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俺は短剣片手にボスモンスターに向かって行った。
攻撃が目的ではないため、近付きつつも攻撃の回避に集中する。
炎攻撃をかいくぐってボスモンスターに近付くと、今度は噛みつき攻撃が襲ってくる。
ボスモンスターが巨大なせいで迫力があるが、ただの噛みつき攻撃だ。
落ち着いて対処すれば避けることが出来る。
数の減ってしまったドロシーの毒蜂も、ボスモンスターの周りを飛び回ってかく乱している。
毒蜂がボスモンスターに攻撃を与えることは難しいようだが、ボスモンスターは毒蜂を鬱陶しそうにしている。
その隙にヴァネッサがボスモンスターの背後に回った。
「よし、タイミングを見計らって…………え?」
ヴァネッサがいい位置取りになったところで、ボスモンスターが姿を消した。
全身が透明になってしまったのだ。
「うわあ、透明になれるモンスターみたいです。一緒に町へ行けますよ!? 私、ますますキツネくんが欲しいです!」
「それどころじゃないわよ!?」
そう、それどころではない。
姿が見えないのでは、不意打ち攻撃を食らってしまう。
「俺が攻撃を続けて注意を引きつけます。あとは作戦通りに。自分の身は自分で守ってくださいね!」
「ショーンくんが自分の身は自分で守れと言うんですね」
確かに先程助けられたくせにどの口が言うんだって感じだが。
でもまあ、回避を頑張ってほしい。
「俺が攻撃を続けることで、ボスモンスターの輪郭が分かるはずです。砂埃に注目してください」
「毒蜂さんたちも飛び回らせますね。何かにぶつかったら、それがキツネくんです」
「なるほど。任せて!」
「しつこいようですが、尻尾に注意してくださいね」
ここまでボスモンスターは尻尾での攻撃はしていない。
それでもあの尻尾が危険なことは分かる。
この間も俺は攻撃を続けているが、ボスモンスターは俺に対して攻撃を仕掛けてはこない。
きっと何らかの制約があるのだろう。
たとえば透明になっている間は炎を出すことが出来ないとか、噛みつく際には姿を現す必要があるとか。
いや、実はそう思わせることが目的で、透明なままでも攻撃が可能かもしれない。
どちらにしても、俺は攻撃を続けるまでだ。
ボスモンスターには結構な確率で俺の攻撃を避けられているが、気にする必要は無い。
動き回って砂埃を立てながら、囮としてボスモンスターの怒りを買い続ける。
これが今の俺に求められている動きだ。
「…………ここだっ!」
そのとき、ヴァネッサがボスモンスターに長剣を振り下ろした。
攻撃を受けたボスモンスターが姿を現す。
ボスモンスターは身体をひねり、尻尾をヴァネッサに当てようとした。
「尻尾に注意!」
ヴァネッサが飛び退いて尻尾攻撃を避けた。
ボスモンスターは一撃で倒れることは無かったが、かなり深い傷を負っている。
もう透明になることは出来ない……と信じたい。
「ごめん! 仕留めそこなったわ」
「大丈夫です。怪我を負ったおかげでボスモンスターの動きが遅くなりました。ドロシーさん、また毒蜂だけで時間稼ぎをお願いします」
「任されました!」
ボスモンスターの周りを飛んでいた毒蜂が、ボスモンスターの目を狙って集中攻撃を始めた。
ボスモンスターは目を刺されてはたまらないと、毒蜂を燃やしている。
この隙に俺はヴァネッサに近付くと、持っていた短剣を渡した。
「え、なに……?」
「武器を交換しましょう」
そして驚いているヴァネッサから長剣を受け取ると、ボスモンスターの背中に飛び乗り、後ろから首に長剣を突き刺した。
確かな手応えを感じた後、首から長剣を引き抜くと、ボスモンスターから大量の血が吹き出した。
すぐにボスモンスターの背中から飛び降りたが、吹き出した血が顔についてしまった。
袖口でごしごしと顔を拭う。
一方、喉を貫いたためボスモンスターは叫ぶこともなく倒れた。
そして、動かなくなった。




