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学術特区の危機と保健室

更新が遅れてスイマセン!

ようやく復活しましたんで、もう一度お楽しみください。

学術特区では、学生の能力という情報の価値はいわば電話番号のような物だった。

万が一でも学校側からもれたりした場合は責任問題に発展するが、しかし生徒達の間では普通にやり取りされている類の個人情報。

周りの注意を引くために吹聴して回る奴もいれば、聞かれた場合のみ答えるような奴、ある程度親しくなった相手にのみ教える奴など、自身の能力への意識は様々だ。

しかし、電話番号と圧倒的に一線を画すのが、流失した場合に発生する問題が極めて暴力的なものになりやすいと言う点だった。


弱い能力と知れた奴は夜間に不良に絡まれる割合が増大し、そしてそれを防ぐ為にそういったもの同士で群れて集団を作るかあるいはその不良の仲間になり、強い能力と知れた奴はその能力を利用したい不良の集団に絡まれて、結果彼らと敵対するか友好的になるかを選択しなければならない。

よほどうまく立ち回らなければ、そういった連中と関わりあうことは必至。

それを警戒し、学術特区側はうかつに能力を他言しない事を『注意』するのだが、

結果として、それが彼らの反発を招くという不毛な堂々巡り的状態が形成されていた。



「…………う、ん。ここは?」


「保健室ですよ先輩」


「も、もうあの虫達はいない?」


「大丈夫です。人格崩壊したメデューサはここにはいません」


「そ、そう…………助かった」


ここは交鳴高校保健室。

普段は怪我をした生徒や、授業をサボりたい生徒や、能力暴走を起こした生徒達でにぎやかなここも、午前中授業のみだった今日は閑散としていた。

現在室内にいるのは、ベッドで力なく横たわる冥加町先輩と、それをわざわざ保健室まで運んできた俺と、それから…………


「も~う、起きたら言ってって言~ったじゃないの~♡」

「…………どうも、角田先生」

「やぁ~ねぇ、マリちゃんって呼んでって言ってるじゃな~い。ほら、マリちゃんって♡」

「ゴメンなさい、いくら先生の頼みとはいえそれは俺の常識的部分が許しません」


保健室の先生、角田 万里夫まりお。通称マリオだ。

殺しても生き返りそうな性格に、『マンマミ~ア~』が似合うハスキーボイスと一度見たら忘れられない衝撃的な顔面の持ち主、そして悪いきのこでも食べたんじゃないかと思うほどの性格。


「んもぅ、ま~ったく、照れ屋さんなんだから~、ホント食べちゃいたい♡」


つまり教育上きわめてよろしくない思考の持ち主。

性同一性障害のオッサンという健全な学園生活に不要なエッセンスを加える人物だ。


「止めてください、なんですかそのあからさまなセクハラは」

「んふっ、無理やりから始まる関係もあるのよぅ?」

「保健室のベッドを悪用しないでください、というか、職員室に帰ってください」

「そうねぇ、若い二人の営みを邪魔しちゃ悪いわねぇ、それじゃ、最後に一つ」

「それを言ったら帰ってくださいよ」

「せめて後腐れないようにしなさいよ、ベッドくらい洗ってあ・げ・る・か・ら♡」

「帰れこの変態教師!」


ヌフフ、と不吉な笑みを浮かべて、グネグネと不快に腰を振りながらようやく社会の敵が出ていった。

まったくこの学校では先生の異常率が高すぎる。

俺が人事権をもっていたら教員の半数をクビにするだろう。

と、俺が架空の人事に思い馳せていたら、会話についていけずにキョトンとしていた先輩が聞いてきた。


「ねぇ、斉坂君。さっきのってどういう意味なのかな?」

「……お願いですから聞かないでください」


せめてこの先輩には清らかなままであって欲しい。

あいつのせいで彼女が暗黒面に落ちてしまったら全校生徒が涙するだろう。


「あ、そういえばわざわざ俺に会いに来てまで伝えたかったことってなんですか?」

「ああ、それはね…………」




「……ふぅ、夏宮が能力を使って特区内の不良グループを炊きつけている、というわけですか」

「あくまでも『仮定』の話だからね斉坂君。でも、それが本当だったら…………」

「学術特区内の生徒の十パーセントが補導されるような事態になりかねませんね。いや、最悪……」

「信用を失った学術特区は事実上崩壊、『脳内配色ブレインパレット』の事件と重ねて能力者の管理に落ち度があると国連で非難されたら、最悪日本は国力そのものである能力者を失う事になりかねないね」

「………………それで?そんな国レベルの問題を、一生徒である僕にどうしろというんです。もっと適任な能力者がいるはずでしょう。なんせここはレベル0を五人も抱えているんだから」

「今はあまり大きな動きは出来ないらしいの。今月いっぱいは中央の方に『監査官』が来てるらしくて、教育委員会は一学園サイズで事を治めたいみたい」

「………………………………」

「あ、あと主能から伝言だよ『あなたの双肩に、学術特区全学生の運命がかかっていると、そう思っていただいて構いません』だってさ、責任重大だね♪」

「笑い話にもなりませんね全く。いい加減気づいて欲しいんですけど、僕はヒーローには不向きですよ?正義の心なんて持ち合わせてませんし、能力も平凡。期待されたらされただけ裏切ってきた僕にこれ以上厄介持ち込んでも、悪化させるのが関の山ですよ?」

「いいよ、別に期待してない。結果出さなくていい。失敗しても構わない。その代わり……」

「全力を尽くせ、ですか」



「わかりましたよ、誠心誠意粉骨砕身全力で世界の為に女の子と仲良くなってきましょう」

「うん♪行って来なさい!私はまだ立ち上がれないから!」



そして、斉坂和平が保健室を出て、保健室は彼女一人となった。

空調の音さえ聞こえるような静寂の中で、彼女は誰にも聞こえないように呟いた。


「ま、嘘だけどね。期待してるよ、斉坂君♪」


そう言って立ち上がった彼女は、パタパタと保健室を後にして。

そして誰もいなくなった。

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