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1−6 野宿にはご注意を

 

 ドラニグルという街を目指して始まりの街を出た道中のこと。

 森が続くだけで特に街があるわけでもなく日中同じ景色が続いていた。


「殺せ! 殺せ! 相手は女、子供だ。金目のものを奪い取るんだ!」


 ウォォォォと奇声を挙げながら山賊が俺たちに向かって襲いかかる。


「ア、アクト様。このままではまずいですよ」


「人質。下がっていろ」


「は、はい」


 森を移動していた矢先、偶然遭遇した山賊と一戦、交じ合うことになった。

 相手の数は十人以上。旅人を襲って金目のものを巻き上げる集団だ。

 悪党の相手をするのはこれで何組目だろうか。


「雑魚が群れたところで所詮は雑魚であることに変わりないんだよ!」


 ドババババババンっと逆風を巻き上げて山賊たちは吹き飛ばされた。

 手応えはなく数で押すだけの集団だ。


「俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ」


 悪役である俺は同じ悪役だろうと容赦しない。

 本来であれば見逃すところだが、喧嘩を売られたのであれば話は別。

 悪役の頂点になるためにはとにかく強さを証明することだ。

 群れのボスになるためには強さこそ全て。そんな自然の掟が悪役の中にもあるのだ。


「オラ! 何とか言えよ。喧嘩を売る相手を間違えましたと」


 山賊は気絶しているのか首を掴んで起き上がらせるが、反応がない。

 それでも俺は殴り続ける。顔が潰れるまで何度でも。


「アクト様。もう充分ですよ」


 レミリアは俺の腹部に手を回して抑えた。


「何を言っているんだ。こいつらに俺の強さを証明するんだ。こんなものじゃ終わらせない」


「もう充分に分かったはずです。アクト様が強いってことは! だからもう辞めましょう。お願いします。ね?」


 レミリアは俺の背中に擦り付けるように涙声で言う。

 ここまでされたら引かざるを得ないか。


「ちっ。分かったよ。ここは人質に免じて辞めてやる」


 バッと俺は手を離した。


「ありがとうございます。アクト様」


「但し、悪党としてやることがある」


「?」


 俺は倒れた山賊の衣類を漁って金目のものを奪い取った。

 金や宝石など旅人から奪ったであろうものが次々と出てくる。


「これは貰っていく。次から相手を選んで襲うことだな。これが俺からの忠告だ。まぁ、聞こえていないだろうがな」


 そう言い残して俺は気絶した山賊たちを置いて先へ進んだ。


「それにしても出会う連中は悪役ばかりだな。勇者とかいないのか?」


 そんな愚痴を漏らすとラスカが答えた。


「勇者はこの道は避ける傾向があるので滅多に出会わないと思います。出会うとしたらさっきのような旅人から金品を奪う連中くらいかと思います」


「やっぱそうなのか。そのドラニグルって街がどんなものなのかますます気になってきたな」


「まぁ、遅かれ早かれ着くと思いますので気ままに行きましょう」


「あ、あの。この先もさっきのような人が襲ってくるんですか?」


 不安になりながらレミリアは聞く。


「怖いか?」


「まぁ、怖くないといえば嘘になりますが、苦手です。ああ言う人」


 レミリアはつい最近まで悪人に囚われた過去がある。

 そのことを引きずっているのだろう。


「安心しろ。俺の人質になったからには二度と他人に拐わせない。俺の人質を取るような奴は地獄を見ることになるからな」


「俺の女に指一本でも触れたら許さない。だから何も心配はいらない。そう言いたいんですね?」


「……まぁ、解釈の仕方は自由だ」


 レミリアの脳内はどこまでもお花畑状態だ。

 まぁ、かえって好都合だが、いつまでもそれが続くのも問題だ。

 だが、今はその解釈でいてくれて構わない。そう思えた。

 喧嘩を売る悪人狩りのお陰様で資金に関しては充分と言える。

 だが、資金があっても足りないものも存在する。


「もうすぐ日が暮れる。今日はここで野宿だな」


「の、野宿ですか?」


 驚きを見せたのはレミリアだ。


「ベッドは? シャワーは? 何もないじゃないですか」


「うるさい人質だな。その辺で寝ればいいだろう」


「私はデリケートなんですよ」


「ちっ。面倒クセェ。弟子。何とかしろ」


「はい。アクト師匠」


 ラスカは詠唱を唱えて結界を張る。

 その空間はあらゆるものを反射するため、外的や雨風が凌げる場所に変わる。


「ベッドまではいきませんが、葉をかき集めたものを代用すればそれっぽくなりますよ」


「ラスカちゃん。こんな魔法使えるのね」


「賢者ですから簡単な魔術は扱えます。ただ、シャワーを出すには水がいるのですが、この辺にはなさそうですね」


「そんな! ではどうすれば?」


「なら、水と食料は俺が現地調達するから待っていろ」


「アクト様が?」


「これでも俺は長期間も野宿をしてきた身だ。慣れているんだよ」


 そう言い残して俺は水と食料を探しに飛び出た。

 適当に猛獣を狩って水の音を頼りに川を見つける。

 数分で戻ってくるとラスカとレミリアは大喜びだ。


「調理を頼む」


 ドンッと二人の前に死んだ猛獣を投げ捨てる。

 嫌がったり怖がったりする顔を想像していたが、二人はそのような顔は見せない。


「それなら私にお任せ下さい。料理は一通り身につけています」


 名乗り出たのはレミリアだ。

 何の特技もない大聖女様かと思ったが、意外な特技は存在するようだ。

 料理と言ってもただ肉を焼いて食べるだけなので料理と言えるかどうかは疑問なところだ。


「流石、アクト様が狩ってきたお肉は新鮮で美味しいです」


「これなら毎日野宿でも平気ですね」


「ウルセェよ。早く飯を食べて寝るぞ」


「「はい」」




 陽が落ちて辺りが静まり返った頃である。

 ようやく眠気が高まり熟睡に入ろうとした矢先。

 周辺に自分たち以外いないはずだが、何かが近付く気配を感じた俺は目が覚める。

 ラスカとレミリアはぐっすり眠っていて気付いていない。

 起こさないように気配の正体を確かめるため、そっと結界から出た。

 夜行性の動物か。獣臭が強いことから一匹や二匹ではない。

 茂みの奥から赤い目が無数にこちらを睨んでいた。

 一匹が前に出ると仲間たちが徐々に歩み寄ってくる。

 ざっと十匹程度の群れだ。


「こいつは狼だな。人が良い気に寝ていたところを邪魔しやがって」


「ワオォォォォン!」


 所詮は犬。牙と爪で攻撃してくるだけの獣だ。

 何匹居ようと変わらない。

 弱肉強食の頂点はお前らではない。


 この俺だ。


 食後の運動にしては遅いが、少し遊んでやるか。


「さぁ! 来いよ。わんころ!」


 狼は一気に俺を走り抜ける。

 向かった先はラスカとレミリアが眠る結界だ。

 結界を張っているので通り抜けることは出来ないが、狼の興味はその結界に絞られた。


「テメェ。人の所有物に手を出そうとするんじゃねぇよ! 俺様が見えないのか」


 俺は無我夢中で狼の一匹に殴りかかった。

 しかし仲間たちは俺の腕に次々と噛み付いた。


「効かねぇよ。クソ犬ども、失せろ!」


 爆発したように噛みついていた狼を次々と吹き飛ばす。

 夜通し、狼の相手をしながら俺は二人を守った。

 野宿をするにしても場所は選ぶべきである。

 そう、ここは夜になると夜行性の動物が活発に動き出す危険区域であることを後々知ることになる。

 今回のゲストは狼の群れだけではなくありとあらゆる野生動物が襲いかかる。

 俺は一睡もすることなく戦い続けた。

 それは自然界で生き残るために必要なことである。





 翌朝。


「ふぅ。よく寝ました。アクト師匠、おはようございます。今日は早起きなのですね。関心です」


 能天気に朝の挨拶をするラスカにちょっと苛立ちが込み上がる。


「あぁ、おはよう」


「あれ? 目にクマがあるじゃないですか。よく眠れませんでしたか?」


「あぁ、どうも寝心地が悪くてな」


「それは大変です。しっかり寝て下さい」


「いや、大丈夫だ。すぐに出発するぞ。ここで長居したくない気分だ」


「分かりました。すぐ準備します。あとレミリアも起こしてきますね」


 あれだけ派手に暴れたのに一切起きる気配が無かったことに驚きだ。

 俺はあれから二人を守るために警戒を怠らず眠ることは出来なかった。

 だが、二人が無事で何よりだ。

 二人は何事もなかったように居てくれたらそれでいい。

 俺は眠気を吹き飛ばすために冷水を頭から被った。

 この冷たさが身体に染みる。

 やる気がドンドンと漲った。

 バチンと俺は自分の頬を叩いて喝を入れる。


「さて、今日も頑張りますか。悪道に向かって」


 自然界では何が起こるか分からない。

 災害や危険生物の遭遇など常に危険と隣り合わせだ。

 それでも俺は生き抜いて来た。だが、俺は一人ではない。

 守るべき対象が二人できたことが大きな影響を与えている。


「アクト様、おはようございます。そんなに私を見つめて恥ずかしいじゃないですか」


 危険とは無縁のレミリアは笑う。


 その笑顔を俺は守らなきゃならない。絶対に傷をつけたらいけないんだ。


「お気楽お嬢様は単純だな」


「あ、アクト様。その言い方、絶対にバカにしているじゃないですか」


「ウルセェ。さっさと準備しろ。時間は無限じゃないんだ」


「わかってますよーだ」


 レミリアは頬を膨らませる。良い顔だ。


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