【短編】聖女ですが大好きな王子に婚約破棄された結果光魔法が爆発しました
「偽聖女セツナ、能力を偽った罪で君をこの国から追放する!」
「えっ」
「当然この僕、アルフォンソ・クランベルとの婚約も破棄だ!!」
「そんなのやだ!!」
王宮の大広間に突然呼び出されたと思ったら急に断罪が始まり、私は叫んだ。
偽者も何も私を勝手に召喚して勝手に聖女扱いしたのはこの国じゃないか。
しかも全く無関係の私に国の窮地を救ってくれと言い出して、お陰で週五日は魔物退治の日々だ。
残りの二日は王妃になる為の勉強でほぼ消える。
そう、私は目の前の金髪碧眼の美男子アルフォンソ・クランベル王子の婚約者なのだ。
ちなみに私を召喚させたのは彼の父親のクランベル国王だ。
学校からの帰り道、突然私はこの世界に呼び出された。
そして東の山に陣取る魔王を倒せと当たり前のように国王に命令されたのだ。
殴り合いの喧嘩すらしたことないただの女子高生の私の事情など一切考慮することは無かった。
その後、賢者と名乗るお年寄りに私は強い光の魔力というものがあり、それを使って攻撃や治癒が出来ると教えられた。
光の魔力があると言われても一度も使ったことなんて無い。
そもそも戦ったことも大怪我をしたことも無いのだ。
大体魔王と戦いたくなんて無い。
じゃあしょうがないね帰って良いよなんて王様は言わなかった。
出来るようになるまで特訓させられて、その間最低限の食事しか貰えなかった。
コップの水一杯と固いパン一個だけとか。
魔物を倒したらまともな食事にしてやると言われた。
アルフォンソがこっそりと菓子や美味しい料理を差し入れてくれなければ、自殺していた。
いや食事だけじゃない、彼だけが私に心から謝罪してくれた。
僕たちが不甲斐ないせいで君の人生を台無しにしてすまない。
自分に出来る限りのことはすると。
御免で済んだら警察は要らないなんて言えないぐらい私の精神は弱っていた。
だから謝罪だけでも、本当に救われたんだ。
そして彼はちゃんと実行してくれた。
私を自分の婚約者にするよう国王に頼み込んだのだ。
そのお陰で私の生活環境は劇的に改善した。
理不尽の塊みたいなあの国王も流石に息子のお嫁さんになる私に薄汚い部屋で粗末な食事をさせる訳にはいかなかったらしい。
環境が良くなり、アルフォンソの励ましもあって私の精神は安定した。
そうしたら光魔法の威力も強くなった。精神力が鍵らしい。
私は彼が望むならこの力で魔王を倒そうと決意した。
そしてアルフォンソと結婚出来るなら聖女としてこの国を守り続けてもいいと思っていた。
それなのに。
「どうして? 私ウソなんてついてないよ!婚約破棄なんて絶対嫌!!」
「っ、衛兵、早く彼女をこの荷物と一緒に国境に置いて来い!!」
私が泣いて嫌がってもアルフォンソはお構いなしで追放を実行しようとする。
彼に指示された兵士は困惑していた。
当たり前だ、偽者だろうが本物だろうが私が居なければ魔王に太刀打ちなんて出来ない。
毎回王都に魔王直属の部下が攻めて来た時に撃退しているのも私なのだから。
もし本当に私を捨てるなら、いっそ魔王の配下になってやる。
そう言い出そうとした時だった。
「……何を騒いでいる!」
不機嫌そうな怒鳴り声と一緒に豪華な服を着た中年男性が広間に入ってくる。
「……父上」
アルフォンソが顔を青くして呟く。
だから私は追放も婚約破棄もアルフォンソの独断なんだと気づいた。
広間に居た兵士の一人が国王に近づき今までのやり取りを報告している。
アルフォンソは一人で大慌てしている。隠していたなら当然か。
息子の行動を教えられ、国王は舌打ちをした。
「この愚息が、余計なことをするな!」
「父上、セツナは聖女ではありません!だから……」
「黙れ、衛兵。そこの聖女をさっさと縛り上げろ!!」
「は?」
私は再び目を丸くする。もしかして国王も息子と同意見なの?
しかしその割にアルフォンソは嬉しそうではない。
寧ろ泣き出しそうな顔でこちらを見てくる。
「セツナ、逃げてくれ!!」
しかも必死に叫んでいる。逃げるって何から?
私が首を傾げていると国王が咳払いを一つした。そしてニヤリと笑う。
「魔王がな、聖女を贄に捧げれば儂に協力し邪魔な国のみを滅ぼしてやると言ってきたのだ」
「だからって、今まで我が国の為に戦ってくれたセツナを……!」
「それがどうした。 その為に召喚したのだから当たり前だ。お前も王子なら理解しろ」
「彼女を利用するだけ利用して使い捨てるなんて真似、理解したくありません!!」
「愚か者が……まずアルフォンソを縛り上げろ!!」
私は親子喧嘩を眺めながら思った。
ああ、そういうことねと。
アルフォンソは私を生贄にしない為に偽聖女呼ばわりした。
そしてこの国から逃がす為に追放すると言い出したのだ。
全部私を想っての事。
「よかった……!!」
捨てられた絶望で憎しみになりかけた彼への愛が何十倍、いや何百倍にも膨らむ。
私はそれを我慢せず光魔法として解放した。
邪悪な存在だけを消滅させる、最高位の光魔法を。全力以上でぶっ放した。
凄まじい輝きは私を中心に城内を満たすだけでなく、外へも放たれる。
多分魔王の城にも届いたと思う。少しして空が揺れる程の凄まじい悲鳴が聞こえたから。
そして魔王の断末魔と私の光魔法が消えた後大広間の人口は半分ぐらいになっていた。
国王は跡形もなく消えていた。光魔法に邪悪認定されて浄化されちゃったんだと思う。
残った人たちも倒れていた。
私はアルフォンソに手を貸して立ち上がらせながら言う。
「ごめんなさい、魔王と一緒にあなたのお父さんも消してしまったみたい……」
私を生贄にしようとしたから自業自得かもしれないが、それでも彼の父親だ。
改めて婚約破棄されてしまうかもしれない。震える私にアルフォンソは青い顔でそれでも微笑む。
「父は君を犠牲に魔王を利用しようとしていた、仕方が無いよ」
「アルフォンソ……」
「セツナ、君はもう自由だ。君を元の世界に帰す為僕も全力を……」
「は?」
「……ごめん、本音を言うよ。ずっと僕の傍に居て欲しい、どこにも行って欲しくない」
さっき婚約破棄と追放を告げた時、魂が裂けてしまいそうなぐらい苦しかった。
そう震えながら涙ぐむ彼を抱きしめ私は言う。
「大丈夫よアルフォンソ、私はずっとあなたと一緒。そしてあなたを一生守ってあげるから」
ついでにこの国も守ってあげる。
私の言葉に彼は嬉しそうに笑った。
「だからもうさっさと結婚しちゃいましょう」
「うん、セツナ。僕の花嫁になって欲しい」
「喜んで!!」
既に婚約関係だったけど改めてプロポーズ成立だ。
魔王とついでに邪悪な王様が滅び、そして私と彼は新米国王と王妃になった。