殺してしまった。ほかでもない、私が。資格はないかもしれないが、償うためにもう一度チャンスをもらえたら。
小説なんて書いたこともない人間の駄文でしかありません。
お目汚しを失礼いたします。
線状降水帯なるものが直撃した大雨が続く昼下がり、私は舞い上がった。子猫が来たのだ。
週末、暇な大学生の私は帰省していた。
父が仕事から帰ってきた。先住猫にあたるはずだった猫は大好きな主人の帰りに飛び起きた。
「あぁ。帰ってきたんだ。」
私も猫と一緒に出迎えに行こうとした。
玄関の開く音とともに、
「ナァーオ、ナーオ。」
弱弱しい猫の鳴き声。
驚いた。完全に虚を突かれた。猫も飛び上がった。
せかせか落ち着かず帰ってきた父は紙袋を抱えて風呂場へ直行した。
私も追いかけた。
「子猫でも拾ってきたのか?鳴き声がしたぞ。」
「その通り。仕事着を着替えてくるから、その間に風呂に入れてやってくれ。」
「唐突だなぁ。」
「この雨の中道路の真ん中で倒れていたんだ。拾わないわけがないだろ。」
「それは仕方ないね」
風呂に置かれた紙袋を開けて絶句した。ドロドロでびちゃびちゃの子猫。気の毒な風貌だった。桶に水をため先住猫のシャンプーで洗う。メスだった。何度も何度も水を替え、やっと綺麗にしてやれた。気を使ってはいても衰弱し子猫にはきつかったのかもれない。はじめは鳴いてくれていたが、次第に弱くなっていた。体を拭き、いつの間にか父が用意していた段ボールの中でタオルに包んだ。
「弱ってるね。」
「ひどい雨の中居たんだ、仕方ないな。」
「病院は?」
「日曜日だから開いてない所ばかりだ。開いているところの診療開始は二時間後らしい。」
「もってくれるかね?」
「耐えてくれるといいな。」
とりあえず一段落ついて、母が二階から降りてきた。
「子猫?かわいい?」
「ガリガリで気の毒。」
「ほんとね、でもちゃんと息してる。生きてるね。こんな雨の中。よかったよかった。」
落ち着かない二時間だ。友達に連絡してみたり、引けもしないギターを練習して気をまぎらわせた。
綺麗にしてやって、暖かくしてやって、あとは何もできなかった。
父と母に子猫は任せていた。
「そろそろ行くけど、ついてくるか?」
「行く。」
病院に向かう。道中、子猫は道の凸凹に揺れた車内で弱弱しく鳴いた。
「鳴いたね。」
「暖かくして、少しは元気が戻ったのかもな。」
「あんまりびっくりさせても気の毒よ。」
「気を付けて走ってますよ。」
病院へ着いた。午後の診療の開始の時間。いの一番に飛び込んだ。
「雨の中、衰弱した猫を拾って来て…。診てもらえますか?」
「洗濯ネットを貸すから、入れて連れてきて。」
「はい!」
一安心だ。診てもらえる。助けられるかもしれない。
子猫を連れて診察室に行き、診察台に置く。
「痩せてるねぇ、650グラム。このくらいの大きさだと生後二か月ぐらいかな。本当だったら一キロ超えてるぐらいなんだけどね。このくらいならカリカリの餌も食べれるかな。」
「洗ったときに見たのは骨と皮だけみたいな感じで…」
「栄養失調と脱水がひどいね。あと、ノミ。とりあえず、点滴と駆虫剤出そうか。」
「よくなってくれるといいな。」
「点滴を打って、暖かくしてあげたら、あとはこの子が生きようとする力次第だね」
点滴が打たれる。子猫は弱弱しく、だが、もがいた。
「注射はいやだよね。」
父はつぶやいた。
点滴を打ち終え、子猫はほんの少し元気を取り戻した。よく鳴いた。診察台を這うように、けれど少し力を込めて動いた。
「あぁ、よかった。これなら餌も少しあげてみよ
か。」
先生は餌を用意してくれた。
「カリッ、カリッ。」
「食べた!」
「良かった、一安心だね。生きてくれるかもしれない。」
子猫は生きようとてくれた。
私たちの緊張の糸はほどけてしまった。
先生にこれからのアドバイスを受け、私たちは帰路についた。
帰りの社内で子猫は鳴いた。前より元気に。
私たちは安心して談笑した。
「名前どうしようか。」
「いろんな知り合いに聞いて、気に入ったのにしてやろうかな。」
「うちの子と仲良くしてくれるかな?」
「まあ、大丈夫でしょう
なんて、子猫の未来を語った。
家につき、早速アドバイス通りに住処を作った。病気を持っているかもしれないので先住猫とは離すことにした。二階の父の部屋の前に設置した。
子猫は寝ていた。
私たちは、一階で夕食、団欒をした。
私が大学のため、車で時間ほどの下宿先まで戻らないといけなかった。
父はいつも送ってくれる。今回も送ってくれることとなった。
子猫の様子を見に行って、寝ている様子に安心した。
「じゃあ、また来週。帰ってくるから元気になっててね。」
そんな風に声をかけた。
「それじゃあ、行ってくるわ。」
子猫は元気になるだろうと思いながら、私と父は出かけた。
「良かったね、元気になりそうで。」
「体重が軽すぎるのが心配よ。」
「でも餌食べてくれたし。大丈夫でしょ」
「そうかもね。」
穏やかな会話をした。
出発して1時間ほど経った頃だろうか。母から連絡がきた。
「うんこしてるよ、箱から出てきてる。」
寒くならないように、アドバイスを受け用意した住処の箱から子猫が出ていた。
「うんこ綺麗にしてあげといて。」
その程度の指示を父はした。
「死んでるかも。」
母からの続報。あれから30分と経っていなかった。
信じられなかった。信じたくなかった。
「息は?」
「ない。」
「脈は?」
「わからない。」
「体温は?」
「冷たいかも。」
どう考えても死んでいる。どう考えたって生きていない。
どうしようもなかった。
どうにかしてあげたかった。
どうにもできない、無力でしかなかった。
あぁ、無念だ。
彼女は生きようとしていた。
彼女は希望を持った目をしていた。
彼女が生きたがっていたことは間違いなかった。
彼女を生かしたかった
彼女に生きていてほしかった。
彼女と一緒に遊んでみたかった。
彼女が先住猫と仲良くしているところを見たかった。
彼女に走り回って欲しかった。
いくらでも願いはあった。
彼女を生かせれなかった。
彼女が震えていたかもれない。
彼女のそばにいてあげれれば築いてあげられたかもれない。
彼女から父を引き離さなければ父が気づいて対処していたかもしれない。
私の事情なんか無視して、彼女のそばにいてあげるべきだった。
死に目を看取ってすらやれなかった。
名前すらつけてやれなかった。
温めてやれなかった。
愛してやれなかった。
出会ってたったの数時間の出来事だ。20年に満たない私の人生、その中でも一瞬の出来事。
痛烈だった 。忘れることはできない。
あんなにかわいかったのに。あんなに愛しく思えたのに。
私は子猫を死なせた。私が殺してしまったようなものだ。
後悔がつのる。
いつぶりだろうか。本当に泣いた。
元気になってほしかった。おやつをねだるように日常の中での鳴き声を聞きたかった。
それで、幸せを感じたかった。
自分よりどうしようもないほどに弱いものを生かしてやれなかった私は最低だ。
そんな私にもし、私にもう一度助けを求めるものが来たら、私はその資格があるだろうか。
それでも、すべてを投げ捨て助けなければならないだろう。この先同じ公開をしないためにも、そして、それしかこの子猫への贖罪はないのだから。
長々と駄文を失礼いたしました。
なにぶん、文章に慣れていないもので見苦しいものであったと思います。お目汚しして申し訳ありません。
もし、読んでくださる方がいたなら、私としましてはたいへんうれしく存じあげます。
一匹の猫を生かしてやれなかった後悔が動機でありまして、その猫の最後を少しでも記録に残したく、また、後悔を風化させないためのただの自己満足に過ぎないものです。
そのようなものをインターネットの海へと投げ込むのも不適切かと存じ上げておりますが、同時に、私の無念を受け入れてくださるのもインターネットの懐の深さの他に無いとも考え、投稿するに至った次第であります。
もし、読んでくださる方がいたなら、私としましてはたいへんうれしく存じあげます。
大変勝手なことではありますが、この場を借りて私なりの子猫への供養とさせていただきます。