●105 side 勇者
僕たちは強くなるために、ダンジョンを求めて旅をしていた。
しかしダンジョンからダンジョンへ移動するわけではなく、途中で町にも立ち寄っている。
アイテムや食料等の物資の補給や、疲労の溜まった身体を休めるためだ。
町では以前とは違い、僕たちは勇者パーティーだと名乗らないようにしていた。
接待を受けて時間を浪費することをしたくないからだ。
これを魔法使いは残念がっていたが、ストイックな傾向のある戦士は喜んでいた。
とはいえ情報を持っている者はどこにでもいるわけで。
僕の剣を見たこの町のとある人間が、この剣が国王から勇者へ贈られたものであり、僕たちが勇者パーティーであることに気付いてしまった。
そのことが町中に伝わり、僕たちは手厚い歓迎を受けた。
久しぶりの歓迎会は楽しく、やはり勇者として歓迎を受けるのは悪くないかもしれない、と思っていた僕に、町長が頼みごとをしてきた。
「勇者様。最近、町には若い女を連れ去る魔物が出るのです。どうか悪い魔物を退治して、町を救ってください」
言っちゃ悪いが、時間のかかる面倒くさい依頼だ。
今この場に悪い魔物とやらを連れて来るのであれば、すぐに退治してやる。
しかし若い女を連れ去る魔物を探し出し、見つけて退治する?
却下だ。僕たちは暇ではない。
「悪いけど、僕たちは先を急ぐ身で……」
「重々承知しております。ですが、このままでは女たちが安心して町を歩くことも出来ず……」
やんわりと断ったが、町長はなおも食い下がる。
「魔物の見た目は? 住処にしている場所は? 次はいつどこに現れる?」
「魔物は二体で行動していて、大きな羽で飛ぶそうです。他は……分かりません」
「話にならないな」
犯人と思われる魔物について聞いてみたが、たったこれだけの情報では、見つけるまでに時間がかかるだろう。
羽を持つ魔物など、掃いて捨てるほどいる。
「あの、勇者さん? 魔物退治は、請け負ってもいいのではありませんか?」
「ああ。魔物と戦えば、俺たちは強くなれる。目的からは外れていない」
「町の人は助かって私たちは強くなれて、ウィンウィンってことよね」
僕が町長の依頼を渋っていると、僧侶と戦士と魔法使いが余計な口を挟んできた。
「魔物を探して退治する時間があったら、ダンジョンに潜った方がずっと効率的に成長できるはずだ」
しかし僕の意見は変わらない。
僕たちは、町の小さなトラブルを解決している場合ではないはずだ。
「早く、早く成長しないと……!」
「最近の勇者は焦り過ぎだ。魔物に困っている町を救うことも、俺たちの使命のはずだ」
何も知らない戦士が、もっともらしいことを言ってきた。
「……お前たちは知らないからそんなことが言えるんだよ」
「知らないって、何を?」
何も知らない魔法使いが、伝えたくない事実を聞こうとしてきた。
「……何でもない」
「勇者さん? やはりあの全滅しかけたダンジョンで何かあったのですか?」
何も知らない僧侶が、核心を突こうとしてきた。
こいつらは、僕を苛立たせることばかりを言ってくる。
前までは荷物持ちに対する嫌悪感の後ろに隠れていたから気付かなかったのかもしれない。
しかし、こいつらと喧嘩をして勇者パーティーが解散になったら、僕は一人で魔王を倒しに行かなければならない。
新しい仲間を見つけようにも、次に仲間になる奴が、こいつらよりも強い保証はどこにもない。
むしろ国が総力を挙げて探してきたこいつらよりも強い奴は、そう簡単には見つからない気がする。
もちろん、魔王を倒す勇者として送り出されたのに、魔王を倒さないという選択肢は無い。
そんなことになったら、国中から石を投げられるどころの騒ぎではない。
第一、僕のプライドが許さない!
「……僕たちが寄り道をするとそれだけ被害を受ける町が増えるから、早く成長をして魔物を倒す必要があるんだよ」
僕は依頼を受けない理由として、波風の立たなそうなことを言っておいた。
それなのに、こいつらは納得しなかった。
「勇者の考えは正しいが、目の前の困っている人を救うことも、正しい行ないのはずだ」
「それに私たちならすぐに魔物を倒せちゃうから、大したタイムロスにはならないはずよ」
「この町では歓迎会をしてもらいましたから、恩を返しても罰は当たらないと思います」
だんだん、こいつらを説得している時間がもったいなく感じてきた。
下手に断るよりもさっさと依頼を終わらせた方が、後腐れもなく早く前に進めるかもしれない。
「……はあ。やればいいんだろ、やれば」
「俺は勇者を信じてたぞ」
「さすがは勇者ね」
「やっぱりあなたは勇者です」
途端に三人が調子のいいことを言ってきた。
こんなどうでもいい依頼、早く終わらせてダンジョンへ急ごう。




