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2−5 打ち合わせ

 

 ラスカ、レミリア、ニグルと囲んで俺は飯屋で肉を頬張っていた。


「ニグルちゃん。兎にも角にも、決勝進出おめでとうございます」


「ありがとう」


「ちっ。それくらいで喜ぶな」


「もう、アクト様冷たい。まぁ……そこが魅力的なのですが」


 レミリアは何を言っているのだろうか。

 グサッとフォークで肉を突き刺した俺は雑に噛り付いた。


「時にニグル」


「は、はい……アクト親分」


 俺の貫禄ある雰囲気にニグルだけではなくレミリアとラスカは固唾を飲み込む。


「お前、今日のあの試合は何だ?」


「な、何と言われましても……」


「勘の良い奴が見れば間違いなく怪しむ。あの火力は普通ではない。お前は人間の姿をしているが、実際はドラゴンであることを忘れるな。ドラゴンは勇者にとって宿敵な存在だ。もしドラゴンだと悟られたら敵を無数に作ることになる。そうなったら最後、俺の計画が大きく狂ってしまう」


「はい。申し訳ありません。アクト親分」


「だが、済んだ話だ。次から気をつけてくれたら問題ない」


「アクト様。優しいですね」と耳元に囁くようにレミリアは言う。


 全然そのつもりはない。勘違いばかりするんじゃねぇ。

 俺はただこれ以上言っても無駄だと判断しただけだ。


「それよりも明日の試合だが」


「はい。勿論気を付けます」


「いや、ニグル。お前は降りろ」


「降りる? どう言う意味ですか?」


「お前はこれ以上、戦う必要がない。ラスカ、お前がニグルの変わりに出場しろ。仮面とマントをすれば入れ替わっていても分からないだろう」


「わ、私ですか?」


 急に振られたラスカはキョトンとした顔である。


「待って下さい。アクト親分。私はまだやれます。お願いです。私にやらせて下さい。私はまだまだやれるんです。どうか私を見捨てないで下さい」


 涙ぐむようにニグルは訴える。


「ちっ。勘違いするな。別にニグルが戦力外とかそんなことを言っている訳じゃない」


「どう言う意味ですか」


「もう一度初心に戻ってみろ。俺たちがこの闘技場に参加した理由は優勝じゃない。偵察だ。優勝すれば多くの特権が得られるが、勇者ではない俺たちにとってその特権は無意味だ。勇者ランクの格上げや多額の賞金なんて別に欲しくない。俺たちの目的は最強勇者の力量を測って討伐する。それをよく心得ておけ」


「は、はい」


「ところでどうして私なのですか」と、ラスカは疑問を投げかける。


「ニグルは攻撃タイプ。集団を一掃するには手っ取り早いが、相手の力量を測れないのが難点だ。それに加えてラスカは防御タイプ。敵の力量を測る相手としては有力候補だ。これはお前にしか頼めない。頼めるか? ラスカ」


「アクト師匠がそこまで言うなら断る理由はありません。ドーンとお任せ下さい」


 自信満々に言うラスカに対してレミリアは浮かない顔をしているのが気になった。


「レミリア。どうした?」


「アクト様の考えは私も納得です。でも入れ替わりはうまくいくでしょうか? いくら顔や体を隠しているとはいえ、ちょっとしたことで見破られないでしょうか?」


「確かに隠しているとはいえ、ラスカの低い身長では違和感があるな。常時宙に浮くことはできるか?」


「それくらいなら問題ありません」


「よし。後、呉々も妙な動きはするな。例えば仮面を剥いだりされないように。それと万が一、どうにもならない状況に陥ったら迷わず降参しろ」


「どうにもならない状況?」


「決勝に進んだ青髪は妙な力を使う。無理だと思ったら降参しろ。それと俺が独断で無理だと思ったら合図を送る。その時はすぐに降参するんだ」


「わ、分かりました」


「さぁ。明日に備えて食べておけ。特に肉だ!」


「はい」


 俺たちはいつにも増して豪遊していた。

 この時だけ店では俺たちの存在が目立っていたかもしれない。


 ただ、喉に小骨が刺さったような歯がゆい感じが拭いきれなかった。

 このモヤモヤは一体なんだ?

 妙な胸騒ぎがしてならない。


 最強の勇者パーティーが目の前にいるからだろうか。

 それともまた違った何かが俺のすぐそばで迫っているのだろうか。

 その存在を知り得ることは出来なかった。


 宿に戻った俺は一人、窓の外を見上げて呆然としている時だ。


「眠れないんですか。アクト様」


「レミリア」


「私も眠れないんです」


「そうか。明日は早い。寝られる時に寝ておけ」


「それはアクト様にも言えることじゃないんですか?」


「それもそうだな」


 ジッと視線を感じた俺はレミリアに視線を向ける。


「何だよ。人の顔をジロジロ見やがって」


「いえ。少し前までは素直な感じではなかったのですが、今は素直になったなって思って見ていました」


「別に俺は何も変わらない。昔も今もこれからだってずっと一緒だ」


「そんなことありません。アクト様は少しずつ変わっています。勿論、良い方向へ」


「そうか?」


「私、変わった理由が分かりますよ」


「何だよ。変わった理由って」


「えへへ。それは私たちと出会ったことです。一人でいるよりも私たちと一緒にいることでその変化は感じられます」


「まぁ、そう言うことにしといてやる」


「もう、アクト様はそういう時だけ素直じゃないんだから」


「レミリア」


「はい?」


「いや、何でもねぇ。俺に構わずもう寝ろ」


「一緒に寝てくれませんか?」


「何?」


「人肌が寂しいと言いますか。添い寝をしてくれるだけでもいいんです。ダメですか?」


「…………ちっ。勝手にしろ。俺はもう寝ることにした」


「では私も勝手にさせてもらいますね」


 レミリアは俺の横に身を寄せた。

 スーと鼻息を立て始めた。


 普段、一人で寝ている分、人の気配が眠気を遮ってしまう。

 こいつらといると思った通りにならないことが多々あるが、別に悪くない。

 それもそれでありだと諦めた。


「アクト様……」とレミリアは身を寄せた。


 誘っているのか。誘っているなら悪党の俺は容赦しないぞ。


 やるなら徹底的にやる。後悔してももう遅い。

 俺はレミリアの肩を掴んだ。


「お前が悪いんだからな。レミリア」


「アクト様?」


 成るように成ると俺は欲望のままレミリアに覆い被さった。

 それから朝まで激しく性欲をレミリアに向けた。

 俺は紳士になんてならない。だって極悪人の悪役だから。





 そして翌日。

 俺は再びヒーローが集う闘技場に身を隠し潜入することになる。

 決勝戦が始まろうとしていた。


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