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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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●153


 焚火から少し離れた場所で空を見上げた。

 焚火の前にはリディアがいるため、魔物からの襲撃は皆無だろうし、盗賊が襲ってきたとしても簡単に捻り潰せるはずだ。

 だから俺は、一人で頭の中を整理させてもらうことにした。


 俺とクシューはそっくりな見た目で、死んでも生き返る存在で、主から何らかの使命を受けている。

 そしてその使命を果たすために、二人旅をして、離れて、その中でクシューは魔王になった。


 俺たちは何者だ? 使命とは何だ?


 それに俺の過去があれなら、俺はやっぱり……。


「ショーンは悩みごとがあると星を見るのね」


 後ろから聞こえてきた声にびくりとする。

 考えごとをしていたせいで、周囲への警戒がおろそかになっていた。


「ヴァネッサさん」


 やってきた人物はヴァネッサだった。

 静まり返った森の中、気配を消すでもなく普通に歩いてきたのに、声をかけられるまで気付かなかった。


「あたしも星は好きよ。星は小さく見えるけど、本当はとっても大きいんだって。あんなに小さく見えるのに、本当はあたしたちよりもずっと大きいらしいの」


 ヴァネッサは自然な流れで俺の隣に座ると、俺と同じように夜空を見上げた。


「そうなんですか。あんなに小さく見えるのに。不思議ですね」


「不思議よねえ」


「あっ。大きな星がたくさんあるということは、空はもっともっと、とてつもなく大きいんでしょうね」


「きっとそうだわ……だからね。空やあの星々に比べたら、あたしはとっても小さくて、あたしの悩みも小さいもののような気がしてくるの」


 ここでヴァネッサは俺のことを見ると、舌を出して笑った。


「それでも悩んじゃうから、悩みなんだけどね」


 悩み。そうか、俺は悩んでいたのか。

 だって考えないようにしていても考えてしまう。人間を殺した俺は、どうやって償えばいいのだろう、と。


 記憶を見る限り、俺は自分の命を守るために、自分を殺す研究者たちを始末していた。

 しかし……本当にそれだけだっただろうか。

 あのときの俺は研究者たちを憎み、殺意を覚えたから殺したのではなかっただろうか。

 そうであるなら、単純な正当防衛ではない。

 殺したいから、殺している。


「……罪を犯したら、どうすれば許されるのでしょう」


 事情を知らないヴァネッサに、それでも訊ねずにはいられなかった。


「似たようなことが前にもあったわね。一緒に星を見ながら罪について語ったわ」


 そんなこともあった。

 二人で屋根の上にのぼって話をし、最後にヴァネッサが屋根から落ちていた。


「……俺はあれからも、結局答えが出せないままです」


「答えなんて、簡単に出せるものじゃないわ」


 確かヴァネッサは、答えを探すことが人生なのだと言っていた。

 一理あるかもしれないが、答えを見つけるのが遅いと、償いが間に合わない可能性もある。

 ……最初から過ちを犯さなければ、こんなことで悩む必要もないのに。


「ヴァネッサさんは過ちを犯しそうもありませんね」


「そんなわけないじゃない。前にも言ったけど、生きている限り過ちを犯さない人間なんていないわ」


「……俺には、ヴァネッサさんはいつも正しい選択をしているように見えます」


「ショーンにはあたしがそんな風に見えているのね。でも、そんな人間は存在し得ないのよ」


 ヴァネッサは大きく伸びをすると、ゆっくりと息を吐き出した。


「たとえばね、あたしはこの前ダンジョンのボスモンスターを倒した後、ドロシーと一緒にボスモンスターの死体をモフモフしたわ。だけどそれを、間違った行為だと思う人は大勢いるの」


 ヴァネッサは言ってから、自身の言葉に首を振った。


「……この言い方はズルいわね。正直なところ、死体は埋葬しなければいけないと、あたしは教わってきたわ。モフモフするなんて、もってのほか。だからドロシーの行為は、あたしの価値観では間違いなの」


 俺たち四人はダンジョンでボスモンスターを倒した後、ドロシーの支配下に置かれたボスモンスターと戯れた。

 言い換えるなら、殺したばかりの死体と戯れていた。


「でもドロシーに間違ったことをしている意識は無いわ。ドロシーは、死んでなお人の役に立てることは素晴らしいことだと、そう教えられて育ってきたみたいなの」


「お二人は、真逆のことを教わって育ったんですね」


「ええ。だからこの件に正解なんて無いんだと思うの。あるのは価値観の違いだけ」


「価値観の違い……」


 ドロシーは死体を操るネクロマンサーの家系に生まれた。

 そのためネクロマンサーではない人たちとは、死に対する価値観が違うのかもしれない。


「価値観は、育った環境や信仰によって変わってくるわ。だからこそあたしたちは、時に衝突し、時に決別するのね」


 価値観の違いが及ぼす影響については、前に学んだ。

 『鋼鉄の筋肉』で価値観の違いから、マーティンさんとルースさんが決別してしまった。

 決してお互いに憎み合っていたわけではなかったのに。


「悲しい、ですね」


 俺の感想を聞いたヴァネッサは、うん、と言いながら星を見た。


「でも考え方が違っても、寄り添い合うことは出来るわ。あたしはドロシーの価値観を理解したいと思ったの。だからドロシーと同じように振舞うことで、ドロシーの考えを理解しようとしているの」


 ヴァネッサはドロシーを理解するために、自身の価値観では良くないとされる死体と戯れる行為をしていたらしい。

 その行為でドロシーの考えを理解できたかは不明だが、少なくともドロシーに寄り添うことには成功している気がする。


「ヴァネッサさんは俺と年齢がそんなに変わらないように見えるのに、大人ですね」


「あたしは一度失敗しているから」


「そうなんですか?」


「自分の正義を信じすぎて、ある人を傷付けちゃったの」


 しばらく一緒に旅をしてきたが、ヴァネッサの過去の話はあまり知らない。

 ヴァネッサがこのような考えを持つようになるまでには何があったのだろう。


「聞かせてもらえますか?」


「いいわよ。聞いていて気持ちのいい話でもないけどね」


 空に輝く星の下で、ヴァネッサは過去の話を語り始めた。



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