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1−8 制圧

 

 武器を失った村人は俺から距離を取る。


 殺されると思ったのか、恐怖に怯える者が出始める。

 面白い光景だが、それよりも興味が唆るものがある。


「おい。その支配者はどこにいる? 今すぐ会わせろよ」


「無理じゃ」


「無理?」


「今はおらん。決まった時にしか現れんのじゃ」


「その決まった時っていつだよ」


 反抗的な態度を取っていた長老だが、俺の強さが証明されたことで自然と俺の質問に答え始めた。


「……一日に一回、食べ物を差し出す時に現れるくらいだ。それ以外、街には現れん」


「食べ物? その支配者に差し出すために野菜や罠を仕掛けているって訳か?」


「その通りだ。自分たちで食べられるものはごくわずか。ギリギリの生活じゃよ」


 村人を見ると皆、痩せている。武器を持つ手が震えていることからまともに戦うことなんて出来ないだろう。攻撃に力が乗っていないのはそんな理由からだろう。


「つまり、お前らは支配者に食べ物を差し出す為に毎日、野菜を育てているって訳か?」


「……その通りじゃ」


 何だよ、それ。村人にとって完全に支配された環境じゃないかよ。

 機嫌を損ねることがあれば街や人を失うことになり、文字通り支配された街ではないか。


「あの、何で逃げないんですか? 支配者に監視されている訳でもないなら村を捨てて支配の手から逃げることも出来ると思いますが」


 レミリアは村人に問いかける。


 だが、村人は下を俯くだけだ。

 答えるのは相変わらず長老だけだ。


「確かにお嬢さんの言うことは一理ある。だが、周辺を見ただろう。近くの街は遠く猛獣が多く生息している。例え、村を脱げたとしてもワシらの体力では力尽きて死ぬ。支配者様に従うしか生きられないんだ」


 確かにここに来るまでの道のりは険しく一般人ではいくつ命があっても足りない。

 弱肉強食が広がる街の外では村人は弱者だ。食われて死ぬことは容易に想像できた。


 それに誰かに頼ると言う簡単なことができないくらい村人は冷え切っている。

 環境と心情をうまく結ばせたことでここでの支配は可能になっていると言う訳だ。


「事情は分かった。ところで支配者っていうのは街にいない時はどこにいるんだ?」


「それはわしらでも分からん。突然現れて、突然消える。居場所なんて検討もつかない」


 何だ、それは。人間か? もっと言えば魔物とか空想上の生き物とも考えられる。


「それで? 今日はまだ支配者は来ていないのか?」


「あぁ。いつも正午過ぎに現れる」


「その、支配者ってどんな奴だ?」


 その質問に村人は黙りだ。余程怖いのか、誰もその正体について口を開こうとしない。

 長老すら支配者の正体について黙秘だ。


 この支配力。支配者の正体がますます気になるところ。

 考えられる線としてその支配者は相当の悪人であることが窺える。興味深い。


「アクト様。どうしますか?」


「その支配者に興味が出た。人質、弟子。俺に協力しろ」


「勿論です」


「それで私たちは何をすれば?」


「悪事を働く。この村の食料を全部奪い取るぞ」


「「は、はい!」」


 レミリアとラスカは少し抵抗しつつも俺の言うことを素直に聞き入れた。

 人数で言えば村人の数が圧倒的に多いが、実力差で見ればこちらが有利に働いた。

 必死に抵抗を見せた村人だったが、日頃の農作業や栄養不足によりその力は全くと言っていいほどなかった。


「悪く思わないで下さいね。アクト様の命令は絶対なので」


「これも師匠から与えられた試練です。失敗は許されません」


 レミリアとラスカは俺の指示通りに村人から食料を強奪する。

 可愛い顔をしてやっていることはえげつない。


 だが、俺にとってその光景は清々しいほどのものである。


「奪え! 奪え! 全部奪い取れ!」


 悪党らしく俺は下種のように吠えた。

 奪い取った食料を山積みにした俺は優越感に浸っていた。

 これこそ悪党の快感を得る最高の瞬間だ!


「ヒャハハハ! これで準備は整った!」


「た、頼む! この通りじゃ。その食料を返してくれ。さもないと支配者様によってこの村は消し飛んでしまう。それだけは何としても避けなければならない」


 長老は土下座をして俺に媚を売る。

 村人たちも同じように土下座をして誠意を見せた。


「馬鹿野郎。俺はそれを望んでいるんだよ。大人しく村ごと消えろ。下衆どもが!」


「ひ、ひぃ!」


「アクト様。いつにも増して悪のカリスマみたいですね」


「バカ! 師匠は立派な悪のカリスマ性です」


「そ、そうだね。アクト様は悪党です」


 ニコニコとレミリアとラスカは俺の後ろで笑う。

 こいつらは立派な悪女になりつつある。


「お、おのれ……。お主には良心というものが無いのか」


「良心? そんなものハナからねぇよ。俺は悪党だ。お前らがどうなろうと俺には関係ない。知ったことかよ」


「な、何じゃと! この悪党め! 死んだら呪ってやるぞ。永遠にな」


「好きにしろ。呪えるものなら呪ってみろ」


 俺は長老の頭を踏み付けて嘲笑った。この村は後、数時間で消し飛ぶ。その光景をじっくり観察させてもらおうか。

 村人たちから反感を買った俺は支配者の登場を待ち望んでいた。


 村人たちは俺に立ち向かう気力はもう残されていない。

 もうすぐ終わる己の命を惜しみながら手を合わせて神に誓うしか出来ないだろう。

 涙を流し、絶望の中にいる村人を他所に俺はあくびをしながら退屈そうに腹を掻いた。


「遅いな。正午って後どれくらいだ?」


「時間にして後三十分ほどかと」


「三十分か。長いな。それに腹が減ってきた」


 空腹の目の前にある大量の食料。

 野菜や猛獣の肉はあるが、火が通っていない為、すぐに食べられない。

 食べる為には一手間加える必要がある訳だが。


 俺は名案を思いつく。


「人質。調理を頼む。腹ごしらえだ」


「了解しました。アクト様」


 料理と言っていいのか。適当に火を通して塩胡椒を振りかけただけの料理だが、空腹を満たすには丁度良かった。


「支配者到着までの腹ごしらえだ。お前らも食べておけ」


「「は、はい。頂きます!」」


 村人の物欲しそうな顔を見ながら食べる食事ほど悪いものはない。

 悪こそ最高のスパイスに変換する。


「アクト様。村人に分けた方がよくないですか?」


「可哀想か?」


「えぇ、まぁ」とレミリアは申し訳なさそうに言う。


「弟子はどう思う?」


「確かに可哀想に思えますが、私には良心が痛みます」


「正直で良いことだ。よく言った。だが、考えてみろ。どうせ街ごと滅びるんだ。巡るだけ勿体無い。それだったら俺たちが食べて無駄を抑えた方がはるかに効率いい。そう思わないか?」


「し、しかし……最後に食欲を満たせた方が安らかに死ねると言いますか……」


「ダメだ。俺が何の為に食料を奪ったか分かっているか?」


「支配者の反感を買う為ですよね?」


「その通りだ。渡すはずの食料がなければ支配者とやらは間違いなくキレる。そしてこの街ごと消し飛ぶ。俺はその支配する光景を見たいんだ。その為にはこの食料の存在が邪魔だ。だから今食べられるだけ食べる。それだけだ」


「な、なるほど。アクト様。悪ですね」


「やめろよ。照れるじゃないか」


 俺の悪事がこの街を崩壊させる。そのことを想像すれば胸の奥から込み上がるワクワクが止まらない。

 さて、空腹を満たせたことでそろそろ時間だ。


 さぁ、来いよ。支配者! そして村を滅ぼすんだ。



最後までご愛読ありがとうございます。

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