1−2 弟子
見つけてくれた人、感謝です。
「……弟子……だと?」
「はい。私はあなたが勇者パーティーを崩壊したお陰で自由になりました。だから私は自由に生きようと思います。そこで私はあなたの強さに惚れ込みました。私を弟子にして下さい。お願いします」
少女は白髪を下げる。一体、何がどうなっているんだ。
冗談じゃない。
「知らねぇよ。大体、何者だよ。テメェ」
「おっと、申し遅れました。私の名前はラスカ・スカーレットです。こう見えて一応、賢者さんなのですよ?」と、ニコリと微笑んだ。
俺に向ける微笑ましい笑顔ほど似合わないものはない。
少女の笑顔が俺には眩し過ぎる。
「聞いてねぇよ。とっとと失せろ」
ラスカと名乗る少女を無視して俺は歩き出した。
だが、ラスカは俺の後ろを小走りに追いかける。
短い歩幅で俺の横を並行に歩こうと必死である。
「待って下さいよ。あなた、アクトレータ・ボルゾイって言うんですね。名前が長いのでアクト様って呼んでもいいですか? それとも師匠とお呼びしても良いですか?」
「付いてくるなよ。俺はお前に興味失せた」
「あなた、強いんですね。私、悪役さんは詳しくありませんが、リーダーが言っていたことって本当なんですか? 魔王の息子でしたっけ?」
魔王という単語が出た途端、俺は苛立ち、足を止める。
「おい。魔王の息子は昔の話だ。それ以上、俺の癇に障ること言うんじゃないぞ」
俺は脅しを掛けるようにラスカに距離を詰める。
この時ばかり、ラスカは怯えているように見えた。
良い顔だ。それが見たかったんだ。
「わ、分かりました。もう言いません。それより私を弟子にすると言う話なのですが……考えてもらえませんか? なーんて」とラスカは動揺しているのか、目が少し泳いでいた。少々無理をしているに違いない。
「弟子なんて雇わねぇよ。賢者か知らねぇが、俺と関わることはやめとけ。おすすめしない」
「どうしてですか?」
「見て分からねぇか? 俺は悪役だ。悪役に弟子は必要ねぇ。お前みたいな良いとこ出身のお子ちゃまとは訳が違うんだ」
「またまた。あなたは悪役ではありませんよ。悪役なら問答無用で相手を殺します。ですが、あなたはそれをしなかった。きっと上には上がいるって言うことを初心者に教えようとしたんですよね? 私の目には誤魔化せませんよ」
バカか。こいつは。
ただ、殺す価値がないから殺さなかっただけだ。優しさのつもりは微塵もない。
「言葉で教えると言うより行動で教えるって言う教訓ですよね? 理解しました。お願いです。アクト様。私の師匠になって下さい。私は本気なんです」
「弟子だの師匠だの何様のつもりだ? お前、見たところ俺の攻撃がノーダメージってことはかなり防御に手厚い力を持っているだろう。それで充分やっていけるじゃねぇか」
「アクト様はそこまでお見通しって訳ですか。はい。私はあらゆる攻撃を無効化する力があります。ですが、無効化するだけでは相手を倒せません。ですから私は攻撃の力を身に付けたいんです。アクト様の破壊の力はかなりの脅威です。どうか私に伝授して下さい」
「教えるつもりはねぇよ」
「なるほど。見て盗めと?」
「そう言う意味じゃねぇよ。勘違いばかりしやがって。もう俺に関わるな」
それでもラスカは俺から離れるつもりはない。
ずっと付いてくる。後ろから付いてこられる圧から俺は振り返って言った。
「おい。いつまで付いてくるんだよ。とっとと失せろ」
「嫌です。私は必ずあなたの強さの秘密を知りたいんです。それが分かるまで離れません」
「……ちっ。好きにしろ。もう知らねぇ」
あれこれ言い返すのが面倒になった俺はそう言い放った。
いつかどこか行くだろうと考えながら俺は俺の目的のまま歩き出す。
いつまでも少女のことを気にしていられない。
日が暮れ始めた頃。
適当に宿を取ってまた明日、適当な勇者を返り討ちにしようと心に決めた。
金はない。だが、俺は悪党だ。悪党は無賃で泊まってやるさ。店主を脅せばいくらでも融通が効くこと間違いなし。俺は落ちぶれた悪だからな。それくらいのことはやってやるさ。
そう心に決めて宿屋へ入店した。
「いらっしゃいませ。ご宿泊のお客様ですか?」
「あぁ、一泊頼む」
「二名様ですね。部屋は何部屋にしましょう」
「一部屋でいいです」
横から俺以外の声が飛んでくる。
後ろを振り向くとラスカの姿があった。
「テメェ。まだ居たのかよ」
「好きにしろって言ったのはあなたですよ。あ、すみません。これ、前払金です」
ラスカは料金をカウンターの上に乗せる。
無賃で泊まろうとしたが、普通の客として対応されてしまう。
流れで同じ部屋に泊まることになったが、ラスカと名乗る少女の素性が未だ謎のまま。
密室の中、俺はラスカと共に一晩過ごすことを余儀なくされる。
「で? お前はいつまで俺の傍にいるつもりだ?」
「そうですね。基本ずっとですよ。弟子とは師匠と行動を共にするものですから」
面倒クセェ。最初に思い浮かんだのがそれだった。
どうやら口で言っても離れてくれないだろう。
一層、力ずくで切り離すことも可能だが、そう言う気分になれなかった。
今はとにかく横になりたい気分だ。
自分の想像した反応を見せなかったこいつに未だに動揺している自分がいる。
「お前、なんで勇者パーティーに居たんだ?」
「やっと私のことに興味を持ってくれたんですね。嬉しいです。私は別に勇者になるつもりはありませんでした。しかし、私の噂を聞きつけたあのメンバーに頼み込まれまして仕方がなく入ったのですが、思ったよりパッとしなくて個々の力が弱いことに気が付いたんです。抜けたいと話したこともあるのですが、なかなか理解してくれず、タイミングをずっと逃していたんです。言ってみれば彼らとの仲間意識は一切ありません。ただ、分け前の半分が私だったのでそれが唯一所属をする理由でした」
「何だ、そりゃ。命を預ける仲間としてどうかと思うぜ」
「アクト様もそう思いますよね。私は信頼できる人と一緒に行動できればそれでよかったんです。魔王を倒すとか大賢者になるとかそんな大きな目標は持っていないんです」
「だが、どうして強さを求める? 俺に弟子入りしたいくらいなら大きな目標があるんじゃないのか?」
「大きな目標はありませんが自立したいんです。私、見た目が弱そうだからある程度の攻撃力を身につけて独り立ちできるくらいの強さは欲しいです。そのためには誰かの弟子になって勉強が必要だと思ってアクト様にお願いをしたんです」
「言っておくが、俺から学べるものは一切ないぞ。俺は悪いことしか出来ない人間だ。誠実な考え方や正しいことは出来ない。期待に添えないことは目に見えている」
「それでも構いません。私がこの人だって思った人はアクト様が初めてです。だから自分の直感を信じます」
「お前が勝手に弟子になる分には何も言わねぇ。勝手に見て勝手に学べ」
「そうさせて貰います。アクト様は何か目的があって旅をされているんですか?」
「目的? んなものねぇよ。あるとすれば俺の強さを証明することだ」
「強さの証明?」
「あぁ。出来るだけ強い勇者を倒して俺が強いことを分からせる。それに尽きる」
「勇者限定ですか?」
「あぁ。俺は悪役だからな」
俺はもう悪役以外の道で生きていくことは出来ない。
生まれながらにしてそういう血筋だ。それは一生変えることが出来ない呪いのようなもの。ならば悪役として進み続けるしかないという訳だ。
「なるほど。でしたら強い勇者の居場所を知っていますよ。力試ししてみますか?」
「本当か?」
「はい。丁度この街でアジトを構えています。悪役の見せ場としては良い場所だと思いますが」
「好都合だ。なら案内しろ」
「いいですよ。弟子として師匠の行く先を導きます」
「師匠ね」
「はい。師匠。私はあなたの力を惚れ込んだんです。何なりとコキ使って下さい」
「付いてくるのは勝手だが、巻き込まれて死んだり助けを求めても何もしてやらねぇぞ。それでもいいなら弟子なり師匠なり好きにしろ」
「オッケーです。交渉設立ですね。アクト師匠」
何もオッケーではないが、今は納得したように見せて時と場合を見て切り離してやる。
そう心に決めた。
悪党にこんな少女の弟子が居たんじゃ示しがつかない。
「ちっ……」
「あれ? ベッドに横になってもう寝るんですか?」
「今日は疲れた。寝る」
「ご飯もお風呂もまだじゃないですか。せめてそれを済ませてから寝ましょうよ」
「面倒クセェよ。明日やる」
「明日やればいいという問題ではありません。ならあーんして食べさせてあげましょうか? あと、身体は私が隅々まで拭いてあげますよ? 弟子として師匠のお世話をするのは当然の務めですから」
「いらねぇよ。余計なことをするな」
「ダメです。悪役でもそこはちゃんとして下さい。それが終わるまで寝させませんよ」
「分かったよ。うるせぇな。自分でやるからお前は何もするな」
「ちゃんとやるのを見張っていますからね」
ニコニコとしながらラスカは俺を監視する。
こう言う意味でも傍に居られると面倒なんだ。
早いうちにこいつをどうにかしないといけないな。
まぁ、利用するだけ利用して切り捨てればそれでいい。
そう、心に刻んだ。
最後までご愛読ありがとうございます。
「続きが読みたい」「面白かった」と思われた方はブックマークと
報告の下にある評価『★★★★★』を押して頂けると励みになります。
モチベーションやテンションの爆上がりに繋がりますので
応援のほどよろしくお願いします!