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2–14 交渉


「え? 今、頭の中で声が聞こえたような?」


「私も聞こえました」


 レミリアとラスカにも間違いなく脳に直接声が聞こえた。

 これはテレパシーというやつだろうか。


 言葉を交わさずとも念じれば直接会話出来る能力だ。

 そしてその声の主は間違いなく目の前の糸で吊るされた女性の仕業だ。


「何者だ。テメェ」


(私はレイジュ。このダンジョンの管理者です。少し事情がありまして私はここから動けません。おまけに声も出せませんので直接脳内に喋り掛ける形になることはご了承下さい)


「で、その事情っていうのはなんだよ」


(私は既に死んだ人間です。ただ身体はこの場で生き続けています。この糸は腐食を抑える効力を持っています。だから変に刺激を与えないようにしてください)


「なるほど。そういうことか。それでここはお前が支配しているってことだよな?」


(その通りです。私はここに訪れる勇者が苦しむ顔が堪らず好きで好きで。いつもここからその様子を拝見しているんですよ)


 顔は美人だが、中身はかなりド黒い。良い感じの悪人に仕上がっているようだ。


「それは悪趣味なことで」


(いえいえ。あなたには負けますよ)


「俺があんたを尋ねた理由は一つ。このダンジョンを俺の支配下にさせろ。選択の余地はない」


(私を消そうと考えています?)


「最悪そうなるな。抵抗するなら力ずくで消えてもらうことになる」


(それは怖いですね。ですが、私とこのダンジョンは繋がっています。もし私に危害を加えればダンジョンそのものが消滅してしまうのでやめておいた方がいいです)


 ダンジョンと繋がっているということは文字通り一体化しているということだ。

 ダンジョンが壊滅すればレイジュは消える。

 逆にレイジュを消せばダンジョンが崩壊するという意味に違いない。


「なるほど。なら別の方法を取ろう」


(別の方法?)


「お前を俺の支配下にすればこのダンジョンは俺のものと同じこと」


(あなたが私を支配すると? でもどうやって? ここは私のテリトリーです。私にとって有利な場所です。それに先ほども言いましたけど、力で私を攻撃したらダンジョンが消滅する。それは分かっていますか?)


「攻撃しても殺してもダメ。俺の頭じゃ思いつかないな」


(だったら提案があります)


「提案だと?」


(私は好奇心に飢えています。刺激が欲しいんです。だからその刺激を定期的に満たせるようなことをしてくれたらあなたの言いなりになりましょう。そうすれば文字通りに支配下としてあなたは君臨することが出来ますよ)


「さすがにずっとここにいるとつまらないよな。分かるぜ、その気持ち」


(えぇ。なんといっても私はかれこれ百年以上、ここにいるものですから刺激がないと死んでしまいます)


「もう死んでいるくせに面白いことを言いやがる」


(それは失礼。あなたも悪役なら私と良いパートナーになると思いますが、検討していただけませんか?)


「嫌だね」


(!?)


「アクト様。せっかく相手も乗り気だったのにどうして反発するようなことを言うんですか?」


「そうですよ。良きパートナーとして手を組みましょう」


「そうじゃない。良きパートナーなんてごめんだ。勘違いするんじゃねぇよ。俺はこのダンジョンを支配したいんだよ。仲良しこよしの二人三脚なんて割に合わないって言っているんだ」


 当然、レミリアとラスカは「またこの人は余計なことを言う」とでも思っているのだろう。


(なるほど。あくまでも私を支配することに拘ると言うことですか。今までそんな悪人見たことありませんよ)


「それは光栄だな。それでどうするよ。大人しく支配されるか?」


(私を支配したいのであればそれなりの覚悟はありますか?)


「当然」


(なら、少し試させてもらいましょうか。私があなたの支配下になる価値があるのかどうか)


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。


 次の瞬間である。


 木の根っこが地面から現れた。

 それはまるで生きているようでタコのようにウネウネと動いた。

 直後、木の根っこは俺たちに攻撃した。


「ちっ」


 俺は寸前で交わすことができた。


 しかし。


「きゃ!」


「いやぁ」


 レミリアとラスカは捕まってしまった。両手足を完全に固定される。


「レミリア、ラスカ。今、助ける」


 二人の元へ向かおうとした直後、木の根っこがその道のりは阻んだ。


(このダンジョンは私の管理下にあります。言ってしまえばダンジョン内で私は最強です。その気になればこの二人の命を取ることだって容易なのですよ?)


「へー。これは凄い。これなら勇者が来ても楽しめそうだな」


(当然です。今まで何組の勇者を苦しめたことやら。ですが、そんなことを言っている余裕はあるんですか? 早く二人を助けないと死にますよ?)


「誰に向かって言っている? お前こそ自分の心配をしたらどうだ?」


(!?)


 レイジュ本体に繋がれている糸を俺は掻っ切った。


 その瞬間、二人を苦しめていた木の根っこは死滅した。


(いつの間に……)


「なんかダンジョンに入ってから新しいスキルが身についた。それが分身。一時的に俺の分身を生み出すスキルだ。お前が見ていたものは俺の分身だったって訳だ」


(それよりもどうして私の弱点が分かった?)


「勘」


(そうですか。完敗です。今の私はもう何もできない木偶の坊です。ただ、このままだと私が絶命してこのダンジョンそのものが崩壊します。そうなる前に私の本体を繋ぎ直してもらえませんか?)


「俺の支配下になると誓えるか?」


(こんなタイミングで人の弱みを漬け込むとは……あなた、かなりの悪党ですね)


「俺は悪党だ。それでどうなんだ?」


(ふっ。良いでしょう。あなたの支配下でも何でも受け入れましょう)


「交渉成立だな。俺が究極のダンジョンにしてやるよ」


 俺はレイジュの糸を繋ぎ直した。

 ダンジョンはレイジュが想像するだけでその通りに変形する。


 つまり、俺の想像したダンジョンをレイジュに伝えれば思いのままのダンジョンになれるという訳だ。


(それでアクトレータ様の理想のダンジョンというのはどういうものですか?)


「目指すは攻略不可能。一度入れば二度と戻ることが出来ない迷宮ダンジョンだ」


(それは面白そうですね)


「それとそのダンジョンの入場者第一号は既に決めてある。その勇者には最後まで苦しむような仕掛けを施したい」


(その勇者とは?)


 俺はこれから行おうとしている勇者の返り討ち計画をレイジュに話した。 

 手の込んだ作戦にレイジュは頷く。

 俺の要望を全て聞き入れた。


「で、どうだ。やれそうか?」


(その程度のことであればお安いご用です。私に掛かれば一週間で完成出来ますよ)


「長い。三日で仕上げろ」


(無茶を言いますね)


「無理そうか?」


(ふっ。私を誰だと思っているんですか?)


「……誰だよ」


 こうして俺の理想ダンジョンに向けて計画が進もうとしていた。



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