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学業特区の騒がしい朝 B

広大な土地を利用し作られた学業特区には、当然住み分けというものがある。

将来有望な強力な能力を持っている能力者にはそれ相応の就学施設が与えられているし、逆に言えば将来に何の可能性も見出せない残念な能力しか持っていない人間には同じように残念な学校が割り振られる。

そして幸運な事に量子霊体ホロゴーストの能力は前者のようだ。

世界レベルでその存在が珍しい№0の能力者というのは、このご時世国レベルの財産だから、生まれたての子猫のように丁寧に扱われているため、当然のように№0の能力者は、一人に一つ個室を与えられ、そこで食事を済ませているわけだが。

今日のこの僕柏原(かいばら) 主能すのうの朝は、呆れるほどに賑やかだった。


「うっわ、主能このお菓子おいしいよ!」


と、いいながらお茶請けだけをばくばくとお茶なしで頬張りハムスターのように頬を膨らませたゴスロリ少女、冥加町みょうがまち 幽香かすか


「だろ?これだから№0は止めらんねぇのよ」


ソファーに足を投げ出し、あたかもここが自分の部屋のように振舞う道化師メイクの変態、晴沢はれさわ 貴司きし

朝起きたらいきなりこの状況。

客観的に見ても全く理由が見えてこない。

全く勘弁してもらいたい、昨夜も不良たちを留置所まで送り届けてようやく寝れると思った矢先に学業特区最高責任者とか言うたいそうな肩書きを振り回すめんどくさい学長の相手を朝までさせられて寝不足気味なのだ。

だからここは、穏便に、確実に帰ってもらう事にした。


「スミマセン、君達が朝食をとっているのはわかっているんですが、実際ここは僕の部屋。僕の許可なしに勝手に上がりこんだあなた達を追い出す権利が僕にはあるはずです。なので、僕はその権利を行使します。今すぐここから立ち去って、僕の平穏な朝を返してください」


「ングング………で?なに主能、このお菓子欲しいの?」


聞いてなかったんですかそうですか。

仕方がないので、僕は実力行使に出ようと立ち上がろうとして………と、そこである事に気づく。


「君達、どうやってこの部屋にはいったんですか?」

「ああ、それかい。学長が鍵くれたんよ」

「うん、なんか緊急だから彼のプライバシーは二の次、むしろ率先して侵害してきなさいって言われた」

「………………一度彼女とは拳を持ってして語り合った方がいいかもしれませんね」


ともかく、彼らが勝手に取り出して食べていた僕の休日の楽しみを冥加町から避難させると(といってももう半分以上持っていかれていたが)ベッドの下から座布団を取り出して彼らに勧めた。


「本当につまらん男だねぇ、ベッドの下に座布団と健全な雑誌類しか入れとらんとは」

「ほっといてくださいよ、というか、なんで健全な雑誌類が入っている事を知ってるんですか」

「そりゃあ一人暮らしの男の家に来たらやる事は一つよ。なー」

「ねー」

「僕のプライバシーをいわれた通りに侵害しないでください!」


危なかった。

彼らが冷蔵庫の氷置き場にまで調べる熱心さがあれば間違いなく僕の心の大切な部分が欠落していた事だろう。


ま、それはともかく。

学業特区最高峰の能力者が二人も尋ねてきたわけを、尋ねる必要があるだろう。


「で、一体何をしに来たんです?」

「何しに来たんだろ?」


ほほをつねった。全力で。


「痛い痛い痛いよ!取れちゃうよ!」

「人の部屋に用もなく上がりこむ事に対して相応の報いを与えているまでです」

「いや、彼女の言ってる事はあながち間違ってもないんよ」

「はい?」

「つまり、学長はここに来るように入ったが、ここに来て何をするべきかは言わなかったという話」

「そふらよ!わわひかくひょうにひわへてきらんらひょ!」


とりあえず新たな可能性が浮上したので幽を放してやった。

ジト目でにらんでくる幽香を視線の端に感じながらも僕は晴沢に先を促す。


「つまりな、学長はなんかお前に協力しろっていったんよ。事情は昨日お前に説明済みだから指示仰げってなぁ」

「なるほど、つまり僕に何とかしろと」


よく言えば全面的に信頼されている。悪く言えば面倒で放っておかれているとそういう事らしい。

だがこの二人を学長が送り込んでくるということはこの二人が今回の事件に最も適任ということ。

学長は適当な人物でたまに(………いや、しょっちゅうだが)殴りたくなるような人物だが、アレでも学業特区最高責任者なのだ。

この二人のチョイスというのも何らかの理由があるのだろう。

とりあえず僕は頭脳を最大限働かせ、簡潔に指示を出す。


「それじゃあ僕と晴沢はフィールドワークに繰り出しましょう。幽香さんは斉坂君と平方さんに連絡を取って、一緒に彼らの学校にいる夏宮なつみや 翠葉すいはという女子生徒を監視してください」


「………………主能がさっきのこと謝らないと嫌」


思考回路が完全に子供だった。

彼女になぜこんな破壊的な能力がついたのだろうと首をひねりたくなる。

彼女の能力は、金属細工フルメタルワーク№04382。

金属細工はその名の通り金属の形状、性質を自由に変える事の出来る比較的ポピュラーな能力だが、それだけに四ケタ台の能力者というのは強力な能力であることがうかがえる。

彼女が操ることの出来る金属は銅。彼女はその銅の質量を変化させることの出来る、金属細工フルメタルワークの能力の中でも重力操作という部類に位置する能力を持っている。

彼女は10円玉を最大で127キロまで質量を増大させ、通常500キロ分の銅の塊を片手で持ち運べる重さにすることができる能力を持つ為にこの学業特区の中でも破壊力だけでいえば一二を争うまでの実力者なのだった。

その実力を最大限活かす為必要ならば、いくらでも謝る事は出来るさ僕。

そう割り切って僕は感情を最大限抑えて謝る。


「………………スミマセンでした」

「許す。で、その夏宮さんっていうのは何をした人?」


ホントに子供か、それか躁うつ病の患者みたいにコロコロ感情が動く。


「彼女は№0にもかかわらず、わざわざレベルの低い高校に入り、能力者の不良集団とコンタクトを取っているようなんですよ。ですから必要とあれば、風紀の為に捕縛してください」

「………………わかった」


どこかしら落ち込んだ彼女の顔を見るに、捕縛の意味は十二分に理解しているらしい。

全く、これだから風紀委員が嫌になる。

そして同時に、だからこそと言う使命感。


(結局、自己満足ですね)


誰にも聞こえない声で自己完結して、僕らは立ち上がる。


「それでは、風紀を正しにいきましょう」

「…………なんだそれ、決め台詞か何かか?」

「うっわ主能、それなんだかカッコいいね♪映画みたいで」

「……頼みますから、無駄なツッコミを入れないように」


しかし、クールにとはいかないようだった。

能力名 金属細工フルメタルワーク№04382

能力者 冥加町みょうがまち 幽香かすか

銅の質量を変化させる能力。

十円玉の重さを増大させ、普通なら500キロはある銅の塊を軽々振り回すことの出来る破壊力のある能力。

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