2–7 決勝戦その2
リング上で戦うラスカに向けて信号を送るが、気づいている素ぶりが全くない。
直接合図を送るにしてもこの大勢の観客の中から俺を見つけるのは不可能に近い。
「ちっ。参ったな」
気付いていないとしたら察してもらうしかない。
ラスカは集団で攻撃を受けている。
続けるにしてはあまりにも部が悪い。
「我が斬撃を受け止めた奴は初めてだ。だが、次はそうはいかないぞ!」
マティアスは更に力を込めた斬撃をラスカに放つ。
ガガガガガガガッ!
ズズズズズズズズズズズズズズズッ!
防御力に関して絶対の自信があるラスカにその攻撃はまだ届かない。
だが、それも時間の問題。少しずつではあるが、ラスカの防御力が押されている。
ラスカの表情は見えないが、苦しむ顔が想像できた。
「アクト様。このままではラスカちゃんが危ないです」
「分かっている。だが、変だ」
「変?」
「俺の合図が無くともラスカはどこか怪しいと感じているはずだ。俺は無理だと判断したらリタイアしろと念押ししている。だが、リタイアすべき状況にも関わらずリタイアしないのは何故だ?」
「確かに。ラスカちゃんは頭が良いから状況はすぐに飲み込めるはず」
「だろ? 何かリタイア出来ない理由があるかもしれない」
「リタイア出来ない理由?」
「俺にも分からない。だが、一瞬も目を離すな。この戦いにきっと答えがあるはずだ」
「はい!」
一見、ラスカが防戦一方に見える状況だが、勇者たちも打つ手がないのか、ラスカの防御力に手を焼いているようにも見える。
この状況が続けばつまらない戦いになることだろう。
勇者たちは息を切らし始めたのか。攻撃を辞めた。このチャンスに攻撃を仕掛けられないラスカが歯痒い。
守ることしか出来ないのだから。
「ん?」
「アクト様。どうかなさいましたか?」
「いや。今、一瞬変な動きが」
「変な動き?」
「ラスカの手が上がろうとしたんだが、直前で辞めた」
「それってどういう……」
俺は何が起きたのか、リング上を隅々まで視野を広げた。
マティアスがメインでラスカと戦っている一方で二人の動きに注目する。
ルチアとルディ。この二人が何かしているのか?
よく見るとこいつら……。
「そういうことか。分かったぞ」
「アクト親分。どういうことですか?」
「俺の合図は壊れていない。ちゃんとラスカに伝わっていたんだ」
「じゃ、どうして?」
「リタイアする動きをすると強制的に止められるんだ」
「止められる?」
「あいつだ。あの、青髪」
「ルチアって子ですね」
「あぁ。そいつが手を引いている。そして周囲の状況を白髪メガネがあの主人公に合図を送っているんだ」
「でも、どうしてそんなことをする必要があるんですか? 優勝が目的なら相手を降参させた方がいいのにわざわざそれを止めるって矛盾しているような気がしますが?」
「確かに降参を意図的に止める意味はない。だが、勇者の目的が別にあるとしたら?」
「別?」
「リタイアさせないってことはラスカを徹底的にぶっ倒すってことだ」
「なんでそんなこと?」
「バレているかもな。ラスカは悪役だってことに」
「それって……」
「悪役に降参させず徹底的にやるってことさ。それがあいつらの目的かもな」
「じゃ、今の状況ってかなりやばいのでは?」
「そういうことだ」
「早く助けないと」
「そんなことは分かっている。今、最善の手を考えているから黙っていろ」
俺はレミリアに冷たく当たってしまった。
リタイア発言を封じられているってことはつまり場外に落ちることも封じられているってことに違いない。
言い換えれば勇者はラスカを実力で負かしたいってことだ。
「お前。なかなかやるな。俺の攻撃をここまで受け止めた奴は初めてだ。だが、次で本当の最後だ。覚悟は出来ているだろうな?」
マティアスは剣を収めた。諦めた? いや。
手をかざして途轍もないエネルギーが集められている。
徐々に光の玉が大きくなり、太陽のようにメラメラと燃えていた。この魔力……まともに当たれば死ぬことは俺でも容易に分かる。
ラスカの全防御力をぶつけても押さえ込むことは不可能だ。
「くっ! こうなったら……!」
応戦しようとラスカは防御結界を貼ろうと手を翳すがうまく発動できない。
手が少し震えていた。
「どうしたの? ラスカちゃん」
「おそらく魔力が切れたんだ。これまでずっと連続攻撃を浴びせられたんだ。無理もない。今のあいつは無力だ」
このままではラスカは死ぬ。
だが、今この場で飛び込めば俺の計画が全てパーだ。
「終わりだ。謎の選手、ニグルよ」
巨大な玉がラスカに向かって放たれた。
「いや! ラスカちゃん!」
「ラスカ! 逃げて!」
レミリアとニグルは泣き叫ぶ。
ちっ。考えている余裕はない。
俺は一瞬で観客席からラスカの前に移動した。
もう、どうにでもなれだ!
ザザッン。
巨大な玉を片手で受け止めた。だが、それも一時的だ。
「アクト師匠?」
ちっ。流石の俺もこの玉を受け止め切れない。
俺は上空へ弾き飛ばした。
その瞬間、ドカーンと大きな爆発と共に轟音が耳元に響いた。
ドドドドドドドドッガガガガガーン!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……シュー……ッ。
「よぉ。弟子! 怪我はねぇかよ」
「アクト師匠!」
怖かったのか。不安だったのか。
ラスカは大粒の涙を流して俺に抱きついた。
「分かったから離れろ。こら」
派手に登場してしまったが、弟子を守る為だ。このまま弟子を死なせてしまえば師匠失格だ。
「どう言うことでしょうか。突如、乱入者が現れた! 彼は一体、何者でしょうか」と司会者は俺の登場に疑問を浮かべる。
「貴様! 何者だ?」
ラスカとのやりとりの最中、マティアスは言う。
「よう! 主人公。俺はアクトレータ・ボルゾイ。俺もテメェに聞きたいことがある。今、こいつを殺そうとしただろ?」
「悪役は例外なく殺す。それが俺に与えられた使命だ」
「なるほど。やはりこいつが悪役だと見抜いていたか」
「当然だ。どうやってこの大会に忍び込んだか不明だが、どうやらお前が手を引いていたようだな」
「ご名答。流石、主人公様だ。だが、仮に俺がお前の攻撃を弾かなかった場合、こいつは死んでいたが、周りにいる人も巻き込むことになっていたが、それで良かったのか? ヒーローが無闇に人を殺すのはどうかと思うが?」
「確かに多くの犠牲を出していたかもな。そこは反省している」
「随分、素直じゃないか」
俺が登場したことで別に状況が有利になったわけではない。
むしろ不利になったと言える。
悪役と見抜かれた今、敵はこの会場にいる全ての人物だ。
逃げ出さなければならない状況は分かっているが、俺は踏み止まった。
ラスカを殺そうとした主人公の恨みと戦いたい欲が俺の中で支配していた。
目の前の主人公をこの手でぶっ倒してやりたい。
「アクトレータと言ったな。貴様が悪役の親分としたら俺はこの手で貴様を葬らなければならない」
「奇遇だな。俺もお前を全力でぶちのめしたいと思っていたところだ」
ニヤリと俺とマティアスが笑ったことが合図となって戦闘が始まった。
主人公と悪役ヒーローの戦いが今、現実となっていた。
「さて、おっぱじめようじゃないか! 主人公!」
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