2−3 闘技場その1
勇者がランクアップを図るため、様々な施設が用意されている街。
その名は『エルグランド』
ここではダンジョンや闘技場が設立されており、多くの勇者が集う街として有名である。つまり実力があり、強い勇者が確実にいる街だ。俺にとって倒し甲斐のある勇者がいるのは好都合。
「悪役が存分に発揮されそうですね。アクト師匠。早速、マントと仮面の準備を」
着替えを始めようとしたラスカの手を俺は止めた。
「いや、待て」
「アクト師匠?」
「街に入る時は勇者として入る」
「勇者? つまり素顔のまま入るってことですか?」
「あぁ。最初から悪党として入ると無数に敵を作ることになるからな。まずは勇者と同じ目線に立ってタイミングを測って悪党として勇者を討伐する」
「なるほど。敵を欺くための作戦というわけですね」
「そうだ。まずは街の仕組みを知ってタイミングを見て勇者を討伐する。いいな? お前ら」
「「「はい!」」」
変装をしなければ俺たちは普通の勇者パーティーに見えた。
普通の状態で悪党に見えないというのも変な話ではあるが、潜入する時は楽なので助かる。
勇者が集う街はどこか優遇されているのか、建物も人も多く充実している。
道も植物も人の手が行き届いており、多くの税金が投資されている感じが窺える。
逆に魔王城付近は無法地帯で一銭も掛けられていないほど天と地ほど優遇されている。
さすが、勇者様といったところだろうか。
年中無休のお祭りでもやっているのかと思うほど、賑やかなところが鼻に付く。
「いるいる。勇者がそこら中にウジャウジャしてやがるじゃないか。思わずぶっ飛ばしたくなりそうだ」
「見てください。アクト様。大きな建物があります。あれは何ですか?」
レミリアは俺の手を引いた。
「あれは多分、闘技場だな」
「闘技場?」
「力に自信がある者が参加して頂点を極める大会だ。俺も聞いたことはあるが、見たことはない」
「面白そうですね。私たちも参加してみますか?」
闘技場で勇者の力量を測るには丁度いいのではないだろうか。
だが、レミリアが参加したら速攻で敗北してしまう。
ラスカは防御に厚いが、それで勝ち抜けるほど甘くもないだろう。
だとしたら候補として有力なのはたった一人しかいない。
「よし! ニグル。お前が参加しろ」
「わ、私ですか?」
「三人の中でパワータイプはお前の他にいない」
「それを言うならアクト親分は参加しないんですか?」
「俺は最後の砦だ。まずは敵の強さを図るためにはニグルの偵察が必要になる。頼めるか?」
「勿論です。アクト親分のためならお安い御用ですよ」
「よし。参加する時は顔と体は隠すんだ。呉々もドラゴンの姿になるなよ」
「はい。わっかりました!」
気が大きくなったニグルを余所に俺はラスカに声を掛ける。
「ラスカ。ちょっと頼みたいことがあるんだが」と耳打ちをする。
「はい。どうしたんですか。アクト師匠」
内緒話のようにコソコソを俺はラスカにある指示をした。
「あぁ、そう言うことですか。分かりました。すぐに済ませてきますね」
「あぁ、頼んだ」
一時的にラスカと別行動をした後、再び合流した俺たちはラスカを闘技場への参加手続きを済ました。
受付を済ました後、ニグルを控室まで見送って俺はラスカとレミリアと共に観客席に腰を下ろした。
「アクト様。ニグルは大丈夫でしょうか」
レミリアは不安の声を漏らす。
「レミリアもあいつの強さを知っているだろう。簡単にやられるやつではない」
「アクト師匠。レミリアの心配はやりすぎないかということだと思います。下手をしたら死人が出るかもしれません」
「そこは念を押している。いくら俺でもこの会場にいる全勇者を敵に回すと面倒だからな。最悪負けても構わない。ニグルの役目は敵の強さを把握すること。目的がブレなければ大丈夫だろう」
ニグルを参加させたのは勇者の実力をこと細かく分析すること。
より強い勇者を定めるためには第三者目線で観察することが大事である。
ニグルはそのテスト要員としての参加だ。
そして俺は高みの見物だ。
さぁ、どんな勇者が集まっているのだろうか。
ドンッ! ドンッ! と、空に打ち上げられた空砲により開会式が幕を開ける。
闘技場の中心で司会者と思われる男が登場を果たす。
「皆様。ご来場頂き、誠にありがとうございます。これより、当闘技場のルールを説明したいと思います。試合はバトルロワイアル方式を採用しており、最後まで残った一名がトーナメント進出となります。AブロックからDブロックまで参加者はランダムに振り分けられており、各ブロックの四名による決勝トーナメントが行われます。予選ではリングによる場外、降参で最後の一名になるまで戦い続けてもらいます。尚、死人を出した者はその場で失格となりますのでご注意を。さて。堅苦しい説明は以上としてまずはAブロックの選手、総勢三十名の参加者に入場してもらいましょう。どうぞ」
ゾロゾロと参加者はリングの上に登り始める。
腕に自信がある力自慢がこぞって参加していた。
「ニグルが居ませんね。別のブロックでしょうか?」
「アクト師匠。目新しい選手はいますか?」
俺は参加者の顔を隅々まで目を通した。
その中で一人、気になる奴がいた。
「あいつだ」
「あいつ?」
「黒髪でパッとしない少年」
「あの人が強いんですか?」
「おそらく転生者だ」
「転生者?」
俺と同じで異世界に転生されて勇者の職業を与えられた勝ち確が約束された主人公だ。
おそらく何かのチートスキルを手に入れた奴に違いない。
緊張が全く感じられず、どことなく余裕の顔をしているところを見ると十中八九、女神から優遇された主人公であることが窺える。
「まぁ、あいつを注意して見てみな。一瞬で勝負が決まると思うぞ」
「アクト様がそう言うなら凄い人なのですね」
ラスカとレミリアは半信半疑で俺が目を向けた少年に注意を向けた。
チートスキルがどんなものなのか、この目で見させてもらうぞ。主人公。
「さぁ。場外負けか降参されるまで続けられるバトルロワイアルAブロック。まもなく試合開始です」
ゴーンと鐘が響いた瞬間、試合の幕が開ける。
「うおぉぉぉぉぉ!」と試合開始早々、腕に自信がある参加者たちは中央に向かって駆け出した。
観客からも声援が響き、闘技場は活気を見せた。
さぁ、どう出る?
次の瞬間である。
参加者たちは中心に向かったものから次々と吹き飛ばされて場外へ落とされる。
開始数秒でいきなり多くの脱落者が出てしまった。
「おおぉぉっと! どう言うことか! いきなり参加者が吹き飛んだぞ。一気に二十一名が脱落だ! 一体、何がどうなっているのか私の目では捕らえられません」
会場は一変、ざわめきを始める。おそらく司会者同様に何が起こったのか分かっていない様子だ。だが、俺の目は誤魔化せられないぞ。
「ラスカ。見えたか」
「はい。バッチリと」
「え? え? 何を見たって言うんですか?」
レミリアは見えていないようだが、ラスカはその姿をハッキリ捕らえていた。
勝手に参加者が足を滑らせて吹き飛んだ訳ではない。
あの注意を払っていた少年の仕業だ。
参加者が中央に突っ込む直前、あの少年は足元に向かって何百回も回転させて風圧を作り、弾き飛ばした。あの一瞬で百三十六回も回転を加えたのは俺ぐらいしか見えなかっただろう。
ギリギリ場外を免れた数人を残して一瞬で勝敗を決めたあたり、かなり実力は上と見た。
「いいねぇ。強い勇者はこうでなくっちゃな」
観客で座っているのが勿体無いくらい好物件の勇者を見つけてしまった俺は感情を抑えるのがやっとである。
さぁ、もっとその強さを見せてみろ。主人公!
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