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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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●162


 この世界ではない、外の世界。

 これから行なわれる長い旅の、始まりの瞬間。


 これが過去の出来事のためか、俺はそのことを知っている。




 主が自身の触手を二本切り離し、捏ねて形を作って魔法を掛けた。


 主に形作ってもらったばかりの身体の起動確認を簡単に行なうと、触手は主に向かって敬礼をした。


「主、触手は主のために頑張ります!」


「触手も頑張って働きます!」


 もう一体の触手も真似をして敬礼した。


「うーむ。確かにお前たちは我の触手ではあるが、自分のことを触手と呼ぶのは、奇異の目で見られてしまう。二体とも、これからは自分のことを『俺』と呼ぶように。男は自分のことをそう呼ぶからな」


「主は自分のことを我と呼んでいます」


「我をその辺の男と一緒にするでない」


「触手も、その辺の男と同じではありません」


「こら。自分のことは俺と呼ぶように言ったばかりだろう」


 もう一体の触手が怒られた今が、差をつけるチャンスだ。


「俺は、自分のことを俺と呼びます」


「あっ!? 自分だけずるいぞ、触手!?」


 俺が主からのポイント稼ぎをすると、もう一体の触手は俺の身体を揺さ振った。


「それなら触手も、自分のことを俺と呼べばいいと思います」


 俺たちのやりとりを見ていた主は、困ったように自身のあごひげを撫でた。


「あー。お互いのことを触手と呼び合うのもおかしいかもしれない。お前たちには名前を付けよう」


「名前……ただの触手に識別名をくれるのですか!?」


「主、太っ腹です!」


 識別名をもらうということは、個人として主に認めてもらえたということだ。

 俺は身体の一部ではなく、独立した存在だと認めてもらえたのだ。

 こんなに誇らしいことはない。


「しかし何という名前にするべきか……片方は魔物で片方は人間として創ったから、マモーノとニンゲーン? うーむ、種族名を名前に取り入れるのは違和感があるか」


 俺は人間として創られたから、このままだとせっかくもらえる識別名がニンゲーンになってしまう。

 俺も主の身体の一部として、これから行く世界のことを外側から観察していたから分かる。

 ニンゲーンは、おかしい名前だ。


「そうだ! お前たちは、我が世界を知るための、神の触手だ」


 主は良い名前を思いついたらしく、自身の手を叩いた。

 悪い予感がする。


「神の触手だから、『ショー』と『クシュー』という名前はどうだろうか。触手で、ショーとクシュー」


「名付け方が適当すぎませんか!?」


 もう一体の触手が、すかさずにツッコんだ。

 その隙にマシな方の名前を頂いてしまおう。


「俺は『ショーン』がいいです」


「あっ!? こいつ、さりげなくアレンジを加えてきやがった!?」


 ショーよりもショーンの方がカッコイイと思ったから、少し変えさせてもらった。

 名前は一生ものらしいから、少しでもカッコイイ名前が良かったのだ。


「ではお前は『ショーン』、お前は『クシュー』だ」


 主が俺とクシューを指し示して、そう言った。

 やったあ、ショーンで確定をもらえた。


「うわあ。ツッコミを入れてる間に俺がクシューになっちまった……」


 一方でクシューはがっくりと肩を落としている。


「気に食わないか?」


「いいえ、俺は名前なんて何でもいいです。区別が出来れば問題ありません」


 しかし主に聞かれたクシューは、クシューという名前を受け入れる姿勢を示した。

 そんなクシューに向かって、俺は勝ち誇った顔で言い放つ。


「『ショーン』って名前、カッコイイだろ。羨ましいだろ」


「だから、俺は名前なんて何でもいいんだってば。お前の名前も特にカッコイイとは思わねえし」


「あ、負け惜しみ言ってる」


「負け惜しみじゃねえよ!?」


「うむ、仲良しで結構。もともと二体とも我の触手だから、仲が良いのは当然か。あちらの世界へ行っても、二体で仲良くするんだぞ」


 主にそう言われた俺は、クシューと肩を組んだ。

 クシューもやれやれといった様子ではあったものの、俺と肩を組んでくれた。



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