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1−9 支配者登場


「クックックッ。もうすぐで正午を回る。いよいよ支配者の登場だ。まだか。早く来い」


 村人はいよいよ最後だと仲間同士で慰め合い、静かに泣く。

 死ぬ覚悟が出来たと言ったところか。それともまだ生きたいと僅かな希望でも抱いているのだろうか。

 どちらにせよ、その絶望する姿を最後まで見届けてやるよ。


 泣き叫べ! 苦しめ! そして大人しく死ね。

 さて、そろそろ時間か。


 昼なのに空が暗くなった。いや、太陽が影で隠れたんだ。

 上空には村全体を覆い隠すほど巨体が空を飛んでいる。


「こ、これは…………」


 ドスンッ! と、空から着地したその巨体の振動で大地が大きく揺れた。


「きゃ!」とレミリアはバランスを崩す。


 デカすぎる。何だ。こいつは?

 いや、これは間違いない。その正体。それはドラゴンだ。十メートル以上はある赤い鱗に覆われたドラゴンこそ支配者の正体だ。



 ブォォォォォォォォォ‼︎



 ただの吐息だけで台風のような風圧がある。

 確かに支配する力としては申し分ない。

 人間ではないとは思っていたが、まさかドラゴンとは。


「アクト様。怖いですよ」


 レミリアは身体を震わせながら密着させる。


「人質。お前は弟子の後ろに隠れていろ。少なからずそこは安全地帯だ。頼んだぞ。弟子」


「はい。お任せあれ。アクト師匠!」


 ドラニグルとはこのドラゴンを指していたに違いない。

 こいつこそ勇者があえて避けて通る理由という訳だ。


 確かにそこらの勇者がどうにかなる相手ではない。


「我、供物を捧げよ。さもなくばこの村を跡形もなく吹き飛ばしてやるぞよ」


 このドラゴン、喋るのかよ。まぁ、不思議ではないが。


「ニグル様。実はその件ですが、少々問題がありまして」


 長老は重い腰を上げてゆるりとドラゴンの前に出た。


「問題? 申してみろ」


「申し訳ありません。本日分の食料は用意することが出来ませんでした。どうかお許しを」


「お許しを!」


 村人全員でドラゴンに向けて土下座する。

 村人が困る姿を見て面白味があって笑える。

 ようやく自分が楽しくなってきた感覚があった。


「頭を上げよ。謝罪より何があったか述べよ。理由次第ではタダではおかんぞよ。村人よ」


 バンッとドラゴンは威嚇するように尻尾を地面に叩きつけた。

 それだけでもかなりの圧力を掛けている。


「ヒィ」と村人は恐る姿が見受けられる。


 機嫌を損ねた瞬間、全てを破壊する光景が想像できた。

 代表して長老がドラゴンの前に出る。


「じ、実は……本日分の食料を用意することはしたのですが……」


「…………?」


 ドラゴンの目つきが鋭くなった。

 言葉次第では殺されることは間違いない。


 最初の被害者は長老か。


「その……奪われてしまいました」


「奪われただと!?」


 ドラゴンが拍子抜けするのが見て取れた。

 と、言うよりも呆れている。


「バカを言え、このドラニグルから奪うバカはおるはずがない。貴様、腹が減りすぎて奪われたと嘘を付いているんじゃないのか?」


「とんでもございません。我々を見てください。盗み食いをするほど食べたように見えますか? 皆、苦しんでいます」


 ドラゴンが村人の顔を見渡す。


「確かに。盗み食いしたような奴は見当たらんな」


「はい。我々は嘘なんて付いていません」


「……信じよう。だが、その我の供物を奪ったと言う者は何者じゃ。そんな愚か者がいるとは聞いたことがない。そいつはどんな人物だ」


「そ、それでしたらそこにずっといますが……」と、長老は大岩の上で高みの見物をしている俺に視線を向けた。


 ドラゴンと目が合う。


「小僧……貴様か。我の供物を奪ったと言うのは!」


「……あぁ? やんのか、コラ!」


 村が滅びる所を眺めていたつもりだったが、ドラゴンの反感を買ったのは村人たちではなくどうやら俺のようである。


 村人を含めてその場にいた全員が俺に視線を向ける。

 村が崩壊するところを見ようと高みの見物をしていた最中、変に目立っていた。


「小僧。貴様、何者じゃ。誰の許可を得てこの街に足を踏み入れている?」


「別に許可なんていらないだろ。誰かのものじゃあるまいし」


「ここは我の支配下だ。勝手な行動は許さん」


「なるほど。ナワバリって訳か。確かにこの村を支配しているのはお前だ。悪かったよ。そこは同じ悪党として踏み入れちゃならない場所があるようだな。じゃ、俺はこの辺で」


「待て! 何者と聞いている。名乗れ。小僧」


「あぁ? 俺はアクトレータ・ボルゾイだ。まぁ、同じ悪党同士仲良くしようぜ」


 親指を下に立ててよろしくとアピールする。


「貴様。我の供物を奪ったというのは本当か?」


「あぁ。全部食っちまった。さぁ、村人は差し出すものはない。存分に村を破壊するところを見せてくれよ」


「許さん。許さんぞ。小僧。覚悟しろ」


 ん? ちょっと待て。


 話の流れ的にドラゴンの怒りは村人ではなく俺に傾いている?


 いや、いや。違うだろ。村人は本来差し出すはずの食料を失った。


 だったら怒りの矛先は村人に行くべきではないだろうか。


「お、おい。ちょっと待てよ。悪党同士争うのは良くないだろ。俺のことは構わずに早く村を滅ぼしてくれよ」


 どうも流れがおかしい。

 破壊の対象が村ではなく俺に変わっている予感がした。このままでは俺が期待していた光景と真逆のものが起こってしまう。


「平伏すがよい。小童が!」


 ドラゴンの喉元が膨らんだことで何か強い攻撃が飛んでくると予想した。

 これはもしかしたら大技が飛んでくることに違いない。


「おい。弟子。人質を連れて俺から遠くへ離れろ。とにかく大きく距離を取れ! 考える余裕はねぇ。急げ!」


「は、はい。アクト師匠」


 ラスカはレミリアを担いで俺から避難する。


 その直後である。


「死に晒すがよい! ゴッドブレイズキャノン!」



 ブォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎



 ドッ、ドッ、ドッ!



 ドラゴンは俺に向かって火炎弾を連射した。


「マジのマジでやるしかないのかよ」


 戦闘するつもりはなかったが、こうなってしまったら腹決めてやるしかない。

 相手がドラゴンだろうと悪党だろうと俺に喧嘩を売るということはただでは済まない。


 やるならキッチリやる。

 相手になってやるよ。ドラゴンよ。

 俺に攻撃するということは徹底的にやってやる。

 不意に俺とドラゴンの戦闘が始まろうとしていた。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 周囲は一気に炎に包まれ、視界は完全に失われた。



最後までご愛読ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・・・さてはこの主人公、馬鹿ですね?(笑)
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