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学術特区の過激な日常 A

学術特区。


15歳になり能力を開花させた能力者たちを研究、管理するために町二つを開発して作られた特殊機関。

と、いえば聞こえはいいが実際のところこの学術特区は能力者たちの選別と制御の為の機関。

初めて能力者が出現してから早20年。第一期の能力者たちはすでに社会へ順応しているが、十五歳になり能力を発現した彼らに能力の危険性や制御法を教えないことには強力な能力者はあまりにも危険すぎるうえに、実際国が保有している能力者の質がそのまま軍事力に直結するため現在能力者の把握は政府にとっても急務なのだ。

そのため、広大な土地を整備し一箇所に能力者を固めることで少しでも管理しやすいようにと作られたのがこの『学業特区』なのだが……



現実問題、初めて能力を手にした少年少女というのは手榴弾をおもちゃと勘違いした赤ちゃん並みに危険なものであり、彼らをひとところに集めようものなら暴発必死の状態だった。

それゆえ、学業特区は今日も今日とて軽く無法地帯と化していた。





「ねえ君、僕等チョーット金欠でさあ」


連立したビルの狭間、絶好のカツアゲポイントで一人の少年が複数の同年代の少年にに取り囲まれている。

見るからに不良といった面持ちの彼らは当然ながら能力者であり普通のチンピラよりよほどたちが悪い。

学業特区は巨大な土地にわずか半年の歳月で学校はもちろん、学生客を狙ったファーストフード店が我先にと建物を建てまくったためにこうした『狭間』が多数存在する造りとなってしまっていて、このような人種が非常に住みやすい空間と化してしまっている。

そのためにこうしたことは日常茶飯事起きていて、少し大通りを外れた地点を一人で通っている学生などほとんどいないわけで。

つまり、見るからにカツアゲる気満々の能力をもてあました不良たちに取り囲まれるというのは、その少年のせいといえなくもないのだが、その少年は全く動じずにむしろ、


「そうですか、それならばこんなところで油を売っていないで勉学に励むことをお勧めします」


堂々と、彼らたちを諭し始めた。

その少年は背丈こそ高いものの、眼鏡をかけて片手には本を持ち見るからにガリ勉タイプ。

そして、女子生徒たちががほうっておかないような甘いマスクを持っている。

そんな彼に諭されるというのは暴力を日常としている彼らにとっては最大の屈辱だろう。

眼鏡の美少年の説教はまだ続く。


「あなた達がどうやら僕から金品を巻き上げようとしているという意図は伝わってきました。ですが、仮に僕があなた方の顔を完全に覚えていて、その記憶を持って『風紀委員』のところへ申し出ればあなた方の生徒IDは剥奪され、一週間ほどの矯正プログラムにつかされることでしょう。そうなれば貴方方の未来に傷がつくことは必至。そうなる前に少しでもよい成績を残し、然るべきところに就職したほうがより安全に金を手に出来ることでしょう。と、私は提案してみますが、どうでしょう」


と、息継ぎもせずにそれだけのことを言い終えた少年はやり遂げたような顔をして彼らの出方をうかがう。

しかし少年の説教はどうやら彼らには届かなかったらしく、不良たちは一生分の忍耐力を使い果たしたかのような顔をしていた。

やがて、その中でもリーダー格といった面持ちのバンダナを巻いた青年が口を開いた。


「うん、うん、とりあえずね、わかった理解した合点がいったよ。つまり君はこういうことが言いたいんだろう?『貴様らみたいなのと付き合ってる暇なない』とさぁ…」


「いえ、決してそういうことではなくて………」


「んで、更にこう言いたい訳だ、『僕は勉強しているから貴様らみたいな人間等よりよっぽど偉い』とねぇ」


「いえ、ですから僕は………」


「つまりこういうことなんだろう?君は、俺らに、けんかを売っている」


一言一言を噛みしめるように言い終えた彼は、冷静は口調とは裏腹に近くの壁を蹴りつける。

瞬間、炸裂音が響き、蹴りつけた壁が埋没する。

その爆音は狭い路地裏に反響し、それを聞いた仲間のチンピラさえ軽い恐怖を覚えた。

しかし、眼鏡の少年は笑みを崩すことなく再び説教を始める。


「いやあ素晴らしい能力ですね、身体向上ストレングスの能力ですか。これほどの能力ならば将来はほぼ約束されているといっても過言ではありませんねぇ」


パシン。


彼の眉間に浮かんだ筋が、文字通り爆ぜた。

身体向上ストレングスの能力とは自身の筋繊維の数を増やし筋力を人間レベルから超人レベルに底上げする能力。

無論そのドーピングに耐えられるよう体もある程度の負荷には耐えられるように変異しているのだが、ある臨界点まで膨張した筋繊維は爆ぜ、その筋肉の代わりに全身を覆うそれは………


巨神化タイタンですか……僕も見るのは初めてですよ」


全身をくまなく覆う肉、肉、肉。

極限まで硬質化した新たな筋繊維が全身を覆い彼の体は元の大きさの約3倍。

ビルの狭間で窮屈そうに身をかがめる彼の服はびりびりに裂け見る影もなく、その姿まさに巨神。

そして、その巨体が吼える。


「ア~ア~ア~、ったくやってくれるよ!これやったあと筋肉痛で3日ぐれぇ動けねえってのにそこまで俺を怒らせるかね普通?ったく俺が何したよ?この貧乏学生のふところ少しばかり暖めてくれってだけの話だったのによぉ、これはもうアレだ、死亡確定ってヤツ?」


そういい終わるとと、ゆっくりとした動作でこぶしを振り上げる。

彼の仲間達はこのあと何が起きるかを知っているらしくすでに遠く逃げ去っている。

そして、視認さえ難しいスピードでその拳は振るわれた。

大地が張り裂けんばかりの轟音が響き、逃げ場をなくした大気は衝撃はとなりは何の罪もないビルのガラスを砕き散らす。

圧倒的な力の行使に、眼鏡の少年の立っていた地面にさえもひびが入った。


だが、ひびが入った地面の上にかけていた眼鏡にさえひびひとつ入っていない彼が立っている。


「なっ……!?」


絶句する巨神。

衝撃によって生まれた砂煙に顔をしかめながら、少年は律義に説明を始めた。


「素晴らしいですよ、能力者のみで形成されたここ『学業特区』のコミュニティの中の一集団のリーダーになっていただけの事はある。ですが残念、僕の能力はその中でも異能中の異能。№0ですから」


「貴様も……!、っくそがアァ!!」


その巨体をもってしての怒りに任せた連撃。

常人ならば肉塊を通り越して肥料となっている拳の雨の中で、なおも少年は話し続ける。


「僕の能力は自らが認識したものを透過できる能力という稀有な能力でしてね。能力名は『量子霊体ホロゴースト№00000』ま、正確には自身の体を構築する分子の間を対象の分子がたまたま通り抜けるという10の二十四乗分の奇跡を自由に起こせるというものなんですが、ここでの貴方の一番の問題はそのコンクリート製の地面で無意味に拳を傷つけていることでなく、今時分貴方が私に対する暴行罪で現行犯逮捕されても文句は言えないということです」


その警告が彼の耳に届いていれば、彼も心の準備くらいは出来たかもしれない。

だが、残念ながら叫びながらコンクリの地面を殴るに等しい愚行を続けている彼の耳には届かなかった。




そして、天気でも見るかのような自然さで空を見上げた量子霊体はその物体を『認識』した。


「アハハハハハハハ、遅ればせながら助太刀参上!」


と、そんな叫び声が何か巨大な物体とともに空から降ってきたのだ。

その巨大な物体とは、鈍色に光る巨大な金属球。

重力に従い落ちてくるそれを巨神が頭上に確認したときには、もう回避など間に合わない。

いくら肉体活性の能力者といえど、その質量に逆らうことなどできるはずもなく………、


何かに何かがめり込む音がして、それきり路地裏では無敗を誇った巨神が起き上がることはなかった。

そして、そんな光景の中全く無傷な眼鏡少年がポツリと呟く。


「……………ていうかこれ、死んでません?」


「うん、死んでないん……………じゃない?」


その呟きに一緒に落ちてきた叫び声の主が答える。

ゴスロリという言葉を知っている人間がいればほぼ100パーセントの確率でそれだと答える服装の少女。

小動物を思わせるクリクリとした目は愛らしく愛くるしく、この学業特区にいながらも15歳かどうかを疑うような凹凸のないボディとその体型に見合った幼い顔。

その外見でおよそ人間の着る服ではないそれを見事に着こなす彼女はまさに天然記念物といえるだろう。

局地的に需要のあるその外見の彼女に対し眼鏡の美少年は冷たい言葉を浴びせる。


「いっときますけど口裏は合わせませんので死んでたら逮捕されてください」


「酷いなあ、だから女の子に顔で告白されたのに性格で振られるんだぞ♪」


巨大な金属球の前で語らう少年少女というシュールな光景。

やがて本来の目的を思い出したかのように少女が微動だにしない男に話しかけた。

聞いている聞いていないはお構いなしに。


「さて、一応規則なんで状況説明を。あなたが持っているか捨てたかは別としてこの学業特区いずれかに入学した際配布された共通の生徒手帳のおそらく誰も読まないような規則のくだりの第7項12条。

『著しく風紀を乱す行為、またはそれに順ずる行為を行っているものを風紀委員は捕縛、逮捕する権限がある』という条文を元に私達風紀委員が実力行使に出ましたのであしからず」


そういって、スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀し終わると普通の口調に戻ってこう付け加えた。


「ていうか、最近勢力拡大してる君達のグループがぜんぜん尻尾を出さないもんだから存在がいらつく眼鏡君に君達いらつかせて無理やり条文行使しただけなんだけどね~、ま、先に手を出したほうが社会的には悪いってことで♪」


風紀委員のくせにみもふたもないことを平気で言う彼女に、あくまで冷静に突っ込みを入れる少年。

くだらない軽口がしばらく続く。


「…………ぶっちゃけますね、実際あなたの点数稼ぎに僕は駆り出されただけなんですけど」

「う~ん、それを知ってて来る君も同罪だと思うよ?」

「まあ、僕も点数稼ぎに異論はないですし、そういえばさっき逃げていったこの筋肉だるまの仲間はどう処理するつもりですか?」

「ああ、新しい子二人に待ち伏せしてもらってたからトラウマと逮捕歴を手に入れちゃうだろうね彼ら」

「……………あの贅肉装飾師ミートコーディネーター群蟲統帥インセクトマスターにですか、補導車だけじゃなくて救急車もいるでしょうそれは」

「うん、呼んどいた。あ、ちょうどあの子達から電話だ………………うん………うん、はぁいご苦労様」

「で、なんと?」

「現地集合。んで、やっぱり救急車を二台ほど呼んでくれって」

「さすが、確信犯ですね」


そんなくだらない軽口も終えて、彼らはようやく歩き始めた。

学業特区の平和を、自身の成績向上のついでに守る為に。

このスペースを使って簡単な能力説明を入れていきたいと思います。


能力名 量子霊体ホロゴースト№00000

能力者 柏原かいばら 主能すのう

自らが認識したものを透過できる能力。正確には自身の体を構築する分子の間を対象の分子を通り抜けさせることが出来る能力。

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