から移動できなかったことにも頷ける。

 無理をさせて母体に何かが起こっても、頼れる医者もいないのだから。


 それなら…………この家にこもる以外に、彼らに取れる行動はあったのだろうか。

 この先、愛を貫くために、子どもを守るために、彼らに取れる行動はあるのだろうか。




「覚えているか、ショーンよ。赤子を殺すと思われる村人は、昨日お主が善い人だと言った彼らのことじゃ」


 言葉を見つけられない俺に、魔王リディアが静かに告げた。


「彼らは、善い人でした……少なくとも俺にとっては」


 彼らは、旅人である俺たちを家に泊め、料理を出し、お喋りに花を咲かせた。

 その代わりにヘイリーを助けてほしいというお願いはしたものの、俺がヘイリー救出に失敗したとしても責めるつもりはなさそうだった。

 善人であり、どこにでもいる普通の人たちだ。


「では目の前の二人が悪者に見えるか」


「……とても悪者には見えません」


 トウハテ村で話を聞いていた頃は、アドルファスが悪い魔物だと思っていた。

 しかしこうして話をしてみると、アドルファスが悪い魔物には見えない。

 それはアドルファスと恋に落ちたヘイリーに関しても同じだ。


「では産まれた赤子が悪いと思うか」


「まさかそんなわけはありません」


 赤ん坊に罪は無い。

 人間と魔物のハーフとして産まれたとしても、赤ん坊に罪があるわけがない。


 そもそも、愛する相手の種族が自分と違うことに、罪なんか無い。


「……ああ。この件に悪人はいないと、妾は思う。それなのに、このような問題が起こっておる」


 悪人がいないのに、悲劇は起こる。

 ただ愛があるだけで、悲劇が起こる。


「ときとして争いは、悪者不在のまま進行する。愛ゆえに、な」


「……やるせないですね」


「いつの時代も争いとは、実にやるせないものじゃ」


 それならこの世に愛が無ければ…………やめよう。

 愛が無ければ、きっと世界には滅びの未来しか待っていない。





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