●171
「俺は、この世界を…………」
残すべきか、消すべきか。
俺の感情抜きで考えたとき、この世界は出来の良い世界だと言えるだろうか。
人間と魔物が争い合い、人間同士でも争い、嘘を吐き合う、そんな世界が。
分からない。
以前の俺だったら、出来の悪い世界だと判断していたかもしれないが、リディアとの旅で、この世界はそう簡単なものではないと知った。
争い合っているものの、魔物にも人間にもいい奴はいる。
それに人によって大切にするものが違うから争い、大切なものを守るために嘘を吐く。
これらのことを踏まえても、出来の悪い世界と言えるだろうか。
分からない。
意味もなく人間を殺す魔物もいるし、善良な魔物を攻撃しようとする人間もいる。
何もしていない他人から、ただ盗みたいから盗む人間もいる。
分からない、分からない、分からない。
「……ごめん。期限ギリギリまで、答えを待ってほしい」
だから今の俺には、こう言うほか、なかった。
「何となくそんな気はしてたよ。いいぜ、待ってやる。何年も結論を出さなかったんだ。あと数ヶ月待つのも大して変わらねえよ」
「ありがとう」
早く決めろと急かされるかと思ったが、意外にもクシューは、俺の答えを待ってくれるみたいだ。
よく考えると、記憶の中のクシューも、同胞で相棒である俺には優しかった気がする。
「ただし。ショーン自身の個人的な感情は挟まずに、きちんと神の触手として結論を出せよ」
クシューは俺に念押しをした。
「俺はショーンのことを同胞として大事にしているが、一線を超えるようなら容赦はしねえぜ?」
「……分かったよ」
「ショーンが俺と同じ結論に至ることを期待してるぜ。じゃあショーンが結論を出すまでの間、魔王として仕事でもしておくか。魔物たちが、早く人間を滅ぼしたい、ってうるさいんだよな」
最後に不穏な言葉を残して、クシューはパッと消えてしまった。
* * *
「さて。これからどうするつもりじゃ、ショーンよ」
二人きりになったところで、リディアが質問をした。
どうもこうも「ユニークスキル・ラッキーメイカーを消す呪いのアイテム探しの旅」は、全く意味がないものだと判明したのだ。
だから、この旅を続けるわけにはいかない。
これから俺が行なうのは。
「俺は、この世界を知るための旅に出ようと思います」
この世界を残すか消すか決めるために、俺はこれからも旅をする。
タイムリミットまで、あと少し。




