2–9 VS主人公 その2
「これ以上は危険だ。避難しろ! 避難!」
俺とマティアスの戦いを終始見ていた観客だったが、これ以上、この場にいることは危険と判断して避難民が続出した。
止めよう者は巻き添えを食らうこと間違いなし。
「私たちも避難しますか?」とレミリアは不安ながら聞いた。
「アクト親分を置いて行けませんよ」
「でも、離れろって命令されたんでしょ?」
「どこに居ようと変わりませんよ」
「それもそうですけど」
「…………」
何か考え込むラスカに対してレミリアは気に掛けた。
「どうしました? ラスカちゃん」
「いえ。アクト師匠に怒られることは承知の上ですが、このままではマズイです」
「マズイって何が?」
「もし……というよりアクト師匠がこの場で勝利をしたとしてこの後のことです」
「この後?」
「おそらくアクト師匠は勝ってくれます。ですが、勝った直後はかなり疲労しているはずです。一般客は避難をしているとはいえ、この闘技場にはまだ無数の勇者が控えているはずです。そんな勇者が限界を迎えたアクト師匠に攻め込まれたら逃げられません」
「た、確かに」
「私たちが出来ることは安全に逃走ルートを確保すること。例え、バトルの最中であったとしても勝利より撤退することを優先すべきです」
「なるほど。勇者たちが動かないのはアクト様が力尽きるのを待っているってことですか?」
「はい。その線が濃厚です」
「ふぇ! やばいじゃないですか。早くアクト親分に知らせましょう!」
観客席から身を乗り上げようとするニグルの手をラスカは止めた。
「待ってください。まだその時ではありません」
「その時ってじゃ、いつ?」
「私に考えがあります。大丈夫。逃走ルートはもう考えてあります。そのためにはニグルの力が必要です」
「え? 私ですか?」
ニグルは首を傾げながらアホな顔をする。
引き抜けない剣を捨ててマティアスは逆の手から左ストレートをぶつける。
それを交わしたことで再び攻防戦が始まる。
力と力のぶつけ合いは互角。このまま続けていたとしても体力が削られるだけで勝利には結びつかない。
何か一気に形成を逆転する大技をぶつけられないだろうか。
「一ついいことを教えてやろうか?」とマティアスは得意げに言う。
「あぁ?」
「俺の体力は無限だ。どんなに戦い続けても体力を消耗することはない。三日三晩戦い続けることだって可能だ」
「そんなに人間いねーよ。ハッタリも大概にしろ」
「嘘じゃない。それが俺に与えられたスキルの一つだ。つまりこのまま互角の戦いを続けていてもお前に勝ち目はない。信じるも信じないもお前の自由だがな」
体力が無限だと? ふざけやがって。
だが、奴の言葉が仮に本当だったとしたらいつまでも同じ戦いを続けても意味はない。
俺はこんなダラダラとした戦い方は好きじゃない。
やるなら一気にやる。
「お前の考えは読めるぞ。こうやってダラダラ戦うよりも一気にケリをつけてやる。とでも思っているだろ」
「ちっ。つくづく面倒くさい奴だな。だが、一気にケリをつける他、今の状況を変えることができないことは百も承知なんだよ」
「来い! 完膚なきまで捻り潰してやるよ」
「言うじゃねーか」
ここまで俺に挑発してコケにしたんだ。
一気に絶望顔に染めてやるぜ。
力を一気に溜め込み、その振動により岩の破片がジワジワと宙に浮かび上がる。
「何をする気だ?」
「一気に全開放してやるぜ。その場合、周辺は土に帰ることになるがな」
「やめろ。俺はともかく周りを巻き込むな」
「お前も同じようなことをしようとしただろ。受け止めて見ろよ。俺の全力を。それとも何か? 負けるのが怖いのか?」
「そんな訳ないだろう!」
安い挑発に乗ってくれた。これで奴は逃げることなく受け止めることしかできない。
俺の全力で主人公を叩き潰してやる。
「覚悟しろよ。主人公!」
「主人公ではない。俺はマティアスだ。悪党!」
「悪党じゃねぇ。俺はアクトレータだ」
「来い! アクトレータ」
「上等だ!」
お互い、引くに引けない状況になっていた。
やるかやられるか。そのどちらかしかない。
俺が魔力を込める中、マティアスも同様に魔力を込める。
その振動で会場はズズズと大きな揺れが巻き起こる。
勝負だ!
俺は自分の中にある全魔力を放出した。
対してマティアスも最大限の魔力を放出する。
ガンと魔力がぶつかり合ったことで振動は更に揺れ上がり、いろんなものが飛び散る。
少しでも力を抜けば簡単に押し負けてしまう。
「ちっ。さすがに重い。だが、絶対に負けられない」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「うわあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はあぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
お互い全力だ。
その魔力は弾け飛んだ。
互角。いや、相討ちだ。
倒し切れなかった。
いや、まだ終わりじゃない。
ここが正念場だ。
「最強は俺だ。お前じゃない」
「いや、お前は最強じゃなく最恐だ」
「!」
「悪役として倒すには惜しかったよ」
マティアスの目が鋭くなった。
更に巨大な攻撃が来る。
だが。
「勝手に終わらせるんじゃねぇよ」
次の瞬間だ。
俺とマティアスの中心に雷が落ちた。
咄嗟に後方へ下り、直撃を免れる。
誰の仕業だ? 次で決めるという時に。
上空を見上げると巨大な生物が浮いていた。
赤いドラゴンが上空を羽ばたいていた。
こいつはニグルか。いつの間にかドラゴンの姿に戻っていやがる。
「ニグル! テメェの仕業か。どういうつもりだ!」
「アクト親分。どうかお許しを!」
「!?」
ニグルは俺を両手で掴んだ。
次の瞬間、大地に向けて火炎放射を放出した。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
会場は火の海に包まれた。
マティアスとの戦いは思わぬ方向へ進んでしまう。
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