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勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~  作者: 竹間単
【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

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●103


 ハンモックで寝ていた俺は、物音で目を覚ました。

 しかし物音はこの部屋で立ったものではなく、遠くから聞こえてくるようだった。

 我ながら耳が良い。


 さらには物音に混ざって叫び声も聞こえてきた。

 どこから聞こえてきたのかは分からないが、女性の叫び声だ。

 俺はハンモックから降りると、迷わず外に出た。


 町からさらわれた女の人が、今まさに殺されようとしているのかもしれない。

 もしくはケイティかレイチェルが、他の強い魔物に襲われているのかもしれない。

 どちらにしても、今まさに殺されようとしている人を見殺しには出来ない。

 助けに行かないと。


 叫び声は聞こえなくなったが、相変わらず物音はしていた。

 そのため暗い森の中だったが、物音のする場所へ向かうこと自体は難しくはなかった。

 現場に辿り着いた俺の目に映ったのは……。


「お二人とも、何をしているんですか」


「あっ、ショーン様。どうしてこんなところにいるんですか?」


「もしかしてハンモックの寝心地が悪かったですか?」


 ケイティとレイチェルだった。

 先程と同じような調子で、普段通りの表情で、彼女たちは雑談を始めた。


「今そんなことはどうでもいいです。それよりも、その女性は……」


 二人の前には、若い女の人が倒れていた。

 大量の血を流しており、どう見てもすでに死んでいる。


「この人間ですか? 夜道を一人で歩いていたから、さらってきたんです」


「人間の女一人だけなら、弱い魔物であるケイティとレイチェルでもさらえますから」


 ケイティとレイチェルは、何でもないことのようにそう言った。

 まるでネズミを捕ったと報告するような気軽さで。


「……お二人は、アクセサリーを奪うために人間を襲ったりはしないと言っていたじゃありませんか」


 だから二人は犯人ではないと思ったのに。

 あの言葉は嘘だったのか。


「はい。部屋で述べた通り、そんなことのために人間を襲ったりはしません」


 騙されたとショックを受ける俺に、しかしレイチェルは自身の言葉が嘘ではないことを告げた。


「じゃあ、どうして……」


「分かりきったことを聞くのは、ケイティたちを試しているんですか?」


 ケイティが不思議そうな顔で俺のことを見つめてきた。

 その目は澄んでいて、とても人間を殺した直後とは思えなかった。


「分かりきったことって……」


「人間を殺すのは、それが魔物のさがだからです」


 ケイティは、にっこりと笑って言った。


「性……?」


 混乱する俺に、ケイティとレイチェルは畳みかけるように続ける。


「猫がネズミを狩るように、魔物は人間を狩るものです」


「魔物が人間を狩るのは、魔物が魔物であるからです」


 魔物は人間を狩ることが運命づけられた生物。

 今この二人は、そう言っているのか!?


 二人が喋るほどに、俺の混乱は深まっていく。


「狩りで人間をさらっていた……んですか? じゃあ部屋にあったアクセサリーは、さらった人たちとは関係の無い物だったんですか?」


「部屋にあったアクセサリーは、さらった人の物ですよ」


「は? え?」


 これ以上、俺を混乱させないでほしい。

 二人は魔物の性のせいで人間を狩ったが、それはそれとしてアクセサリーは盗んだ?

 まるで盗賊の言いわけだ。


「アクセサリーを貰うのは、ついでです。むしろ、せめてもの償いとも言えます」


「死んだ人たちから、レイチェルたちがアクセサリーを引き継いであげるんです」


「引き継ぐって……」


 頭が痛くなってきた。

 ケイティともレイチェルとも言葉が通じているはずなのに、二人の言っていることがまるで分からない。


「……君たちは、アイドルになるんじゃなかったんですか」


 彼女たちは、俺にキラキラとした夢を語ってくれた。

 アイドルになって弱者でも笑えるような世界にしたいと、立派な夢を語っていた。

 それなのに……立派な夢を語る一方で、彼女たちは血に塗れながら人間を殺している。


「ショーン様も、血生臭いとアイドルにはなれないと思うんですね」


「実はレイチェルたちも、そうじゃないかと思っていたんです」


 ケイティとレイチェルは、血に塗れた手を、持っていたハンカチで拭った。

 白かったハンカチが真っ赤に染まっていく。


「じゃあ、なぜ……」


「ケイティもレイチェルも努力はしたんです」


「でも魔物の性は、努力で抗えるものではありませんでした」


「性を抑え込もうとすると、イーッとなるんです」


「こう、むしゃくしゃするというか、喉が渇くような感覚というか……我慢のしすぎで体調を崩すこともありました」


 そう言った二人は、俺のことを見上げた。

 彼女たちの顔は、赤い飛沫で彩られている。


「ショーン様も人間を殺さない期間が長いと、渇きませんか?」


「きっとショーン様には人間を殺さない期間なんてないのでしょうね。とてもお強いから」


「…………」


 何を言えば良いのか分からなかった。

 俺は本物の魔物ではないから。

 人間を殺しているかに関わらず、彼女たちの言う「性」も「渇き」も感じたことはない。


「渇いて渇いて、ついにレイチェルたちは、この渇きが努力ではどうにもならないことを悟りました」


「だからケイティたちは、抑えるのではなく、発散することにしました」


「ショーン様も魔物なら分かるはずです。この抑えきれない衝動を!」


「人間を殺さずにはいられない、この魔物の性を!」


「…………せめて、お墓は作ってあげてください」


 俺はそれだけ言うと、彼女たちの前から去ることにした。

 今からの移動は難しいだろうが、日が昇ったらすぐにここを出発しよう。





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