2–19 それぞれの戦い
勇者がダンジョンに潜入して第一関門を突破した頃である。
「さて次の試練か」
(迷いの道ですね)
「あぁ」
マティアスたちは入り組んだ道で困惑していた。
焦っている。焦っている。
「進んでも、進んでも同じ道が続きますね」
「ちっ。こうなったら全て吹き飛ばすか」
「マティくん。そんなことをすれば私たちは生き埋めになってしまいます。それだけは絶対にやめてください」
「わ、悪い。でも、どうすれば……」
マティアスは頭を抱えている。
「見てください。マティくん! 新しい道です」
辿り着いた先は四つの道に別れた広場だ。
「ちっ。また分かれ道か。シラミ潰しに行ってみるしかないな」
「いえ、ここは別れて進みましょう」
「ヒストリア。何を言っているんだ。全員で進んだ方がいいに決まっている。何かあったらどうする? ここは敵地なんだぞ?」
「それでも! 私たちは進まなくてはならないんです。ルチアが掛かっているんですよ。私はもう守られるだけの存在ではありません」
ピンク髪の美少女は懸命にマティアスへ訴えかける。
だが、マティアスの表情は歪んでいた。
自分はともかく仲間が危険に晒されるような真似を許可できるとは思えない。
だったら無理矢理でも引き離すのみ。
その仕掛けはすぐに気付くことになる。
「マティくん。あれを見て下さい」
ルディはあるものを示す。
看板だ。
【これより一つの道に対して一人しか通ることができない】
そう、これは一人一つのみの通り道。
つまり勇者パーティはここでバラバラになることとなる。
もしも、二人以上で通れば永遠に閉じ込める魔力をプログラムしてある。
勇者側に選択肢などない。別れて進む以外。
「こうなることは初めから決まっていたというわけか」
「考えている余裕はありません。こうなってしまえば進むしかありませんよ」
「……分かった。だが、約束してくれ。絶対に死ぬな。そして必ずルチアを助ける」
「勿論です」
「必ずルチアを助けます」
「やりましょう!」
勇者は結束を固めた。
そして手を重ねて誓いを交わし、それぞれの道へ向かう。
「そこがお前らの墓穴だ。道の先々ではもう俺の仲間が待ち構えている」
俺はニヤリと笑う。
ラスカ側にて。
コツン、コツンと足音を立てながら一本道を進む少女。
細道から広い空洞に差し掛かった直後である。
「誰!?」
「待っていましたよ。勇者さん」
ラスカは既にスタンバイしている。
カラスの仮面に黒いマント姿のラスカに迎え撃つのはエルフの美少女だ。
「敵……ですね」
「おや? 見ない顔ですね。あなた、名前は?」
「人に問う前に自分から名乗ったらどうです?」
「おっと、これは失礼。私はラスカ。ラスカ・スカーレットです」
「……ホーリー・シグルルです」
「ホーリー。あなた、エルフですね。エルフって植物の力を使うんですか?」
「だったら何よ! 敵なら容赦しませんよ」
ホーリーは敵意むき出しで戦闘体勢に入った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
ホーリーは地面から根っこをウネウネと出現させてラスカを襲った。
「クッ、絶対防御!」
バコンとホーリーの攻撃はラスカの防御によって防がれてしまう。
今のラスカはどんな攻撃を受けても無意味だろう。
ラスカに傷一つ付けることは出来ない。
「どうしました? 勇者っていうのはこの程度ですか?」
「その余裕が命取りになります。悪役さん」
「!?」
ガガガガッズズンッ! と、ラスカの足元から根っこが出現して足に巻き付いた。
足に絡まったことによりラスカの動きが封じられる。
防御半径外からの攻撃に不意を突かれて捕まってしまった。
「な、何よ。これ」
足を引っ張られたラスカは宙吊りにされた。被っていたカラスの仮面は地面に落としてしまう。
「あら、口調から女の子とは思ったけど、まさかこんな可愛い女の子だったなんてビックリですね。あなた、本当に悪役?」
「えぇ、元勇者ですけど、今は立派な悪役です」
「どうしてまた悪役なんかに? 闇堕ちでもしましたか?」
「別にあなたに関係ないでしょ」
「いや、興味が出て来ました。あなた全然悪役に見えないんですもの。倒される前に答えてくれますか?」
「誰が……」
ラスカの足に絡みついていた根っこは身体全体へ巻き付いた。
これではますます動きを制限されてしまう。
下手をすれば圧迫死まで考えられる。
このエルフ。補助タイプかと思ったが、なかなかの戦闘向きだな。
油断できない相手だ。
大丈夫か? ラスカのやつ。
モニター越しで俺は心配しつつ、他の戦闘はどうなっているか視点を変える。
ニグル側にて。
ニグルと接触したのはルディ・シファーだ。
闘技場では目立った活躍はないが、侮れない相手になるだろう。
バランスタイプのルディと攻撃タイプのニグル。
なかなか面白い対面である。
さて、どうなることか。
「あなた、闘技場に出場していた人ね」
「ルディ・シファー。あなたのことはよく知っている」
「予選はあなたで間違いないと思うけど、決勝戦に出た人は別人じゃない?」
「なんだ。バレていましたか」
「動きを見れば分かります。それにあなた、龍族ですね? 土壇場で現れたあのドラゴンはあなたでしょ?」
「そこまでバレているのであれば隠す必要はありませんね。ただ、全力でやるとダンジョンを壊しかねないので控えさせてもらいますが、油断しているとポックリいきますからね」
「望むところです。ドラゴンの姿が見られないのは残念ですが」
ルディは杖を構えた。
それは突如、始まってしまう。
「いきますよ!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
と、ニグルらしく派手に火炎放射を吹きかけた。
一瞬でモニターが真っ暗になり状況が分からなくなってしまった。
「ちっ。もう少し静かに戦えないのか、あいつは。まぁ、言ったところで無理だろうが、せめてダンジョンは壊すなよ」
ニグルの映像は砂嵐で途切れてしまい、何も分からなくなってしまう。
この戦いの勝敗は正直、どちらでも構わない。
目的は勇者パーティを切り離すこと。
個々にすることで強さを半減にすることができる。
それともう一つは俺が主人公と一対一で勝負したいこと。
つまり三人には足止めという時間稼ぎをするのが目的である。
さて。そういえば、レミリアの方がやけに静かだ。何をしている?
ふと、俺はレミリアのモニターに目を向ける。
レミリア側にて。
「…………」
「…………」
二人は膠着しているのか、まるで銅像のように動かず睨み合っていた。
この二人、何をしているんだ?
相手はあのピンク髪の美少女。ヒストリアと呼ばれていた露出が高い女だ。
「来なさいよ。悪党……」
「そちらこそ」
こいつらは何をやっているのか。
何故、戦わないのか。
今、それぞれの戦いは波乱を迎える。




