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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

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●104


 夜風を感じながら森の中を歩く。

 冷たい風によって、パニックを起こしそうだった頭がだんだんと冷えていく。


「ケイティさんとレイチェルさんが……町の人に退治を頼まれていた、若い女をさらう魔物だったなんて」


 必死で叫び声の聞こえる場所へ向かっていたから気付かなかったが、ケイティとレイチェルは彼女たちの住処から、かなり離れた場所で人間を殺していたようだ。

 それが住処の周りに血の匂いを漂わせたくなかったからなのか、住処に帰るまで殺したい衝動を我慢できなかったからなのかは分からない。


 ただ一つ分かるのは、このまま彼女たちの住処に戻っても、俺はきっと眠れない。

 だから、夜道を歩く理由が出来てよかった。


「悪い魔物は倒した方が良い……のか?」


 俺が今も勇者パーティーに所属していたのなら、悪い魔物は倒していただろう。

 しかし今の俺はどこにも所属していないし、それ以前に。


「二人は悪い魔物なのだろうか。ネズミを狩る猫は、悪い猫なのだろうか」


 魔物の血が人間を殺させているのだとしたら、それは食物連鎖の一環なのかもしれない。

 そうであるなら、人間を殺している魔物は、「悪い魔物」ではなく「ただの魔物」なのではないだろうか。

 ネズミを狩る猫が「ただの猫」であることと同じだ。


「もちろんこれは彼女たちが本当のことを言っている場合の話だけど……彼女たちが嘘を言っているようには見えなかった」


 俺には魔王リディアのように、他人の心の中を読む能力はない。

 だから彼女たちが本当のことを言っていると感じるのは、あくまでも彼女たちを見て受けた、ただの印象でしかない。

 しかし彼女たちには、俺に対して嘘を吐く理由も必要もないはずだ。


「とはいえ、性も衝動も渇きも、当事者にしか分からないものだからなあ」


 それに俺にはどうすることも出来ない問題だ。

 彼女たちの中から魔物の性を取り除くことなど、出来るわけもない。


「でもこのままにしておいたら、被害者がどんどん増えるわけで……」


「今夜のショーンは独り言が多いのう」


 ハッとして顔を上げると、目の前に魔王リディアが立っていた。


「リディアさん!? どうしてここに!?」


「ショーンがふらふらと出て行ったから、様子を見に来たのじゃ」


 そうだ。この魔王リディアなら、魔物の性について何か知っているかもしれない。

 魔物を統べる王であり、自身も魔物なのだから。


「リディアさんは魔物ですよね」


「何を今さら。当然であろう」


「でもリディアさんが人間を殺しているところを、俺は見たことがありません」


 魔王リディアと一緒に旅をするようになって、結構な月日が経った。

 しかし魔王リディアは、少なくとも俺の前では人間を殺しておらず、また人間を殺したくてウズウズしている姿も見たことがない。


「リディアさんでも、人間を殺したい魔物の性とか衝動を感じるものなんですか?」


 俺の質問を聞いて、魔王リディアは俺が今何を見てきたのか悟ったようだった。

 魔王リディアは、ケイティとレイチェルが町から人間をさらっている犯人だと気付いていたのかもしれない。


「……あの魔物たちはまだ若い。衝動を飲み込むことが出来なかったのじゃろう」


「ということは、リディアさんも人間を殺したい衝動を感じるんですね?」


 魔王リディアはこの質問にすぐには答えず、空を見上げた。

 つられて俺も空を見上げる。

 空には、今にも消えそうな細い月が昇っていた。


「妾も昔は魔物の血による衝動を感じておったが、衝動を飲み込み続けるうちに、衝動を飲み込むことが日常になっていったのじゃ」


「……努力で抗える衝動ではないと、彼女たちは言っていました」


「たかだか十数年生きただけの魔物には無理じゃろうな。妾も衝動を飲み込めるようになるまで相当かかったからのう」


 申し訳ないが、魔王リディアでも簡単には出来ないことを、あの若いケイティとレイチェルに出来るとは思えない。

 前に出会ったトウハテ村のアドルファスも、人間を襲わないようになるまでには相当な苦労があったのかもしれない。

 ……それなのに、あんな結末になってしまって悔しい。


 アドルファスに思いを馳せていると、魔王リディアが顔を覗き込んできた。


「質問はこれだけか?」


「あっ、では、どうして衝動を飲み込もうと思ったんですか?」


 追加で質問をしてもよさそうな雰囲気だったので、さらに突っ込んだことを聞いてみた。

 俺は魔王リディアと一緒に旅をしているが、彼女自身のことに関しては、魔王で強くて大人の姿が美人ということしか知らない。


「そうする必要があったからじゃ。必要が無ければ、妾は今も人間を殺しているかもしれん」


「リディアさんにあったという、人間を殺さない必要とは、どういう…………って、えっ!?」


 いいところで、俺の身体はくるりと後ろを向いた。

 そして、元来た道を一直線に走って行く。


「うわ、わ、わーーーーーっ!?」


「おい、ショーン。どこへ行くのじゃ」


「俺にも分かりません! 俺はどこに行くんですかーっ!?」


 走るつもりはないのに、足が勝手に走る。

 しかも全速力で。


 しばらく走りやっと止まったと思ったら、俺は流れるように抜いた短剣で、長剣を受け止めていた。


「なっ!? どうしてお前がここに」


 俺が剣を交えた相手は、勇者だった。





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