2–18 勇者、ダンジョンへ
「え? ルチア……人質をダンジョンに連れて行かないんですか?」
と、ニグルは驚くように言う。
「あぁ、連れて行かない。いるだけ邪魔だしな」
「でもこういうのは人質の安否を見せるのが鉄則じゃないんですか?」
「その辺は安心しろ。そこのカメラからリアルタイムの映像を見せれば問題ない」
ルチアの姿は常にカメラで監視する形式をとっていた。
だが、相変わらず行動の制限をしているため、何をするにしても許可制だ。
「そうなると見張りがいるのでは?」
「勿論、見張りは付ける。だが、お前ら三人にはダンジョンで勇者と戦ってもらうつもりだ。ラスカの話ではマティアスの他に三人の仲間がいる。その為、一人に対して一人が相手をしてもらうことになる」
「じゃ、見張りはどうするんですか?」
「既に用意してある。おい! 雑用」
俺が呼ぶと白衣を着た怪しげな男、スパナが姿を現す。
「アクトレータ様。まさか私に小娘の見張り役を押し付けるとは」
「文句ばかり言うなよ。俺たちがダンジョンで暴れている間だけだ」
「ちょっと! なんで私の見張りがおっさんなのよ。無理なんですけど! 無理、無理、無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「よろしくね。ルチアちゃん」
ニコリとスパナのその笑顔はどことなくいやらしさを感じさせる。
「いやあぁぁぁ! お願いします。レミリアに変えて下さい! アクトレータ様!」
「アクト様。ルチアちゃん相当、嫌そうですね」とレミリアは哀れみの目で見た。
はぁ、と俺はため息を吐く。
「人質のお前に拒否権はねぇよ。黙って受け入れろ」
「いやあぁぁぁ! 死にたい。私を殺して!」
ルチアは泣きながら叫ぶ。
そこまで嫌なのかよ。
「おい。スパナ。こいつに変なことするなよ」
「へ、変なこと?」
「分かったか!?」
「は、はい。勿論です。アクトレータ様」
軽く脅しを掛けたことでスパナは身を縮める。
これくらい言っておけば問題ないだろう。
「さて。いよいよ幕開けだ。行くぞ。お前ら!」
「「「はい」」」
俺たちアクトファミリーは勇者を迎え撃つ為、ダンジョンへ向かう。
ダンジョンに到着した俺たちアクトファミリーはそれぞれの配置についた。
そして俺は最下層のレイジュがいる部屋で高みの見物だ。
この場所はダンジョン内全てのフロアをモニターで確認することができる優れものだ。
これも新しく魔改造したものの一種になる。
「すまなかったな、レイジュ。少々無理をさせてしまった」
(アクトレータ様が私に謝るなんて少し不吉です。でも、その心遣いに感謝です)
「俺は敵には容赦しないが、仲間には甘いんだ」
(それは信じ難いような?)
「ウルセェよ。ところで試運転はしてあるのか?」
(いえ、時間がなかったので出来ていません)
「それは心配だな」
(その時はアクトレータ様がフォローしてくれたら問題ありません)
「無茶を言ったのは俺だ。その辺はカバーしてやる」
(お願いします。それとこのダンジョンに近付く者の気配を感知しました。おそらく例の勇者パーティかと)
「ほぉ。いよいよ来たか」
ダンジョン正面のモニターには四人の人影が映し出されていた。
先頭を歩くのはマティアス・ジェファードで間違いない。
白髪メガネのルディという女。
そして他に二人。俺が見たことがない奴だ。
一人は金髪で緑の服装が似合い美少女。
耳が長いことからおそらくエルフという種族だろうか。
そしてもう一人はピンク髪の美少女。
役職は不明だが、とにかく肌の露出が高い。足、腕は勿論のことで身体の括れが出ていた。
「女ばかりじゃないかよ。ハーレム気取りか?」
(それはアクトレータ様も同じことでは?)
「俺のような捻くれ者に近付く奴が変わり者のあいつらだけの話だ」
(そういうことにしておきます。どうしますか。ダンジョンの入り口を開けますか?)
「いや、少し様子を見よう」
マティアスはダンジョンの入り口に立つと手をかざす。
「?」
「吹き飛べ!」
次の瞬間である。
マティアスの魔力で入り口を吹き飛ばした。
いきなりかよ。普通、どうやって入るか周囲を確認したり、考えたりするものではないだろうか。それなのにいきなり破壊。
「野郎……。俺が作り出したダンジョンをいきなり壊すとはタダじゃ済まないぞ」
そんな時だ。
マティアスはカメラ目線でこちらを見た。
「聞いているか? アクトレータ・ボルゾイ」
「……?」
「俺は貴様を絶対に許さない。俺の仲間を傷付けた奴はその身をもって償って貰うぞ!」
マティアスの目は鋭く殺意を感じた。
モニター越しでもその緊張感は伝わる。
「今から俺たちはお前たちの望み通り、ダンジョンへ乗り込む。あえて罠にハマりに行くんだ。感謝しろよ。そして、後悔することになる」
マティアスだけではなくそのパーティの美少女たちも勝気な顔をしていた。
モニターに映るマティアスの声はハッキリ聞こえるが、こちらの声は向こうには聞こえないのが残念だ。
「さて。俺のいる最終ステージまで無事に辿り着けるかな。クックックッ」
悪役のボスとしての特権は勇者が苦しむ姿をモニター越しで高みの見物をすることだ。
入口付近は仕方がないとしてダンジョン内にはそううまくいかない。
「まずは勇者の実力を把握しないのな」
ダンジョンの最初の難関に用意したのは低種族のモンスター。
だが、闇雲に倒しても無駄。何と言ってもモンスターは無限に湧いてくるようにプログラムしてある。
それを倒して次のステージに行く方法は一つしかない。
それに気付けるかな?
「くそ。どうなっている。倒しても、倒しても無限にモンスターが湧き出てくる」
「マティくん。ここは私が!」
ルディは魔法攻撃をモンスターに向ける。
「やめろ。ルディ。魔力を無駄に消費するだけだ」
「でも、このままでは……」
そう、モンスターは勇者を中心に取り囲んでいた。
倒しても倒した分だけ増えるこの無限ループに為す術もない。
だからと言って攻撃せずにいたらそのままやられる。
もう逃げ場がないその時。
ヒロインの一人、エルフからまばゆい光が全体に広がる。
「ファイナルフラッシュ!」
光はモンスターを包み込んだ。
不思議な光によってモンスターが一瞬で消滅した。
何が起こったのか、無数にいたモンスターは勇者の前からいない。
「ホーリー。よくやった。助かったよ」
「いえ。魔力が溜まるのが遅くなって申し訳ありません」
「いや、問題ない。さぁ、次に進むぞ」
難なく最初のステージをクリアした。
本来であればあのモンスターは何もせずとも倒せる。
逆に攻撃をすれば増え続けるモンスターだ。
怒りに任せて攻撃に徹すれば破滅する。
少し予定外の倒し方をされたが、ここまでは計算通り。
「おもしれぇ。さぁ、次だ」




