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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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●163


 俺は、この世界の神である主の触手……?

 主の触手を切り離して捏ねて創ったものが、俺……?

 俺は主の身体の一部で、この世界の外の世界から来た存在で、クシューだけが俺の同胞で……?


「ううっ」


 再びの頭痛に目を開けると、目の前には青空が広がっていた。

 柔らかい感触の正体を探るべく寝返りを打つと、俺は地面に敷いた布団の上に寝かされていた。

 これは野宿の際にリディアが出現させる布団だ。

 本当に便利な能力だとつくづく思う。


 ……と、今はそんなことを考えている場合ではなかった。


 上体を起こしてあたりを見回す。

 ここには全焼した研究所がある以外に、これと言って特別なものは無いように見えた。


「俺は、どのくらい寝てましたか?」


 痛む頭を押さえながら、質問をする。

 しかし俺の質問に答えをくれるだろうヴァネッサとドロシーは、二人で研究所の周りをうろうろとしている。

 それならリディアはどこだろう、と思ったところで、真後ろから声がした。


「起きたようじゃのう」


「リディアさん、布団をありがとうございました」


「まったくショーンはすぐに倒れるんじゃから。病弱キャラの座を狙っておるのか?」


「そんなわけないじゃないですか」


 俺がリディアとどうでもいい会話をしていると、俺が目を覚ましたことに気付いたヴァネッサとドロシーがこちらに向かって走ってきた。


「お寝坊さんがやっとお目覚めね」


「ショーンくんはもしかして、眠り姫の座を狙っているんですか?」


「そんなわけないじゃないですか」


 そう思われる程度には、寝てばかりの自覚はあるが。

 しかし断じて、病弱キャラの座も、眠り姫の座も、狙っていない。

 第一、眠り姫の座って何だ。


「それにしても、森の中にこんな空間があるなんてね」


「焼けちゃってますけど、大きな建物ですよね。敷地も広いですし。図書館でしょうか?」


「さすがに森の中に図書館は建てないんじゃない? 森まで本を借りに来る人はいないでしょ。建物を隠しているなら、なおさら」


 そう。ここは図書館ではなく、研究所。

 俺の身体を切り刻んだ、憎き研究所だ。


「あれだけ焼けていると、何も残ってなさそうですね」


「そうね。大抵のものは焼けちゃってるんじゃない?」


「ですが、もしかすると運良く燃え残っているものもあるかもしれません」


 俺が布団から立ち上がると、リディアが布団を何も無い空間に収納した。


「行くつもりか、ショーン?」


「はい。そのためにここまで来ましたから」


 俺が研究所に向かって歩みを進めると、当然のようにリディアとヴァネッサとドロシーもついてきた。


「あの建物、入ったら崩れませんかね?」


「その可能性はあるわね。注意して進まないと」


「あの……ここからはついてこなくてもいいですよ。お二人の言う通り、危険ですから」


 俺の言葉を聞いたヴァネッサとドロシーは、二人で顔を見合わせてから、俺の頬を片方ずつつねった。


「いひゃい。にゃにしゅるんですか」


「ここまで連れてきておいて、一人で建物の中に入るなんて水臭いですよ」


「そうよ。あたしたちは一蓮托生なんだから、一緒に行かせなさいよ」


 すると俺たちの様子をニヤニヤしながら見つめていたリディアが、ヴァネッサとドロシーの不安を払しょくする言葉を放った。


「安心するがいい。天井が崩れた場合は、妾が砕いてやるのじゃ。破片が当たって多少は痛いかもしれんが、死にはせんじゃろう」


「リディアがいると常に心強いわね」


「ということですから、一緒に行きましょうね。ショーンくん?」


「分かりました」


 こうして、俺とリディアとヴァネッサとドロシーは、研究所の中へと入ることにした。


「……とはいえ。あの様子では何も残っていないじゃろうがな」



   *   *   *



 リディアがぼそりと呟いた言葉の通り、研究所の中にはほとんど何も残ってはいなかった。

 研究員たちの遺体も見当たらないため、この研究所の存在を知る人間によって、すでに運び出された後なのだろう。


「溶けていて元の形は分かりませんが、機械のようなものがいくつも置かれていますね。ここは何の施設だったんでしょう」


「工場かしらね。工場なら、町から離れた場所にあっても不思議じゃないもの」


「さすがはヴァネッサちゃん。冴えてますね!」


「そんなに褒めないでよー。これくらい分かって当然じゃない!」


 ヴァネッサは得意げにしていたが、残念ながらここは工場ではない。

 あえて訂正するつもりも無いが。


 今にも崩れそうな研究所の中を慎重に進み、俺たちはついにその場所へと辿り着いた。

 俺が切り刻まれていた場所。

 俺が縛り付けられていたベッドのある部屋。

 炎によって、ベッドは骨組みだけになっていたが、俺には分かる。

 あれは、俺の寝かされていたベッドだ。


 その瞬間、俺はまた気を失った。



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