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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第二章】 美少女と、善人の村で愛を知る

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●19


「あのー、救世主とはどういうことですか? 俺たちは勇者でも何でもありませんが……」


 俺はついうっかり自分の古傷を抉りながら尋ねた。

 横では魔王リディアが大口を開けて笑っている。


「確かに妾とショーンは、勇者でも、勇者パーティーでもないのう。ワッハッハ」


 突然大声で笑い出した魔王リディアに、村長ともう一人の男は困惑していた。

 慌てて魔王リディアの口を塞ぐ。

 これでは第一印象最悪だ。


「リディアさん、その豪快な笑い方は止めた方が良いですよ」


「……妾の笑い方にケチをつけるとは。相手を自分の好きな姿に変えようとするのではなく、自分が相手のどんな姿でも好きになるように変わる方が、幸せに近付くと思うぞ」


「言っていることはごもっともですが……その笑い方、初対面の人は驚くので……」


 俺たちが二人で話し込んでいると、ハッとした様子で村長が家の中へと招き入れてくれた。


「こんなところで立ち話もなんですから、中へお入りください」




 案内された部屋は、宴会場かと思うくらいに広かった。

 宴会場かと思うくらい、ではなく、実際に村人たちで宴会を開くときはこの部屋を宴会場として使っているのかもしれない。


「さっそく不躾な質問ですが、救世主様は魔物を退治したことがありますか?」


 村長による直球の質問に、ちらりと隣に座る魔王リディアを見た。

 今は休職中とはいえ、魔王リディアは魔物を束ねている王だ。

 仲間である魔物を退治した話など聞きたくはないだろう。


「妾に気を遣う必要はない」


 俺の心を読んだのか、魔王リディアは毅然とした調子で言った。


「……俺は魔物を退治したことがあります」


 俺の言葉を聞いても魔王リディアは眉一つ動かさなかった。

 完璧なポーカーフェイスだ。

 そのことを逆に怖いと感じてしまう。


「おお! やはりあなた方がこの時期に村を訪れたのは、神の采配に違いありません!」


「まさか救世主が現れるとは」


「あの……話が見えないのですが。もしかして、俺たちに魔物退治を頼みたいということですか?」


 魔物を退治した実績があるか尋ねるということは、退治してほしい魔物がいるのだろう。

 軽く見た感じでは、村が襲われている形跡は無かったが。


「実はこの村から少し離れた森の中に魔物の住処があります。住んでいる魔物は一匹のようですが、こいつが厄介でして。村の娘をさらったのです」


「さらわれたのは、俺の娘のヘイリーだ」


 なるほど。話が見えてきた。

 村娘をさらう悪い魔物を退治してほしいということか。


「娘と言ってもヘイリーは二十歳だ。森へ木の実を採りに行って……それっきり……」


 村長ではないもう一人の男、魔物にさらわれた娘ヘイリーの父親は、人目もはばからずおいおいと泣き始めた。


「ヘイリーは俺の血を受け継いでいるとは思えないくらい、よく出来た娘だよ。だから魔物に狙われたのかもしれないが……どうしても魔物の手から救い出してやりたいんだ」


 村長は泣き続けるヘイリーの父親の背中をさすっている。


 そのとき。

 地の底から響くような、聞いただけで鳥肌が立つような、威圧感に満ちた低い声が聞こえてきた。


「村娘が魔物にさらわれた証拠はあるんじゃろうな」


 しばしの間、その場の全員が固まった。

 静かで落ち着いた声なのに、身体中にビリビリと響いてくる。


 蛇に睨まれた蛙のように、指先一つ動かすことが出来ない。

 不用意に動いた瞬間に捕食されると本能が言っている。


 そのまましばらく膠着状態が続いたが、いち早く硬直の解けた俺は、慌てて村長とヘイリーの父親に向かって愛想笑いを浮かべた。


「すみません、失礼なことを言って。なにぶんまだ子どもなもので……」


「あ、あはは。子どもですよね……子ども、ですよね?」


「はい。見ての通り、子どもです」


「そうですよね。可愛らしい女の子……ですよね……?」


 村長は額から冷や汗を流しつつ、何度も確認をしてきた。

 一方でヘイリーの父親の涙は、恐怖で引っ込んでしまったらしい。


「ええと、証拠ですよね。目撃者がいます。森にある魔物の住処で、ヘイリーを見た村人がいます。しかしすぐに魔物が現れ追いかけられて、命からがら逃げてきたらしいのです」


「……ほう。目撃者がいるんじゃな」


 理不尽に魔物に罪をなすりつけたわけではなく、きちんと目撃者がいることを聞いた魔王リディアは、先程までの威圧感を消した。

 今の彼女は、ただの少女に見える。

 ……先程の威圧感を肌で感じた直後でなければ。


 これまでお茶目な面ばかりを見せていたが、彼女は正真正銘の魔王なのだ。






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