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2−2 実験


 勇者がランクアップを狙う街を目前に俺たちは宿へ数日の宿泊をしていた。

 宿としては小汚く好んで入るのに抵抗を覚える。


 だが、周辺にはここしか宿がないので仕方がなく入るようなものだ。


「ここ数日、私たちが泊まってから全然勇者の宿泊がありませんね」と、ラスカは不安を漏らす。


「勇者どころか私たち以外、客が入っていないような気もしますが」とニグルが欠伸をしながら言う。


「流行っていないですよね。ここ」


 レミリアも同様な不安が出る。


「おい。勇者が疲れを癒す宿って本当にここか? 流行って無さすぎだぞ。このボロ宿」


「シー! アクト様。オーナーに聞こえたらどうするんですか?」とレミリアは俺の口を塞ぐ。


「別に聞こえても問題ないだろう。どうせ事実だ」


「それもそうかもしれませんが」


「ちっ。待つのは好きじゃねぇ。今日来なかったらこのまま次の街に乗り込むか」


「そうですね」



 期限を決めた俺は来るか分からない勇者をただ待つだけの時間を過ごした。

 いつの間にか眠りに落ちていた俺はレミリアの声で目を覚ますことになる。


「おはようございます。アクト様。起きて下さい」


「あぁ? 何だよ」


「勇者が来ましたよ」


「何?」


 俺は思わず起き上がったことにより、レミリアと頭がぶつかってしまう。


「……!」


「悪い。大丈夫か?」


「大丈夫です。私、石頭ですので。それより勇者」


「そうだった。どこにいる?」


「隣の部屋ですよ」


「何?」


 ギロリと壁の奥にいる勇者に目を向ける。


 笑い声が聞こえ、宴会のように盛り上がっている。完全に気が緩んだ気配がこちらにも伝わって来る。

 呑気なものだ。すぐ隣で悪役が潜んでいるとも知らずに警戒を解くとは倒してくれと言っているようなものである。


「敵は?」


「三人組で構成された勇者パーティーです。年配の勇者を筆頭に霊術士と斧使いで組まれた勇者です。ランクはおそらくCからBと推測できます」


「なるほど。実験相手としては充分だろう。早速、例の作戦を開始しよう」


「それなのですが、アクト様」


「何だ?」


「ラスカとニグルが温泉に行っていまして」


「こんな時に何をやっている。早く連れ戻してこい」


「は、はい」


 レミリアは二人を呼びに部屋を出た。



 呑気に昼寝をしていた俺が言えることではないが、緊張感が足りていないのではないだろうか。


 作戦は至ってシンプル。

 仮面で顔を隠した三人が緩んだ勇者に攻め立てる。

 不意打ちを打った直後、敵の大事な物を奪い取る。


 武器や金目のモノ。何でもいい。勇者パーティーにとって大事なモノを奪い取ることに意味がある。そのあとは俺の圧倒的な強さを見せつけたあと、一人を残して強い勇者を呼んでもらう。


 そうすることにより俺の前には勇者が無限に訪れる訳だ。

 こちらから出向くと言うより向こうから来てもらった方が、遥かに効率がいい。

 俺の異名が広まれば出向く手間が省ける。


 隣で呑気にしている勇者は最初の実験台として動いてもらう。


「ふぅ。良いお湯でした」


「店はボロでも温泉はマシですね」


 体が湯気で蒸発したラスカとニグルが部屋に戻って来た。


「お前ら。呑気に風呂なんか入ってんじゃねぇ」


「そう言うアクト師匠だって寝ていたじゃありませんか」


「まぁいい。すぐに準備をしろ。勇者の気が抜けている今のうちに」


 カラスの面を被った三人は出動準備に入った。


 可愛い顔を隠すために作られたその仮面はレミリアお手製のものだ。

 長いクチバシを尊重させた仮面はレミリアのセンスとも言える。


 仮面を被らせたとしても身体を見られた瞬間、女だとすぐに分かってしまうことから俺は三人に黒のマントをそれぞれに羽織らせた。


「様になっているじゃないか。お前らも立派な悪役の一員だな」


「この格好、動き難くてちょっと抵抗あります」


 ニグルは不安を口にする。


「そう言うな。悪事の後にたっぷり食わせてやる」


「本当ですか? ならニグル頑張っちゃおうかな」


 単純な奴ほど子分として扱いやすい。これ以上の子分はニグル置いていないだろう。


「よし。勇者を一網打尽だ」


 正面入り口にニグル。窓の二箇所にレミリアとラスカをそれぞれ配置。

 今、勇者は完全に包囲させている。


 包囲されているとも知らずに部屋から勇者の笑い声が尚も続く。


「よし。突入だ」


 俺が合図を送ると三人の部下は一斉に部屋へ突入した。


「! な、何だ。お前ら。何者だ!」


 笑い声から一変、勇者は警戒体制に入った。


 三人には俺が登場するまで一切喋るなと指示をしてある。


 理由は謎の奇襲を演出するためと声で女とバレないようにするためだ。

 物音が激しく動き、三人が襲撃をしている光景が想像できた。

 さて、あいつらのことだ。そろそろ仕留めていることだろう。


 物音が静まり返ったことを確認した俺は悠々と隣の部屋へ訪れる。


「やあやあ。勇者諸君。俺様がこいつらのボスの……」


 余裕があった俺は部屋に入ると足が止まった。


 レミリアは勇者に捕まり、ラスカとニグルが防戦一方の状況が目に飛び込んで来た。


「申し訳ありません。アクト様」


「ったく。お前は捕まるのが好きなようだな」


「好きで捕まっているんじゃありません。助けて下さいよ」


 油断していたとは言え、仮にも勇者だ。どんな状況でも気を張っていると言う訳だ。


「よぉ。俺の連れが世話になったな。大人しく放して貰おうか。三流勇者さんよ」


「貴様。何者だ。俺たちが勇者だと分かってやっているのか?」


「当たり前だ。俺たちは悪役だぜ? 正義のヒーローをぶっ倒すためにいるんだ」


「なら容赦しない。我々に喧嘩を売ったことを後悔させてやる」


「へへ。その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」


 ガッ! と、俺はリーダーの顔を片手で鷲掴みにした直後、壁に叩きつけた。


 レミリアは囚われの身から解放される。


 リーダーは俺の握力と壁に押し付けられた圧迫から苦しみ悶える。


「ぐ、グワァァァ!」


「リーダー!」


「動くな! 三下供!」


「ぐっ!」


「リーダーの命が欲しければ俺の言うことを聞きな」


「……な、何をしろと言うのだ」


「話が早くて助かる。俺の望みは一つ。俺の悪名を世界に広げろ。とんでもない悪党がいるとな」


「わ、分かった。だからその手を放してくれ」


 俺は手を放した。

 リーダーは痛みに苦しみ、仲間はそれを心配そうに眺める。


「よし。誰か一人選べ。そいつだけ生かしてやる。残りの二人は今、ここで殺す」


「何だと?」


「その方が絶望するだろ? 一人は俺の悪名を広めるために必要だ。だが、それ以外は不要。つまりここで死んでもらう必要がある。さぁ、選べ」


 三人の勇者は黙る。歯をずっと食いしばっている。

 それはそうだ。誰か選べと言われてそう簡単に選べるはずがない。


「手間かけさせるなよ。なら、俺が選んでやるよ」


「その必要はない!」


「……っ!」


 俺は二人の勇者に両腕を掴まれ、床へ叩きつけられた。そしてリーダーは俺の喉元に剣を向けた。


「お前が死ねば誰も死なずに済む」


「アクト様!」


「お前らは動くな。一歩でも動けばこいつは剣を振り下ろす」


 ピタリとレミリア、ラスカ、ニグルは動きを止める。


「不意打ちは勇者らしくないが、お前のような悪党に正々堂々なんて不要だよな?」


「あぁ。勝つか負けるか。それが全てだ」


「あばよ。悪党」


 勇者は剣を振り下ろした。

 三人は目を瞑る。



 ザンッ!



「な……っ!」


 勇者は俺の喉元に振り下ろしたと思ったら狙った先は床だ。


「奴はどこへ消えた?」


 勇者は消えた俺の姿を目で追う。


「勝つのはいつだって俺だ」


 勇者が俺の存在に気付いたその瞬間、首の後ろを掻き切った。

 ズバーンと血が吹き出した直後、仲間の二人は俺の背後に回り、攻撃を仕掛ける。


「遅いな。……遅すぎて」


 スバッと針状の翼を勇者に向けて串刺しにした。


「欠伸が出ちまうぜ」


 勇者の三人はその場で全滅した。

 アクトファミリーの圧勝だった。


「しまった。一人生かすつもりが、全員やっちまったぜ。まぁ、次から気を付ければいいか」


 首をゴキゴキ鳴らしながら俺は反省を口にした。


「アクト様。やられちゃうのかと思ってヒヤヒヤしましたよ」とレミリアは寂しそうに俺に近づく。


「バカ言え。俺があの程度でやられる訳ないだろう」


 勇者討伐の実験は結果オーライに終わった。

 俺の悪名は更に加速しようとしていた。


「さて。行くか。勇者がいる街へ」


「はい! アクト様」



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