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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

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●115


 久しぶりの走馬灯だ。

 魔法使いの攻撃を受けたのでは、走馬灯も見る。

 この走馬灯がただの杞憂であって、実際には生きていると良いのだが。


「ずっと何を読んでるんだよ」


「モンスター討伐依頼の契約書」


 走馬灯の中の俺は、契約書を真剣に読んでいるクシューを、ぼーっと眺めている。


「ふーん。契約書なんて読んでも面白くないと思うけど」


「ショーンって真面目なくせに、変なところで抜けてるよな」


 俺としては、チャラい言動の目立つクシューがじっくり契約書を読んでいることの方が意外に感じる。


「契約書を全文読む人なんて少数派だろ?」


「分かってねえな。契約書はきちんと読まないと詐欺に遭うぞ」


「詐欺師なんて、そうそういないだろ」


「それが抜けてるって言ってんだよ」


 今なら分かる。

 契約書をきちんと読まないと詐欺に遭う。

 俺はそのことを、身をもって学んだ。


「その長い髪、邪魔だろ。切ったら?」


 走馬灯の中の俺がそう言った瞬間、ぼんやりとした輪郭だったクシューの外見に長髪が追加された。

 追加されたクシューの長い髪が、契約書の一部を覆い隠している。


「長い髪の方が、戦ったときにカッコイイんだぜ。こう、動きが出てさ」


 クシューは長い髪をバサッと後ろにかき上げて笑った。


「そもそも戦うなよ」


「だって盗賊ってムカつくんだもん。偉そうに『有り金すべて寄越せ』とか言ってくるんだぜ? 俺よりも弱いくせに」


「大体の人間はクシューよりも弱いよ」


 クシューは書類から顔を上げて、シャドーボクシングを始めた。


「だよな。人間じゃ俺の相手にはならねえよな。魔物相手だったらどうか分かんねえけど。今度、強そうな魔物に会ったら手合わせをお願いしてみようかな」


「クシューって魔物と仲良くなるのが上手いよな」


「まあな。俺自身も同じ魔物だからかな」


「それだけじゃない気がする。同じ魔物だとしても、魔物って好戦的な奴が多いから、魔物同士のトラブルも多いだろ?」


「同種族内でのトラブルは人間にも言えることだけど……社会性に関しては、魔物は人間よりも単純だ。強いものが偉い」


 魔物の社会では、強いものが偉い。

 自身も魔物であるクシューはそのように思っているらしい。


 ケイティとレイチェルも同じようなことを言っていた。

 だからアイドルになって、強者に従うしかない弱い魔物でも笑えるような世界にしたいと。


 それほどまでに、魔物の世界では強さが重視されているのだろう。


「強さが全てか。正義かどうかは関係無いんだね」


 走馬灯の中の俺が呟くと、クシューは空に向かって立てた人差し指を左右に振った。


「チッチッチ。正義なんて曖昧なものを指標にするのは、人間だけだぜ?」


「そうなの?」


「人間以外がそんな馬鹿な真似をすると、本気で思うのか?」


「……馬鹿な真似、かあ」


 走馬灯の中の俺が、クシューの意見を肯定も否定もしない微妙な反応を返すと、クシューは説明をするような口調になった。


「他の動物たちだって魔物と同じだ。正義なんてものを指標にはしねえ。見る人によって変わる指標は、指標とは言えねえからな」


「確かに……」


「力なら、誰が見ても勝敗は変わらない。分かりやすい指標なんだよ」


「分かりやすいけど……力を持つ者が偉い世界だと、弱者は虐げられて辛いんじゃないか?」


 走馬灯の中の俺の素朴な疑問に、クシューは真面目な顔で応えた。


「どんな世界であろうとも弱者は必ず生まれる。力が全ての世界でも、知能が全ての世界でも、血筋が全ての世界でも、資本が全ての世界でも、な」


 弱者となる人物が変わるだけで、弱者自体は必ず生まれてしまう。

 それが、この世界の常だ。


「強者とか弱者とか関係なく、全員が幸せになれたらいいのにな。人間も魔族も動物もモンスターも」


「……ああ。きっと、主の目指す未来はそれだ」


 クシューは小さな声で呟いたあとで、パン、と手を叩いた。


「かなり話が逸れたが、俺が強いことを示せば、魔物たちは親切にしてくれる。気の良い奴も多いぜ」


「あはは、話がかなり逸れちゃってたな」


「俺に心酔して子分になろうとしてくる奴までいるんだぜ?」


「……前から思ってたんだけど、俺たちが一定の存在と仲良くするのは良くない気がする」


 走馬灯の中の俺がそう言うと、クシューは「出た、出た」とややうんざりした顔で肩をすくめた。


「魔物も話してみるといい奴らだぜ?」


「いい奴らだとしても、あんまり一つの種族に深入りするのは良くないと思う。俺たちは傍観者なんだから。常に第三者目線を持っていないと」


「深入りしないと分からねえこともあるだろ」


「深入りすると肩入れもしちゃうだろ。主は、そんなことは望んでいないはずだ」


「そうか? 俺は、主は深入りしてほしがってると思うぜ。じゃなけきゃ俺が魔物で、ショーンが人間である必要はないだろ?」


「それは……そうかも?」


 走馬灯の中の俺は、クシューに言い包められそうになっている。


「だろ? 何度も死んで記憶を飛ばす人間よりも、頑丈な魔物二体の旅の方がずっと楽なのに、主はそうしなかった。きっと何かしらの理由があるはずだぜ」


「あー……考えてみるとクシューの言う通りかもしれない。主は、クシューからは魔物に肩入れした意見を、俺からは人間に肩入れした意見を聞きたいのかも?」


「だろ? きっと主は双方の意見を聞きたいから、俺たちの種族を変えたんだ」


 走馬灯の中の俺は、完全にクシューに言い包められている。


「確かに同じ種族ってだけで、俺は人間に親近感を覚えるからなあ」


「俺は魔物に親近感を覚えてるぜ。女の子に関しては、人間でも魔物でも大歓迎だけどな」


「またクシューはそういうことを言うんだから」


「いいじゃん。俺にとって、可愛いは正義だぜ。案外『可愛い』が、人間と魔物を繋ぐ架け橋になるかもな」


「……なったら、いいなあ」





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