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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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●169


「ヴァネッサさん?」


「正直、前半の話にはついていけてないけれど。後半の件に関しては口を挟ませて」


 話に混ざるのは構わないが、何も知らないはずのヴァネッサは、俺とクシューとの会話に対して何を言うつもりなのだろう。


「えっと、何か気になる点でもありましたか?」


「あったわ。リディアが打算的にショーンに近づいたことに対する、ショーンの反応よ」


 戸惑う俺にヴァネッサは、自分が何に意見したいのかを明瞭に告げた。


「ショーンはリディアに騙されたってショックを受けているみたいだけど、それって何かおかしくない? ショーンは別にリディアに金品を騙し取られたわけじゃないわよね? ただ解説を交えながら、一緒に世界を見て回っただけなんでしょ?」


「はい」


「それのどこにショックを受ける要素があるのよ」


 どこにって、リディアは俺の正体を知っているからこそ近づいてきて、俺の能力のことを知っていたのにあえて黙っていて、そのまま一緒に旅をして…………あれ。

 俺は、特にリディアから不利益を被るようなことをされた経験がない。

 真実を教えてもらえなかったのはその通りだが、それは俺がリディアと旅をしなかったとしても、同じことだ。


「狙いがあって近づいたという、最初の出会い方は良くなかったのかもしれないけど、初対面が最悪なことなんていくらでもあるわよ。大事なのは、その後どう行動するかでしょ。旅の中で、ショーンはリディアに酷いことをされたの?」


「酷いことは……されてません」


 痴女のような振る舞いをされたことはあるが、俺が嫌がったらやめてくれた。

 武闘大会に参加させられたこともあるが、あれだってリディアが勝手に参加登録をしたわけではない。最終的に参加を決めたのは俺だ。

 俺が潜入した盗賊団のアジトにも、リディアは助けに来てくれた。


「ショーンくんと私の出会いも、決して良いものではなかったと思います。あのときの私は、村人の死体と生活をしていましたから。多くの人の価値観では、死体を動かすのは良くないことなんでしょう?」


 リディアとの旅を思い出す俺に、ドロシーが告げた。

 その通り、初めてドロシーに出会ったときの印象は、決して良いものではなかった。

 俺にはあの頃のドロシーは、狂っているようにすら見えていた。

 少なくとも、こうして一緒に旅をする仲になるとは思いもしなかった。


「それでも、ショーンくんは私と親しくしてくれています。第一印象最悪だとしても、仲良くすることは出来るんです」


 ドロシーが俺の手を握って、そう言った。

 その様子を見ていたクシューが、片眉を上げる。


「なーんかさ、誰も彼もショーンにだけ優しくねえ? 俺、ショーンと同じ顔なんだけど。同じような扱いをしてくれてもいいじゃん」


 クシューは自分の顔を指差しながら笑顔を作っている。

 すると笑顔のクシューに、リディアが舌を出してあかんべえをした。


「嫌じゃ。ショーンと同じ顔だろうと、お前は性格が捻じ曲がっておる。優しくするなんてお断りなのじゃ」


「リディアの意地悪ー! そういうところも好きだけど!」


 クシューはスイスイと空中を移動し、リディアの周りを飛び回った。

 リディアは飛び回るクシューに対して、虫を追い払うように手でシッシッとしている


「さっきから気になってたんだけど、あの人はショーンとリディアの知り合いなの?」


「ショーンくんの知り合いというのは彼の顔を見れば分かりますが、リディアちゃんも知り合いなんですよね? どんなお知り合いなんですか?」


 リディアと戯れるショーンを指差して、ヴァネッサとドロシーが質問した。

 俺とリディアはクシューと昔馴染みのように会話をしているのに、二人にはクシューが誰なのかを紹介していない。

 気になって当然だ。


「ショーンとは同じ主から生み出された同胞、リディアとは現魔王と前魔王または秘書官の関係だぜ」


「…………え?」


 俺が答えるよりも早く、クシューが自己紹介をした。

 その単語だけは避けようと思っていた、地雷ワードを使って。


「今、なんて言いました?」


「だーかーらー、俺は魔王だった頃のリディアと戦ったことがあるんだよ。そんで俺が勝ったから、俺が新しい魔王になって、リディアは魔王の座を降りて俺の秘書官をやってたんだよ」


「嫌々じゃがな。秘書官になれば、クシューの寝首をかけると思って務めておった」


 リディアが相変わらず周りを飛び続けるクシューをにらんだ。


「俺を殺すのは無理だって分かってるくせに、諦めきれないところが可愛いんだよなあ。俺は相手の魔力を吸い取って主に送ることが出来るし、そもそも未来を掴めるから負けることはないのにさ」


 実際にはそんなことは起こっていないが、俺にはドロシーの髪が逆立っているように見えた。

 現在の魔王は、ドロシーの村を襲うように指示した張本人でもある。

 ドロシーにとって、クシューは村人たちの仇だ。


「……あいつが、現魔王……!」


 それからのドロシーの行動は素早かった。

 勢いよくクシューに飛びかかり、そしてクシューの後ろからは、いつの間にか出現させていたキツネのモンスターを飛びかからせていた。


「このーーーーーっ!!」


 しかしクシューはひらりと身を躱すと、何でもないことのようにドロシーを嘲笑う。


「俺の話、聞いてた? 未来を掴めるんだから、俺が負けることはあり得ないんだってば」


 なおもドロシーがキツネのモンスターと毒蜂を使ってクシューを攻撃するが、どの攻撃も危なげなくクシューに躱された。


「分かんねえかなー。いくらやったって、お前じゃ俺には傷一つ付けられねえよ。お前が必死に攻撃してる最中でも、俺なら優雅なティータイムを過ごせる。それほどまでに、俺とお前の間には力の差があるんだよ」


 クシューの言葉は、事実だろう。

 リディアですら倒すことの出来るクシューを相手に、ドロシーでは手も足も出ない。

 自分でもそのことを察したのか、ドロシーは泣きながら、クシューへの攻撃を止めた。


「ドロシー!」


 真下を向いて、地面に涙で水玉模様を作るドロシーに、ヴァネッサが駆け寄る。


「ショーンの仲間っぽいから今回は殺さないでやったけど、次はねえから。俺に殺気を持って近づいた瞬間に、お前の首を落とす」


 無傷のクシューは、ドロシーを見下ろしながら述べた。

 自分なら簡単にドロシーを殺すことが出来ると、それだけの能力差があると、ハッキリと告げることで、ドロシーの心を折るつもりなのだろう。


 効果はてきめんだった。

 耐えきれなくなったドロシーは、泣きながらこの場を去ってしまった。

 どこに向かうでもなく、研究施設の敷地を出て、森の中を走って行った。


「待って、ドロシー!」


 いつもヴァネッサの言葉に従うドロシーは、しかし今回は従うことはなかった。

 振り向くことさえせずに、どんどん姿が小さくなる。


「……ごめん。あたしも行くわ。ドロシーを一人には出来ないもの」


 そう言い残したヴァネッサも、ドロシーを追って森の中へと消えて行った。


 残されたのは、俺とクシューとリディアの三人だけだ。



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