2−4 闘技場その2
試合開始早々、多くの参加者の脱落により観客はどよめいていた。
事故か、トラブルかその真実を理解できないものがその会場を占めていた。
だが、それらは全て一人の少年による実力であることは見抜いている。
「さぁ、もっとその強さを見せてみろ。主人公」
会場が混乱している隙もなく少年は場外を免れた参加者に向けて追い討ちを掛ける。
「終わりだ!」
勇者の剣を抜いた少年はたった一振りで残りの参加者を一網打尽にする。
斬撃の刃が襲いかかる。
「グワァァァァ!」と参加者の奇声と共にリングで最後まで立っていたのは少年だけだった。
「決着! Aブロック予選通過を果たしたのは本日、初参加。マティアス・ジェファード選手だ!」
決着が付いた瞬間、会場は精鋭な拍手と歓声が巻き起こった。
「良かったですね。このブロックにニグルがいなくて」
「あぁ。もし、ニグルがいたらやられていただろうな」
「アクト様。そんなに彼は強いんですか?」
「あれはチートだ。マティアス・ジェファードか。その名前、覚えたぞ」
勝ち抜いたにも関わらずマティアスは全然嬉しそうではない。
むしろ、当然といったような「また俺、何かやっちゃいましたか?」と言いたいような涼しい顔をしている。
主人公としての余裕だろうか。その余裕顔を一瞬で地獄に叩き落としてやりたい衝動になりながら俺は感情を殺した。
第一候補を見つけた俺は満足だ。奴とは必ず勝負することになるだろう。
「さぁ、引き続きましてBブロックの試合に移りたいと思います。参加者の入場です。総勢三十二名の参加者だ!」
Bブロックの参加者の中にもニグルの姿はない。
ニグルの活躍は後半戦になるのだろう。
目新しい選手がいるのか、参加者を見渡す。
「アクト様。あの子、女の子が参加していますよ」
レミリアの視線の先に写るのは青髪の美少女だ。
水色を基準としてヒラヒラした格好が注目する。
勇者パーティーに居れば間違いなくメインヒロインを飾れる絵になるような女の子だ。
この強さの頂点を決める闘技場に参加するのが不似合いである。
「何かあるな。あの女」と、俺はその美少女に注意した。
そして注目のBブロック予選が始まろうとした。
「さぁ、場外に落とすか降参させるまで続けられる今闘技場。まもなく試合開始です」
緊迫の中、ゴーンと試合開始を告げる鐘が会場全体に響き渡る。
先ほどのAブロックは無鉄砲にただ中央に突っ込むだけの者が多かったが、Bブロックの参加者は開始の鐘が鳴ってもその場を動こうとしない。
様子を窺っているのだろうか。
下手に動くと狙い撃ちにされることを警戒しているのだろうか。膠着した状態が数秒続く。
観客として見ている分では退屈な瞬間でもある。
さぁ、最初に行動する者は誰だ。
「はい! 注目!」
行動ではなく声を発したのはあの青髪美少女だ。
その甲高い声が参加者全員の注目を集めた。
「皆さん。私、戦うのが嫌なのでおとなしく降参してくれると助かります。勿論、タダとは言いません。今、この場で降参をしてくれた人には今夜だけ私と良いことをさせてあげます。制限時間は十秒。はい。十、九、八、七……」
青髪美少女は勝手に提案して勝手にカウントダウンを始めた。
当然、参加者たちは迷いを見せる。
バカか。そんな単純な嘘に誰が引っかかるというのだろうか。
「ギ、ギブアップ!」
一人の参加者が手を上げてリタイアを宣言した。
それに続くように次々とリタイアする者が後を絶えなかった。
素直というよりもただの変態集団にしか見えない。
「……二、一、〇。はい。今、ギブアップ宣言をしてくれた人には感謝します」
青髪美少女はカウントダウンを打ち切った。
「なぁ、約束はキッチリ守ってくれるんだろ? 俺が最初だぞ」
「何を言っているんだ。俺だ!」
「いや、俺に決まっている!」
「なんだと!」
リタイアした者同士で激しく口論した。
そんな姿を見た青髪美少女は言い放つ。
「誰があんたらと約束を守りますかっていうのよ。本当、男って単純ね。バカ丸出しじゃない」
本性を現すように青髪美少女は面白おかしく笑う。
騙されたと気づいた時にはもう遅い。
「だったらリタイアは訂正だ」
「申し訳ありません。一度リタイアを宣言した者は再度、参加することはできません。退場をお願いします」
司会者の男は言う。
「失格でもなんでもいい。あの女、絶対に許さない!」
騙された男たちはルールを無視して青髪美少女に攻撃を仕掛けた。
「仕方ありませんね」
パチンと司会者の男は指パッチンをする。
それと同時に警備隊が乱入して失格となった参加者を次々と追放する。
「放せ! あの女だけは絶対に許さない!」
失格者の遠吠えが最後まで響く。
リングに残ったのは青髪美少女を含めて残り五人だ。
よくもまぁあんな単純な嘘でここまで人数を減らしたものだ。ある意味尊敬する。
「あなたたちも出来ることならこの場でギブアップをしてもらいたいんだけど、どうかな? サービスしちゃうんだけど」と、青髪美少女は胸をチラ見せする。
完全にハニートラップを仕掛けている。
「バカめ。俺たちは誰もギブアップなんかしねぇよ。覚悟はできているだろうな? 女」
反感を買ってしまったのか、青髪美少女対四人の構造がリング上でできてしまっていた。
あれだけ多くの人を騙したのだ。反感を買うのは無理もない。
残ったメンバーはそんな誘惑に飲まれたい者だけだ。さぁ、どうする?
「仕方がない。人数が減ったおかげでやりやすくなったからやりますか」
「吠え面掻くのも今のうちだぞ!」
四人が青髪美少女に突っ込んだその時である。
青髪美少女はニヤリと口元が笑った。
来るか。何が?
ゴゴゴゴゴゴッ!
ズズンッッッ‼︎‼︎
「う、うわあぁぁ!」
四人の参加者は何故が宙に浮く。
バタバタと身体を動かすが全く言うことが効かない。
青髪美少女は人差し指を立てて指先に力を込める。
ブァンとオーラのようなものが見えた。
「その高さから落下したら無事で済まないけど、どうする?」
「こ、降参だ。ギブアップ」
全員がギブアップ宣言を確認した青髪美少女はゆっくりと参加者を地上に降ろした。
「決着! Bブロック予選を通過したのはルチア・ミルルクだ! おめでとうございます」
青髪美少女の一人勝ちが宣言された。マジで勝ち残りやがった。
「アクト師匠。今のって何ですか?」とラスカは聞く。
「おそらく操作系の能力者だろう。操り人形のような類だ。口だけの女と思ったが、しっかりとそれなりの実力はあるみたいだな」
珍しい力を使いやがる。正直相手にしたくない。
ルチア・ミルルクか。こいつも要注意人物の一人だな。
俺が戦うとしたらどうやって倒すか悩ましいところだぜ。
さぁ、残すとことはあと二ブロック。どんな強敵が現れるか楽しみで仕方がねぇ。
「決まった! Cブロック。激戦の中、最後まで勝ち残ったのはルディ・シァーだ。おめでとうございます」
Cブロックを勝ち抜いたのは白髪メガネの魔導師の女だった。
巧みな魔法攻撃で次々と参加者の制圧をしてやっとの思いで勝ち抜いたところを見るとギリギリだったのだろう。余裕で勝ち抜いた前の二人と比べれば少し実力に欠けるところだ。要注意人物とまではいかないが、名前くらいは頭に入れといて損ではないだろう。
「結局、ニグルは最後のブロックですね。もう、今から私、心配です」
レミリアは俺の裾を掴みながら言う。
「まぁ、大丈夫だろう」
「心配じゃないんですか?」
「あいつは強い」
「そうですね」
Dブロックの選手が続々と入場する。
その中に黒マントにカラスの仮面を被ったニグルの姿があった。
その見た目はまさに悪役そのもの。いい感じに仕上がっている。
ニグルは俺の方を見て手を振った。
バカ。いちいち手を振るな。
Dブロックの選手には目新しい選手はいない。
つまりチートスキルを持っていそうなヤバいやつはいないと言うわけだ。
「それではDブロック。最後の予選を開始します。それでは始め!」
参加者が一斉に奇声を上げて突っ込む中、ニグルは足場を強く踏み込んだ。
「面倒なので一気に片付けて上げましょうか!」
何だか嫌な予感がする。
「火炎放射爆発!」
口元から高威力の火炎玉一気に炸裂した。
その攻撃により参加者ならぬリングを吹き飛ばした。
圧倒的な火力により立っている人物は誰もいない。
完全に人間業ではない。まぁ、ドラゴンの力なので無理もない。
しゅー……と煙が蒸発して跡地と化していた。
「け、決着! Dブロック進出はニグルだ。し、しかしこれは本当に人間業なのだろうか。少し疑問を持つ戦いでした」
司会者に怪しまれはしたが、無事に各予選は終了した。
「決勝戦は翌日になります。それではまた!」
翌日か。ある意味助かった。
連戦で戦う前にニグルと少し打ち合わせがしたかったので丁度いい。
「さて、ニグルと合流して飯でも食べよう」
「はい。アクト様」
会場を後にして俺はニグルと合流した後、飯屋に直行した。
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