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2–16 下準備


「〜〜〜〜〜〜んっ! っっっ!」


 声にならない叫びがアジト内で広がった。

 どうやらルチアが暴れているようだ。

 様子を見に行くか。


「うるさいぞ。今度はなんだ?」


 ルチアの元に行くと半泣きになりながらバタバタと暴れている。

 身体は柱に括り付けて口は布で塞いでいるので完全に身動きが取れない状況だ。


「なんだよ。静かにしてくれないか。今、計画を練っている最中なんだ」


「んんんんんんん!」


「あぁ? なんだって?」


 喋れないで喋らせようとすることに歯痒いように見えた。

 嫌がらせはやめてせめて喋らせてやろうと布を剥ぎ取る。


「ぷふぁ! ちょっと! どういうつもりよ。お腹空いたし喉乾いたし、もう我慢の限界よ!」


「何を言っているんだ。飯と水はそこに置いてあるんだから好きな時に食べればいいだろ」


「縛られたら取れないじゃないのよ!」


「お前、妙な能力を使えるんだからそれで食べればいいじゃないか」


「両手が使えなきゃ使えないわよ! バッカじゃないの! 早く食べさせなさいよ」


「ピーピーうるさい人質だな。人質のくせに態度がでかいんじゃないのか?」


「私だって好きで騒いでいる訳じゃないのよ!」


「ちっ。しゃーねぇな。ほら、口開けろよ。食べさせてやる」


「最初からそうしなさいよ」


 俺がパンをルチアの口元に運んだその時だ。

 ガチンッとルチアは俺の手に噛み付いた。血が出るほど全力で。


「お前。何してんだよ」


「あれ? 痛くないの?」


「死ぬほど痛ぇよ。俺の質問に答えろよ。お前、何してんだよ」


「えっと、その、噛み付いています」


「意味あるのかよ。それ」


「えっと……なんと言いますか」


 ルチアは俺が痛がる姿を見て喜びたかったようだが、そんな思い通りになんてさせない。真顔で質問を投げかける俺の圧で放心状態だ。


 人は想定外のことが起こった場合、戸惑いと混乱してしまう生き物だ。

 俺もどれだけ想定外のことを経験しただろうか。


 すると、ペロッとルチアは俺の手を舐め出した。


「なっ! お前、何をしていやがる!」


「痛かったんだろ? だから悪いと思って血を拭き取ろうと……」


「お前は犬か! これくらいほっとけば治るんだよ」


「……悪かったよ」


「勇者のお前が悪役の俺に謝るんじゃねぇ」


「あのさ……」


「なんだよ」


「漏れそうなんだけど」


 そう言ってルチアは身体をクネクネとよじらせる。


「あぁ、分かったよ。今、誰か呼んできてやるから」


「お前でもいいんだぞ?」


 また変なことを言い出した。そうやって俺を試しているに違いない。


「その手には乗らないよ。ちょっと待っていろ」


「…………っ」


 さすがに縛り付けるのも可哀想だが、ルチアは油断したら脱走しかねない。

 誘き寄せる餌の役目を果たしてもらうまでは拘束する必要があった。


 早いところ計画を実行しないと見ていられないというのが正直なところ。


「今日がダンジョン完成の三日目となるが、レイジュはうまくやっているのだろうか。そろそろ主人公の呼び出しも済ませないと効率が悪くなってしまうな」


 ブツブツと思っていることを口にする。


「よし。やるか!」


 俺は計画を実行する為、三人を呼んだ。

 





 その日の夕暮れ時。


 黒マントにカラスの仮面を被ったラスカはアジトから旅立とうとしていた。


「では、アクト師匠。行ってきます」


「ラスカ。待て」


「はい?」


「これをつけておけ」


「これは何ですか?」


「無線機だ。お前の会話は俺にも聞こえるようになる。困ったら言え。俺から指示をしてやる」


「分かりました。では、行ってきますね」


「あぁ、頼んだぞ」


 ラスカは仮面の奥で笑った気がした。

 この役目はしっかり者のラスカが適任だ。任せて大丈夫だろう。


 ラスカはマティアスをダンジョンに誘い込む大事な役目を請負っている。

 人質は預かっている。返して欲しければダンジョンへ来いという単純なものだが、実は危険な任務だ。

 攻撃を受けたり、逆に人質にされたり何が起こるか分からない。


 全てはその時の状況による。ただ、マティアスにとってルチアが掛替えのない人物であればうまくいくが、そうでなかった場合、全ての計画が狂ってしまう。


 ルチア本人の見解では自分はマティアスにとって掛替えのないものというが、本人がどう思っているか本人にしか分からない。


「さて。あとはラスカに任せて俺たちはダンジョンの様子を見に行くか」


「そうですね」


 ラスカをルチアの見張り役としてアジトに置き、俺とレミリアはダンジョンへ向かう。

 レイジュはうまくやっているだろうか。


「よう! スパナ。調子はどうだ」


 元管理人。現アクトレータダンジョンの管理人となったスパナは俺の雑用としてこのダンジョンの為、動いてもらっている。


「これは、これはアクトレータ様。どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたもねぇよ。俺の指示通りのダンジョンになったのかよ」


「えぇ、七割くらいは……」


「なんだと!? まだ終わっていないのかよ」


「これでも急いでいます。レイジュもずっと休んでいません」


「どうせあいつは幽霊なんだから一生働かせればいいんだよ」


「……アクト様、それはいくら何でも酷いような」


 と、レミリアは申し訳なさそうに言う。


「お前じゃ話にならない。レイジュに会いに行くぞ」


「待ってください。今、会うのはちょっと……」


「あぁ? ここでは俺がルールなんだよ。お前は雑用をこなしていろ」


 スパナを雑に振り切り、俺はレイジュのいる部屋へ向かう。


 雑に扉を開けたその時だ。


 レイジュの身体から青いオーラが光速で糸に吸収されていた。


「おい。レイジュ」


(あ、アクトレータ様)


「何をやっている。まだ終わっていないのか」


(全力でやっていますってば。私の魔力だけではこのダンジョンの改造には時間がかかり過ぎます。もう少しなのですが……)


「何だ。魔力が足りないのか?」


(はい。お恥ずかしながら)


「なら俺の魔力をやるよ」


(え? アクトレータ様の魔力を?)


「あぁ。どうすればいい?」


(私の身体に触れて念じて下さい。そうすれば魔力を私の中に分け与えることが出来ます)


「よし。行くぞ」


 ブオォンと俺の魔力が一気にレイジュの中へ吸収された。


「アクト様。凄い魔力……」


(おぉ。これならすぐに魔改造するに充分な……って、アクトレータ様! ストップ! 入れ過ぎです。手を離して下さい)


 俺はパッとレイジュから手を離した。


(危うく魔力の入れ過ぎで破裂して死ぬところでしたよ)


「すまない。だが、お前は元々死んでいるじゃないかよ」


(言葉のアヤと言う奴です。それに今の私の死というのは消滅です。身体を残して魂がこの世から消えるのでよくないことですよ)


「そうか。それでどうなんだ?」


(えぇ。このペースならあと数時間で完成すると思います)


「助かる。後はお前に任せていいか?」


(はい。いつでも勇者を迎え入れる準備をしておきますよ)


「よし。これであの主人公を呼び込む舞台は整った」


 その時だ。


 ザザザッと無線機から音が漏れた。


「アクト様?」


「静かに。ラスカからの信号だ」


 ラスカに動きがあったらしい。

 俺はそのやりとりに聞き耳を立てた。



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