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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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●160


 ヴァネッサはここまで語ると、伸びをしながら夜空を見上げた。


「あたしは、優しい両親のもとに生まれて、裕福とまではいかないものの不自由のない生活を送っていて……そんな恵まれた場所からミラに説教をしていたの。そんなのミラからしたら、ムカつくわよね」


 同じ学び舎に通っていながら、ミラは働き詰めの上に、盗みを働かないと一日一食しか食べることの出来ない生活。

 ヴァネッサは自由時間に友人と遊ぶ余裕があり、三食食べることが出来て、おまけに両親は優しい。

 あまりにも環境に差がある。


「それなのにあたしはミラに施しを与えようとして……ミラはきっと、生まれた家が良かっただけのあたしに、下に見られた気がしたのね。施しというのは、上の者が下の者に行なうことだから。助けてあげよう、なんて考えは傲慢だったのよ」


 今のヴァネッサの話を聞く限り、ミラにはミラなりのプライドがあり、施しを受けることは彼女にとって屈辱のようだった。

 そのことを理解していたからこそ、ギャビンはあえて自身のパンを直接ミラに渡さず、彼女自身に盗ませていたのだ。


「あの頃のあたしは、壊滅的に想像力が足りていなかったの。あたしの置かれている環境基準でしか、物事を考えていなかったのよ」


 その失敗があったからこそ、ヴァネッサはドロシーのことを理解しようとして、一緒にボスモンスターのキツネの死体をモフモフとしていたのだろう。

 自身の価値観だけであり得ない行為だと断じずに、ドロシーのことを理解してから考えられるように。

 ミラのときと同じ失敗をしないように。


「そういえば、前にギャビンに似た人を見たのよね。そのときはそれどころじゃなかったから話せなかったけど」


 ヴァネッサが、思い出したようにそう言った。


「旅をしているようだったけれど、ミラは一緒じゃなかったわ。ということは、ギャビンはミラを養うことが出来ていないのかもね……考えてみたら、ミラは養ってもらうようなタマじゃないもの。一人でたくましく生きていそうだわ」


 ミラのたくましさを思い出したのか、ヴァネッサはくすくすと笑った。


「……って、あれ。どうしてあたしの過去話をする流れになったんだっけ?」


 長い思い出話のせいで、当初の目的を見失ったらしいヴァネッサが、小首を傾げた。


「ヴァネッサさんが過去に失敗したことがある、という話からだったと思います」


「ああ、そうだったわね……そう、あたしは過去に、想像力の欠如からミラを傷付けた。だから、あたしはもう失敗したくはないの。接し方を間違えて、ドロシーを傷つけたくはないのよ」


「やっぱりヴァネッサさんはドロシーさんのお姉さんみたいです。家族を失ったドロシーさんには、きっとヴァネッサさんが必要ですね」


 俺が本心からそう言うと、ヴァネッサは微妙な表情をした。


「どうかしらね。むしろ相手を必要としているのは……」


 ヴァネッサのこの表情はどういう意味だろう、と今度は俺が小首を傾げる番だった。

 俺の疑問にはヴァネッサがすぐに答えをくれた。


「あたしはね、ドロシーに『ヴァネッサちゃんは私のヒーローです』と言われて、気付いたの。あたしは他の冒険者たちのように、未知のものに出会いたいから冒険者になりたいわけじゃなくて、ヒーローになりたいから冒険者に憧れていたんだ、って」


 ヴァネッサが自嘲の笑みを浮かべた。


「冒険者は悪い魔物を倒したり、危険なダンジョンを消したり、町の困りごとを解決したりするじゃない? きっとあたしはそういうことをして、ヒーローって崇められたかっただけなの。強い魔物を倒したとか、あそこのダンジョンに潜ったとか、そういう実績を作って『あなたはヒーローだ』って言われたかったのよ。それが目的で、あたしは冒険者のくせに未知のものに魅せられてなんかいなかったの。笑っちゃうでしょ?」


 ヴァネッサは俺に笑ってくれと言いたげだったが、別に笑うようなことではない気がした。


「ヒーローになりたいというのも、冒険者に憧れる立派な理由だと思いますよ」


「そうかしら。他人からの評価にばかり気をとられていて、あたしは浅ましいと思うわ」


 そんなことはないと言いたかったが、俺が否定しても、ヴァネッサは受け入れないような気がした。


「……話を戻すけれど。実のところ、相手を必要としているのは、ドロシーよりもあたしなのよ」


「ドロシーさんだってヴァネッサさんを必要としていると思いますよ」


「うん、そうかもね。こういうのって、共依存って言うんでしょ?」


 共依存というのは、お互いが特定の相手に正常とは言えないほどに依存している状態のこと、だっただろうか。

 ヴァネッサはドロシーにヒーローと呼ばれるべく行動し、ドロシーはヴァネッサのどんな意見にも異を唱えない。


「共依存の関係は心地が良いけれど、たまにこれで良いのかとも思うのよね。だからあたしは、常に何が正解なのか頭を悩ませながらドロシーと接しているのよ」


 ここでヴァネッサは俺の額に軽くデコピンをすると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「だからショーンも、存分に思考を巡らせてから答えを出すといいわ。ぶち当たった問題に悩み、自分で出した結論を疑い、どこまでも考え抜くことは、誰にでも許された権利なんだから」


 似たような言葉を過去にどこかで聞いたような気がする。


 悩むことは悪いことではない。むしろ誰にでも与えられた権利だ。

 それなら俺は、存分に権利を行使しよう。


「さあ、夜が明ける前に少しでも寝ておきましょう。明日もまだまだ歩くんでしょ?」


「あ、はい。目的地はまだ遠いので、たくさん歩きます」


 俺とヴァネッサは、リディアとドロシーのもとへと戻り、朝まで睡眠を堪能した。



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