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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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159/172

●159 side ヴァネッサ


 その日、結局ミラにはサンドイッチを受け取ってもらえず、その後は会話すらしてもらえなかった。

 そしてこの日の出来事をどうするべきか答えを見つけることが出来ないまま、数日が経過した。


 さりげなくギャビンの昼食の様子を見てみると、ギャビンはいつもパンを一つしか食べていなかった。

 一方でミラは、昼食の時間も内職をしており、何かを食べている様子は無かった。

 この場でギャビンのパンを取り出して食べたら、それがギャビンの持ってきたパンだと本人には気付かれてしまうからだろう。

 きっと、依然としてミラの泥棒は継続されている。


 迷った挙句、あたしはギャビンに真実を伝えることにした。

 いくらあたしが悩んだところで、この件に関してあたしはただの目撃者でしかない。

 ミラの処分は、被害者であるギャビン本人に任せた方が良さそうだ。

 ギャビンなら、真実を告げても、頭に血がのぼってミラを殴るようなことはしないはずだ。




 あたしは放課後、薬草採りに向かおうとするギャビンを学び舎の裏に連れて行った。


「こんなところに呼び出してどうしたんだ? 他人には聞かせたくない相談か?」


「他人には聞かせたくないのはその通りなんだけど……ミラのことでギャビンに話があって」


 ミラの名前を出すと、ギャビンの肩がピクリと動いた。


「実はね、あたし見ちゃったの。ミラがギャビンのパンを盗むところを。しかもあの感じだと、盗んだのは一回や二回じゃないみたい。今も盗まれてるんでしょ?」


「……見たのか」


 ギャビンから返ってきたのは、意外な言葉だった。

 まるでミラの盗みのことを知っているような口調だ。


「まさかギャビン、知ってたの?」


「ああ」


「じゃあ、ギャビンからミラに注意したの?」


「それはしていない」


「なんで!?」


 自分のパンが盗まれているというのに、犯人に何も言わないなんて、にわかに信じられることではない。

 ギャビンがイジメられているのならその可能性もあるけれど、そんな話は聞いたこともない。

 それにミラは細身の女の子で、対するギャビンは大柄な上に冒険者デビューもしている。つまり強い。

 ミラが怖くて意見できないということはないはずだ。


「…………」


 あたしの問いに、ギャビンは何も言わなかった。


「ギャビンが望むなら、あたしから先生に言うわ。目撃者がいれば信じてくれるはずだもの」


「……これは俺とミラの問題だから、放っておいてほしい」


「放っておけって、これは泥棒よ。放っておくのはミラのためにもならないわ」


「それでも、放っておいてはくれないだろうか」


「どうしてそこまで……?」


 ギャビンがここまで事態の放置を頼むなんて、何か理由がありそうだ。

 この場から動こうとしないあたしに観念したのか、ギャビンは重い口を開いた。


「ミラの家と俺の家は近所なんだ。だからミラの家の事情をある程度は知っている……ミラの家には病弱な妹がいて、毎月結構な額の薬代を必要としているんだ」


 まさかミラとギャビンがご近所さんだったなんて。

 放課後、一緒に帰る生徒の家は知っているけれど、ミラもギャビンも授業が終わるとすぐにいなくなってしまうから家の場所なんて知らなかった。


「妹の薬代を捻出するために、ミラは一日一食しか与えられないらしい。だからあんなに細いんだ」


「そう、なの……」


 ギャビンの説明に説得力を持たせるほどに、ミラの身体は細い。

 あたしでも、ミラとなら戦っても引き分けに持ち込めると思えるくらいだ。


「生まれた家が違うだけで一日の食事量が決まってしまうのは、あまりにも可哀想だ。ミラは授業の後、町に内職で作ったものを渡しに行き、新しい仕事を受け、ついでにノートを売って帰って、やっと食事をする」


「やけに詳しいのね」


「俺も冒険者ギルドにクエストを受けに行くから、そのときに知った」


 ギャビンは、町でミラを偶然見かけた、のような言い方をしたけれど、なんだかミラを追いかけて観察していたような気がしてしまうのは、あたしの思い過ごしだろうか。


「俺からパンを盗めば、町へ向かう途中で食べることが出来る。夜に食事をするまでの間の繋ぎにはなるはずだ」


 この言い方から察するに、ギャビンはミラの事情を知った上で、ミラにパンを盗ませているようだ。


「ギャビンはミラにわざとパンを盗ませているということ? そんなことをせずに、直接ミラにパンを渡したらいいじゃない」


 あたしの言葉にギャビンは首を振った。


「ミラは施されることを嫌う。彼女には彼女のプライドがあるのだろう。だから直接パンを渡しても、受け取ってはもらえない」


 ギャビンはミラの性格をよく知っているようだった。


「俺はミラを救うことが出来ない自分に腹が立つ。だから早く冒険者として稼いで、ミラに食べきれないほどの料理をご馳走するつもりだ。俺の成功祝いだと言えば、さすがに食べてくれるだろうから」


 そしてギャビンは、照れくさそうにはにかんだ。


「そのうち毎日俺の振る舞う料理を食べてもらえたら嬉しいのだが……でも現時点でそれは無理だから、とりあえず、ミラには俺のパンを盗んでもらってるんだ」



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