2–11 楽しい拷問の時間
ルチアの空腹はレミリアが満たしたことを後々知る。
まぁ、俺があげなくとも三人の誰かが食べさせることは読めていた。
ルチアの目から見て俺は間違いなく悪役として見られたに違いない。
そこが俺の真の狙いだ。良い人だと認識されたら後々面倒だ。
さて。勇者の仲間を成り行きで捕まえてしまったわけだが、こいつを人質にあのマティアスは来るのだろうか。要はルチアがマティアスにとってどんな存在なのか見極める必要がある。
「よう。気分はどうだよ」
ルチアは不機嫌そうにそっぽを向く。
早速、俺は嫌われているらしい。
「ちっ。可愛げのない女だな」
「うるさい。今に見ていろ。お前なんかすぐにマティくんがギタギタにするんだから」
「よく吠えるじゃないか。本当にそう思うか?」
「当たり前だ。マティくんはお前より強いんだ」
「なるほど。そいつは楽しみだ。ところで一つ提案がある」
「提案? ぐがっ!」
俺はルチアの顎を右手で掴んだ。
「お前、俺の仲間にならないか? そしたらお前の願いを何でも叶えてやるよ」
「うぐっ! ふざけるな。誰がお前のような悪役の仲間になるか!」
「良い答えだ。それでいい。だが、その選択をしたからにはやることがある」
「な、何よ」
「マティアスのことは全て話してもらおうか。能力や出身、苦手なものや弱点などすべての情報を話してくれ。そうすればお前はここから逃がしてやるぞ。どうだ。悪い話ではないだろう」
「マティくんを売れって言うのか。冗談じゃない。そんなこと出来る訳ないだろ」
「そうか。それは残念だ。だったら俺にもそれなりの考えがある。おい! お前ら」
「「「はい!」」」
レミリア、ラスカ、ニグルは手に何かを持って現れた。
「よし。後は好きにしていいぞ。進展があったら呼んでくれ」
「お任せ下さい」
「お、おい! 何をする気だ」
「なーに。ちょっとした余興だよ。まぁ、どうしても喋りたくなったらまた来るさ。ではごゆっくり」
「ちょ、ちょっと待て。おい! ってお前ら何をするつもりだ。や、やめろ」
バタンと扉を閉めた直後、ルチアの悲鳴と笑い声が飛び交った。
動けない相手にくすぐり、ラクガキ、嫌がらせ。三人が思い思いに拷問する。
まぁ、時間の問題だが、そんなに掛からないだろう。その間、ゆっくり寛がせてもらおうか。
「アクト様。起きて下さい」
レミリアに揺さぶられて俺は目を覚ます。
頭がスッキリしていることを考えるとかなり熟睡してしまったようだ。
「ん? 俺、どのくらい寝ていた?」
「ガッツリ八時間ですかね」
「そんなに寝ていたのか。それであいつはどうなった?」
「その件ですが、なかなか口が割れなくて私を含めてラスカちゃんもニグルもお手上げ状態です」
「ちっ。何をやっているんだよ。たかが勇者女の口を割るだけで」
「そう言うならアクト様がやって下さい。あの子、かなり手強いんですよ」
「ちっ。分かったよ」
俺は頭の後ろを掻きながら面倒そうにルチアを捉えた部屋へ向かう。
「アクト師匠!」
「アクト親分!」
「ちっ。お前らもだらしないな。そんな小娘一人の口を割るくらいで手こずりやがって」
「も、申し訳ありません」
「どけ。後は俺がやる」
ルチアは叫び疲れたのか、ゼェーゼェーと息を切らしていた。
かなり心臓の動きが早く、何時間も格闘していたと思われた。
「よう。そろそろ喋る気になったか?」
「誰が喋るか」
ルチアの態度はでかいままだった。
まだ反抗する元気は残っているらしい。
「マティアスのことは一旦忘れる。お前のことを教えてくれよ」
「私のことだと?」
「お前、闘技場で妙な力を使っていたな。あれはどういう力だ?」
「操り人形のこと?」
「あぁ、それだ」
「今は両手が使えないから出来ないが、相手に見えない糸を植え付けて操り人形のように自由に動かせるんだよ」
なるほど。それでラスカの動きを止めていたと言うわけか。
「それはどこで習った?」
「さぁ。物心ついた時に出来るようになっていた。誰かから教わった訳じゃない」
「なるほど。面白い力だ。お前は何で勇者をやっている?」
「そ、それはマティくんに助けられたから」
「助けられた?」
「盗賊に捕まっていたところをマティくんが助けてくれた。それで一緒に勇者にならないかって誘われた」
「じゃ、お前が勇者をやっているのはマティアスがいるからか?」
「まぁ、そんなところ……」
ルチアは顔を赤めながら言う。
主人公に良くある惚れた美少女そのものだ。
「なら、もしそいつが悪役ならお前も悪役になっていたか?」
「それは死んでもならない。私、悪役は嫌いだ。悪役はこの世から滅んで欲しいくらいだ」
「悪役が滅んだら勇者の存在価値は無くなるんじゃないのか? そうなったら何者でもないただの一人の人間だ」
「何が言いたい?」
「別に。お前、自分のことならよく喋るじゃないか」
「ふん。他人を売るのは気分が乗らないが、自分のことなら別に減ることはないからいいんだ」
「なら聞くがお前、マティアスの為なら命張れるか?」
その問いにルチアは一瞬、間が止まったように呆然とした。
「と、当然だろ。マティくんは私の恩人だ。恩人の為なら命だって張れるさ」
「良い心がけだ。ならマティアスの為に死ねよ」
「へ?」
俺の返しにルチアは驚いた。額から嫌な汗が流れていた。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。マティアスの為なら死ねるんだろ? だったら死ねよ」
「ちょっと待て」
「何だ? 今更ビビっているのか。大体、お前がここに捕まった時点で生きて帰れるなんて甘い理想でも描いていたか? マティアスが俺に復讐するきっかけを作る為にはお前が死ねば簡単にやってくる」
「待て、待て、待て。私を殺す気か? だとしてもどうしてマティくんに拘る? 勇者なんていっぱいいるじゃないか」
「確かに勇者なんて探せばいっぱいいる。だが、俺に目をつけられた時点でお前はもう終わったんだよ。自分の運が悪かったと認めるんだな」
「いや! やめて。殺さないで! 許して!」
「もう遅い。残念だったな。観念しろ」
「待って! 何でもする。だから命だけは取らないで!」
ルチアは本気で俺に殺されると思ったのか動けない両手足をバタバタさせて抵抗を図る。その行動が無駄だとしてもやらないわけには行かないのだろう。
俺は寸前で手を止めた。
泣きじゃくるルチアは「え?」と言った感じに目を見開く。
「今、何でもするって言ったよな」
「は、え?」
「その言葉、嘘じゃないよな? どうなんだよ。あ?」
「は、はい! だから命だけは取らないで」
「よし。お前は人質二号だ! 分かったな?」
「は、はい。人質二号!?」
俺は部屋を出ようと背を向ける。
「あ、あの」
「何だよ」
「喉が乾きました。水を下さい」
「ちっ」
俺はバケツに溜まった水をルチアに向けてぶっかけた。
「ギャ!! 何をするのよ!」
「要求通り、水をあげたんだよ。感謝しろ」
ルチアは不機嫌な顔を浮かべるが、それで良かった。変に気に入られたら面倒だからな。とことん悪役と目に焼き付けて欲しい。




