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1-4 成り行きで助けてしまった美少女に惚れられる

 

 これ以上、楽しめないと判断した俺はアジトから出ようとしたその時、ビビッと何かを感じ取った。


「……もう一匹いやがるな」


 倒れているのは全部で十人いることに間違いない。

 ラスカの話では十人。全員この場にいる。


 だが、それ以外にも人の気配を感じる。

 ずっと隠れているようだが、悪役として見逃すわけにはいかない。

 弱い気配だが、逃げ得なんて許さない。

 やるからには徹底的にやる。隠れている奴もろとも叩き潰す。


「どこだ? ここか?」


 気配は床から感じる。


 どこかに地下へ続く扉があるとは思うが、探すのが面倒だ。


「残念だったな。息を潜めて逃げ切るつもりが、俺に見つかったのが運の尽きだ。その顔を拝ませてくれよ」


 ボカーンと強引に床を破壊するとそこには大きな空洞が現れた。


 間違いなくここは地下になっていた。

 息を潜めて隠れる場所としては最適だ。

 その恐怖に染まった顔を拝見しようと奥の方へ顔を覗かせた。


「………………あぁ?」


 そこには先程の目付きの悪い勇者とは違い、両手足を縛られて口を布で覆われた金髪美少女が転がっていた。


「……んっんっ〜〜」


 何かを伝えようと身体をバタバタさせるが、口が塞がれて喋ることも動くこともできない金髪美少女がそこに居た。

 何かを訴えるような眼差しで俺にアイコンタクトを取る。


 何を伝えようとしている?

 俺は確認の為、とりあえず布を取り払う。


「ブハァ。私を助けに来てくれたんですね?」


「はぁ? 何を言ってやがる。お前、あいつらの仲間じゃねぇのか?」


「仲間? とんでもない。私は奴らに連れ去られてここに閉じ込められたんです」


 話がどうも見えてこない。こいつは何者だ?

 勇者ではないなら倒す義理もねぇ訳だが。

 だからと言ってこの必死さから俺に対して嘘を付いているとは思えない。


「あの、それよりこの縄を解いてくれませんか。ずっと縛られて痛いんです」


「ちっ。しゃーねぇな」


 俺は美少女の縄を解く。


「ありがとうございます。あなたが助けてくれなければ私はもっと酷い目に遭っていました。なんと言っていいやら。本当に心から感謝します」


 ギュッと美少女は俺の手を握る。この展開、昨日の巻き戻しか?

 青い瞳に爆乳の胸が視界に入る。

 ラスカとはまた違った魅力を感じさせる。


 いかん、いかん。

 目のやり場に困った俺は視線を横に逸らした。


「で? お前は何者だ?」


「申し遅れました。私はレミリア・エレーナと申します。とある国の大聖女です。あなたの名前は?」


「アクトレータ・ボルゾイだ」


 しまった。反射的に名乗ってしまった。

 教える義理はないのに何故、名乗ってしまったのか、自分でも分からない。


「アクトレータ様。いや、アクト様ですね」


「どっちでもいい。大聖女か知らねぇが、なんで捕まっているんだよ。大体、こいつら勇者じゃねぇのかよ」


「それには深い訳がありまして。この人たち、表向きは誠実な勇者です。ですが、裏では盗賊のような悪事をする悪党です」


「悪党だと?」


 つまり俺は元々悪いやつと知らずに倒してしまったようだ。

 俺が感じていた違和感はこのことだったのだ。


「はい。この街は勇者の旅立ちの街で有名です。ですが、ランクを上げてこの街に居座るのは高いランクを持ってこの街を支配しようと企んでいたからなんです。自分たちが上の立場でいることで街の平和が保たれているように見せて裏ではブラックな悪事を繰り返している訳です。私は油断して拐われて売られる一歩手前でした。アクト様が助けてくれなかったら今頃どうなっていたことやら」


 なるほど。こいつらが悪人顔して同じ匂いを感じた理由が納得いく。

 勇者を名乗る悪人がいるとは考えてもいなかった。

 これはこれで良い勉強になったかもしれない。

 つまりこいつらがやろうとしていたことを俺がやれば立派な悪党になれるって訳だ。

 こいつは良い餌になるかもしれない。


「おい、お前。大聖女って言うからには金銀や財宝を持っているんだよな?」


「それはちょっと難しいですね。私、王宮から逃げて来たところを捕まった訳ですから手元には何もありません」


「王宮かどこかから逃げて来たならそこにたんまりあるんじゃないのか?」


「まぁ、ないこともないですが……」


 ドンッと俺は壁に手を置いた。レミリアの動きを封じるように。


「おい。俺と来いよ。今からお前は俺の人質として付いて来てもらう。お前に拒否権はない。いいな?」


 悪人に捕まっていた直後、俺に出会ったことが悲劇の始まりだ。

 レミリアも運がない。


 恐怖に怯えることを想像していたが、レミリアは青ざめていると言うより赤めている。

 何だ? 熱でもあるのか。

 よく見ると目がキラキラと輝いて見える。


「好き……」


「あぁ?」


「いえ。何でもありません。そうですね。アクト様にお礼もしないといけないですし、差し上げられるものは差し上げますよ。でも一つだけ既に差し上げてしまったようです」


「あぁ?」


「私の心はアクト様に差し上げようとしたところ奪われてしまったようです」


「何を言っているんだ。お前」


「私、どこまでもアクト様に付いていきます。私の心も体も金銀、財宝も何でも差し上げます」


 レミリアは俺に飛びつくように抱きついた。

 その反動で俺は下敷きになり転んでしまう。

 上に立つことが俺の生きがいのはずが、こんな美少女に押し倒されてしまうなんて情けない話だ。

 俺の悪党としてのプライドをズダズダに引き裂いてしまうレミリアは脅威に感じた。


「おい。乗るな。退いてくれ」


「これからずっと一緒ですね。アクト様」


 人の話を全然聞かないレミリアは弾力のある胸をこれでもかと押し付ける。


「分かったから離れろ」


「もう。アクト様の意地悪」


 俺は人質になってもらって脅すように奪うものを奪おうと考えていたが、むしろ乗り気で何でも挙げると相手から渡されるのは少し違う気がした。


 ここまで積極的に来られると悪役としての威厳が損なってしまう。

 無理やり奪うことが悪役としてのボルテージに繋がるのにこれでは気持ちが冷めてしまうではないか。

 レミリアは俺の腕にしがみ付いて離れてくれない。

 悪事を働こうと大聖女を脅したつもりだったが、逆に惚れられてしまったようだ。


「ちっ。つくづく物事上手くいかねぇな」


「え? 何か言いましたか?」


「なんでもねぇよ。お前は今日から人質だ。いいな?」


「はい。私はアクト様の女です」


「意味を履き違えているだろ。お前」


「細かいことは気にしない、気にしない」


「ったく。まぁ、意味合いが違っても結果は同じか」


 自分のシナリオ通りにならないことに俺は嫌気を指していた。

 こうして俺は人質(仮)を従えることになった。


最後までご愛読ありがとうございます。

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