1−3 勇者パーティ襲撃その2
翌朝。
「朝ですよ。アクト師匠!」
カンカンと鍋とお玉の接触音を響かせながらラスカは大声で言う。
「うるせぇな。まだ眠いんだよ」
「いつまでも寝ていると一日が始まりませんよ」
チラリと窓の方へ目を向けると陽はまだ登り切っていない。
起きるにしてはまだ早い。
「ほら! 早く起きて下さい」
無理やり布団を取り上げられて起きるしかなかった。
「おい。早く起きてどうするつもりだよ」
「勇者を倒しに行くんでしょ? まずはしっかり体操して身体をほぐさないといけませんよ。怪我をするので」
プールの授業かよ。
いや、それはさておき、今日は強い勇者と一戦交わることになる。
そういう意味では事前準備が必要らしい。
「さぁ、早く起きて行きましょうよ」
「分かった。起きるから引っ張るな」
そもそも何故、俺よりもラスカがやる気になっているのか謎だ。
それにラスカに主導権を握られている気がする。まるでお母さんのようだ。
朝の陽を浴びてストレッチをして身体を慣らす。
気分が乗ってきた。腕が鳴るぜ。
朝食を食べて着替えている最中のこと。
「おい。これはなんだ」
白を基調とした服装で悪役としての威厳が損なうものである。
「お似合いですよ。格好いいです」
「そうじゃねぇ。今までの服はどうした」
「汚くなっていたので捨てました。代わりに私が新しいものを用意したんです」
「俺は白より黒が好きなんだよ」
「あら。そうでしたか。でも、白もとってもお似合いですよ。アクト師匠らしいです」
「悪役は黒って昔から決まっているんだよ。悪役としての威厳が無くなるだろ」
「色一つで威厳が無くなるほどアクト師匠は印象が薄いんですか?」
「そんな訳あるか。俺はいつでも威厳を放っているんだよ」
「ならいいじゃないですか。白だろうが黒だろうが。ね?」
「まぁ、それもそうか」
妙に納得した俺は白の服に腕を通した。
白だと血が付いた時に目立つが仕方がない。
「さぁ。行きましょうか。勇者を倒しに」
俺よりもラスカがどうも乗り気だった。
昨日からラスカの言葉に言い包められている気がする。
早いところなんとかしなければならない。
ラスカが知っていると言う勇者パーティーのアジトへ向かっている道中のこと。
「おい」
「はい。なんでしょう」
「今から向かう勇者パーティーはどんな連中だ」
「確か、十人組のパーティーでBランクですよ」
「B? それは強いのか?」
「冒険者ギルドに登録するとFからSSSランクまでの階級を与えられます。Bと言えば上から六番目に強いランクを意味します。Bランクはこの街で一番階級が高いですよ」
勇者にもそんなランク付けがあるのか。
ランクイコール強さの階級って言うことなら今度からそれを参考にしよう。
「なるほど。それならいい運動になりそうだ。ちなみにお前のところはFランクだったのか?」
「いえ、私が元々所属していたパーティーはDランクです。ただ、私を除けばFもいいところでしょうが」
「お前、実は強いのか?」
「防御の力ではそうかもしれません。でも守ってばかりでは勝てるものも勝てませんから」
てっきり初心者狩りをしていたつもりだが、ラスカありきでDってことはこいつの力は単独でみた場合、脅威になると言うことだ。
考えようによってラスカは良い駒として使えるかもしれない。まぁ、しばらくこいつを傍に置いてもいいかも。
「どうしましたか? アクト師匠」
「いや、何でもない。早く勇者を倒したくて興奮してきたところだ」
「アクト師匠の実力は認めています。ですが、油断は禁物です。彼らはいくつもの悪役を倒してきた強者揃いです。数も多いですし、様々な攻撃を仕掛けてきます」
「問題ねぇよ。俺は悪役として見てくれればそれでいい」
例えやられたとしても悪役としてやられたのであれば本望だ。
死んでも後悔はしない。
「あれです。Bランク勇者パーティーのアジトは」
街の一角にある建物にしては威厳を放っている。
どちらかと言えば倉庫のような建物だ。人が住んでいるとは一見思えない構造をしている。だが、外からでも人の気配が感じ取れるくらいガヤガヤしている。
まぁ、なんでもいい。ひと暴れしてやるさ。
「案内ご苦労。お前はここで待機……。いや、もう帰っていいぞ。巻き込まれる前に」
「まさか。ちゃんと遠くから観察します。それでいいですよね?」
「あぁ、好きにしろ」
まぁ、素直に帰ってくれるとは思っていなかったが、ラスカは俺の戦いに一切邪魔をする気がないので良しとしよう。
俺の好奇心が一気に高まった。
あの小屋に勇者がいる。そう思ったら興奮が抑えきれなかった。
「アクト師匠。お気をつけて」
「あぁ、行くぜ!」
地面を蹴って入り口のシャッター目掛けて足蹴りする。
ガシャーンと効果音と共に悪役らしくシャッターを破壊して派手に侵入する。
さぁ、どんな顔を見せてくれる?
「な、何者だ!」
中に居た勇者たちは次々と武器を手に取る。
その顔ぶれを見た俺は疑問を浮かべる。
勇者というよりどちらかと言えば悪役のような目つきの悪い顔ぶれである。
こいつら本当に勇者なのか?
「おい。この街で強い勇者ってお前らのことで合っているか?」
「俺たちはBランク勇者のビクトリーファミリーだ。貴様、何者だ」
「俺はアクトレータ。悪役をやっている。つまり、お前たちの敵だ」
ニッと決めポーズをかましたところで勇者たちの顔は豹変した。
「て、敵襲だ。やれ!」
ドッドッドッドッドッドッ!
ガッガッガッガッガッガッ!
銃撃や魔法攻撃が俺に飛び交う。
「遅いな」
「き、消えた? どこだ」
「そんな攻撃じゃ俺には届かねぇ」
勇者が俺の存在に気付いた瞬間、そいつは倒れた。
不意打ちを喰らわせた。たった一撃で一人がダウン。
まるで手応えがない。
「リ、リーダー。指示を」
指示を求められたリーダーは一歩下がったところで構えていた。
チョビ髭を生やした悪い顔をしたリーダーは奥歯を噛み締めてジッと俺に睨んでいた。
「おい。強いんだろう? もっと俺を楽しませてくれよ。なぁ!」
徐々にリーダーに歩み寄った俺は煽るように声を張った。
意識は辛うじて保つが、戦意を感じられない。怖じ気ついたか?
「な、何が目的だ。俺たちがお前に何かした訳でもないだろう」
「目的? 悪役に目的なんてねぇよ。ただ破壊して楽しむ。勇者っていうのはそういう俺のような悪役を問答無用で倒すのが仕事だろ? 目的を問う時点で筋違いとは言わないのか?」
どうもおかしい。俺の知っている勇者とは少し雰囲気が違う気がする。
だが、勇者にも色んな人がいることを考えれば納得できるが、こいつらはどちらかと言えば俺と少し同じ匂いがするのは気のせいだろうか。
「なぁ! 楽しませてくれよ。勇者だろ?」
リーダーを煽っている最中のこと。ガンッと後頭部手前で衝撃が走るが、絶対防御が発動した。
「何故だ。当たらないだと?」
「俺に不意打ちとは賢いが、残念だったな。中途半端な攻撃は当たらねぇ」
「ば、化け物め」
「いいねぇ。その褒め言葉。もっと聞かせてくれよ」
ドカーンと手のひらから爆風を放ち、勇者の一人は壁にめり込むように倒れた。
「ちったぁ、楽しめるかと思えば全然じゃねぇか。本当に勇者か?」
「全員で掛かれ! 一瞬の隙も与えるな」
リーダーの指示により七人掛かりで俺に総攻撃を仕掛ける。
考えもなしにただ向かってくる木偶の坊ほど手応えを感じない。
「オラァァァァ! 消え失せろ。雑魚共!」
ベクトル操作のスキルを使い、敵の攻撃を全反射させた。
自分自身の攻撃をまともに受けた勇者たちを一掃していた。
「な、なんてことだ」
「残るはお前だ。さぁ、最後に俺を楽しませてくれるよな? リーダーさんよ」
「仲間たちは油断したようだが、俺はそうはいかんぞ」
リーダーは両拳を握り、構えた。
こいつ、武器ではなく体術で戦うタイプのようだ。シンプルで分かりやすい。
「俺に通じるかな?」
「舐めるなよ」
ステップを踏んだリーダーは一瞬で姿が見えなくなってしまう。
どこだ? そう思った矢先、俺の背後で気配を感じだ。
「喰らえ!」
両手を振り上げて後頭部を叩き付けようとするが、俺の絶対防御が反応して防いでしまう。
「ちっ。妙な膜を張っているな」
「いい動きだ。だが、俺には届かねぇ。どうする?」
「仲間の仇は俺が打つ!」
やけくそとも言える乱れ打ちを何発も仕掛けてくるが、一発も俺には当たらない。
これまでだ。
「お前、つまんねぇよ」
「……っ!」
ボカーンとリーダーを人差し指に込めた力だけでデコピンを決める。
壁にめり込むようにリーダー吹き飛んだ。
額から薄い湯気と共にリーダーは動かなくなってしまった。
「はぁ、なんだ。こんなものか。期待して損したぜ」
勇者パーティーはリーダーを含めて全員が気絶していた。
呆気なく壊滅した瞬間である。
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