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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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「そんな根本的な質問かよ。つーかそんなの、自分の胸に手を当てるだけで答えが出るんじゃねえ?」


 覚悟を持って聞いた俺の疑問は、クシューにとっては何でもないことのようだった。

 あくびをしながらそんなことを言ってきた。


「答えを出そうにも、俺は記憶を消されていて……」


「じゃあ聞くけどよ、お前はこの世界の人間のことを、口では敬称を付けて呼んでいるようだが……心の中ではどうだ?」


「心の中、だって?」


「心の中で、この世界の人間に敬称を付けていたか? お前と並列で考えるとき、この世界の人間を自分の前に置いたことがあるか?」


「それは……」


 考えてみると、クシューの言う通りだ。

 俺は心の中で誰かの名前を思い浮かべるとき、敬称を付けてはいなかった。全員呼び捨てだ。

 それに「リディアとヴァネッサとドロシーと俺」ではなく「俺とリディアとヴァネッサとドロシー」のように、自分のことを一番前に置いていた。


「その表情をするってことは、やっぱり心当たりがあるんだな。神の触手であるショーンは、無意識のうちに、自分がこの世界の住人よりも上位の存在だと気付いていたんだ」


 俺はこの世界の住人を下位の存在として扱ったことはない……と思いたいが、敬称や自分を置く順番の件を考えると、そうではなかったのだろう。

 誓ってこの世界の住人を見下したことはないが、それでも自分と彼らを同列には置いていなかった。


 衝撃を受ける俺に、クシューはさらに続けた。


「それにショーンはこの世界の出来事を、一歩引いたところから見てはいなかったか? それはショーン自身がこの世界の住人ではなく、この世界においては傍観者だったからだ。傍観者としてこの世界を見定める使命を持っていたからだ」


 俺が一歩引いている姿勢だという件は、過去に指摘されたことがある。

 指摘されたのは、ドロシーに初めて会ったときだっただろうか。

 つまり初対面でそう見える程度には、俺は傍観者としてこの世界と関わっていたのだ。


「そ、それだけじゃ、信じられないよ。こんな突拍子もない話」


 しかしそのことを受け入れたくない俺は、すがるような気持ちでそう言った。


「信じるも何も、記憶を思い出したんだろ? それが真実だ」


「…………」


 俺の気持ちとは裏腹に、俺の記憶がこの件を裏付けている。


「じゃあこれはどうだ。俺たちは死んでも生き返る。それは主から切り離されて自由に動けるものの、主との繋がりが完全には切れていねえからだ。そして主と繋がってる俺たちの身体には、主の世界の理が反映されている。つまり、この世界の住人よりも格段に年を取るのが遅い」


 真実を受け入れようとしない俺に、クシューがまた別の切り口で話し始めた。


 俺たちがこの世界で何年生きているのかは定かではないが、少なくとも記憶で見た俺たちが誕生した瞬間と、今の俺たちの姿に差は見当たらない。

 まるで少しも年を取っていないかのように。


「さらに。主と繋がっている俺たちは、こちらからも主にエネルギーを送ることが出来る。過去に俺は魔物から吸い取った魔力を、ショーンは食べた食料のエネルギーを送っていた。心当たりはねえか? ショーンは今でも大食いなんだろ?」


「それは……」


 俺はゴングーラ町で、自身の体積以上の量の肉を食べたことがある。

 よく考えなくても、そんなことは不可能なはずなのに。


「さらにさらに、これはどうだ。俺たちは、この世界と主の世界を行き来することが出来る。主の世界までは最大量のエネルギーを消費するからそう簡単には行けねえが、その途中の道までは割と簡単に行くことが出来る。ショーンは行った覚えがねえか? 無数の糸の伸びる真っ暗な世界に」


 無数の糸の伸びる真っ暗な世界。

 その世界に、俺は心当たりがある。


「ユニークスキル・ラッキーメイカー……」


「なんだそりゃ」


 俺の呟きを聞いたクシューは、何のことだと首を傾げている。

 しかし俺はクシューを無視して呟き続ける。


「俺がラッキーメイカーを使ってダイブする因果の世界は……主の世界へと繋がる、道?」


 今の話が本当なら、そういうことになる。

 あの因果の世界は、この世界と主の世界を結ぶ道だった。


 そう考えると、合点が行く点もある。

 この世界を創造した主の世界は、この世界よりも上位の世界だ。

 ということは、主の世界へと繋がる道も、この世界よりも上位にあると言える。

 そうであるならば、あの道で因果の糸を掴むことで、この世界の未来を決めることが可能であってもおかしくはない。


「どういうことですか、リディアさん!?」


 そう思い至った俺は、リディアに向き直った。

 俺がチートなユニークスキルを消したいと言ったとき、リディアは俺の能力がユニークスキルではないとは言わなかった。

 それどころか、一緒にユニークスキルを消す呪いのアイテムを探す旅に出た。


「どういうことも何も、ショーンのラッキーメイカーはユニークスキルではなかった、ということじゃろう」


「俺のことを騙してたんですか……?」


 リディアに騙されたとショックを受ける俺に向かって、リディアは静かに首を振った。


「妾はあくまでもこの世界の住人じゃ。ショーンの持つ能力がユニークスキルなのか、外の世界へ繋がる道に行く能力なのか、判別することは出来んのじゃよ」


「だとしても、その可能性くらい教えてくれても良かったじゃないですか」


「この世界で生まれた妾が、外の世界の構造を知っているわけがなかろう」


「それは……そうかもしれませんが……」


 リディアの言う通りだ。

 これでは俺が理不尽にリディアを責めているだけだ。



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