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ここへは呪いのアイテムを見せてもらいに来たのだった、と当初の目的を思い出した俺は、ケイティとレイチェルに直球で聞いてみることにした。
「二人が呪いのアイテムを持っていると聞いたのですが、見せてくれませんか?」
「呪いのアイテムですか? もちろんいいですよ。役に立たないものですけど」
二人は、すぐに俺の頼みを承諾してくれた。
あとは二人の持っている呪いのアイテムが、俺のユニークスキル・ラッキーメイカーの能力を消してくれるものだと良いのだが。
「ショーン様は、呪いのアイテムに興味があるんですか?」
「はい、諸事情ありまして……」
「呪いのアイテムはコレクターが多いらしいですね。普通のアイテムだと思って近付いた人間を落胆させられますから」
知らなかった。
そんな悪戯っ子みたいな感覚で、呪いのアイテムを集めている魔物もいるのか。
魔物に親近感が湧いてしまう話だ。
「あはは。そんな理由でコレクターになる魔物もいるんですね」
「もちろん自分の住処に保管して、外には一切出さないコレクターもいますけどね」
こちらの方が、俺の知っているコレクターの人物像と合致している。
コレクターは自身のコレクションを他人に触られることを嫌うイメージだ。
俺とレイチェルが会話をしている間、ケイティはずっと部屋の中を漁っていた。
今や部屋の中は、どこに収納していたのか不思議になるほどの物で溢れている。
服の系統に合わせて付けるアクセサリーを変えているのか、可愛いネックレスから地味な髪留め、ギラギラした腕輪など、様々な種類のアクセサリーが床に散らばっている。
先程は二人が人間をさらうわけがないと思ったが、ジャンルがバラバラのアクセサリーを見て、嫌な考えが頭をよぎってしまった。
もしかしてケイティとレイチェルは、アクセサリーのコレクターなのではないだろうか。
アクセサリーを奪うために、若い女をさらっているのではないだろうか。
一度気になってしまうと、いてもたってもいられなくなってしまったため、隣にいたレイチェルに疑問をぶつけてみることにした。
「あのさ、アクセサリーを奪うために人間を襲う魔物っていると思う?」
「うーん、強い魔物ならそういう者もいるかもしれませんね。ですが弱い魔物にとって、人間を襲うことは死活問題です。アクセサリーのためだけにそんなリスクを冒す者は少ないと思います」
「じゃあレイチェルたちは、アクセサリーが欲しくて人間を襲ったことはないんだね?」
「はい、ありません。アクセサリーは絶対に必要なものではなく、あくまでもオシャレです。オシャレのために命を危険には晒せません。それにアクセサリーが無くてもレイチェルたちは可愛いですから」
注意深く観察したが、レイチェルに嘘を吐いている様子は無かった。
そもそも魔物の姿である俺相手に、人間を襲った事実を隠す必要が無い。
レイチェルの言葉を聞いて、俺は改めて彼女たちは犯人ではないと考え、安堵した。
「うーん、どこにあったかな…………あ、あった!」
ようやく目的の品を見つけたらしいケイティが、俺たちの元へとやってきた。
「これです。これが呪いの招き猫です」
ケイティが持っていたのは、半分が金色に、半分が黒色に塗られた招き猫だった。
すぐにアイテムの説明文を確認する。
「なになに。この招き猫を店の前に置くと、どんどん客が寄ってくる。同時に幽霊の類も寄ってくる……呪いのアイテムらしい効果ですね」
残念ながら、俺の求めている呪いのアイテムではないが。
しかしそんな俺の事情を知らないケイティは、俺の手の上に呪いの招き猫を乗せた。
「必要ならショーン様に差し上げます。ショーン様にプレゼントを贈るのは、ケイティにとって誇らしい出来事ですから」
「……すみません。どうやらその呪いの招き猫は、俺が探している呪いのアイテムではなかったみたいです」
「なるほど。ショーン様には探している呪いのアイテムがあるんですね? レイチェルたちも一緒に探しましょうか?」
呪いのアイテム探しを手伝ってくれるつもりなのは嬉しいが、若い二人の人生を俺のために消費させるのは申し訳がない。
二人には叶えたい大きな夢があるのだから、二人の時間はその夢を叶えるために使ってほしい。
「お気持ちだけで十分ですよ。あとこの招き猫はお返ししますね。アイドルにとっては役に立ちそうなアイテムですよ。客が寄ってきますからね」
幽霊も寄ってくるが。
でもまあ、二人は魔物だから、幽霊を怖がらないかもしれない。
……魔物に幽霊が怖いかを聞いたことがないから分からないが。
「ですが、探し物なら人数が多い方が……」
なおも手伝ってくれようとするケイティとレイチェルに、激励の言葉を贈る。
「二人にはアイドルになる夢があるんですから、そっちを優先してください。アイドルは、他のことに気を取られながら達成できる夢ではないはずです。夢に向かってまっすぐ進めば、きっと二人はアイドルになれますから!」
俺の言葉を聞いた二人は、目に涙を浮かべた。
「ショーン様、レイチェルたちのことをこんなに応援してくださって……光栄です!」
「絶対にアイドルになろうね、レイチェル」
「うん。一緒に頑張ろうね、ケイティ」
ケイティとレイチェルは抱き合って、一緒にアイドルになろうと何度も言い合った。
きっとこういうキラキラしたものを見たときに、尊い、という単語を使うのだろう。




